藤岡幸夫指揮、関西フィル260回定期演奏会 | 作家・土居豊の批評 その他の文章

藤岡幸夫指揮、関西フィル260回定期演奏会

藤岡幸夫指揮、関西フィル260回定期演奏会


http://www.kansaiphil.jp/modules/concert/index.php?content_id=692

本当に久しぶりに、大阪のザ・シンフォニーホールでの演奏会に行きました。
シンフォニーホールは、運営母体が朝日放送から変わって、その後、どうなることかと案じていました。

※参考ブログ
http://ameblo.jp/takashihara/entry-11208197361.html

しかし、今回、久しぶりにこのホールの「残響2秒」を味わって、やはりここは得難い音楽体験のできる素晴らしいホールだと、改めて思いました。
最寄りのJR環状線福島駅では、これから聴くシベリウスの交響曲を思わせるような、重厚な色彩の夕焼けがみえていました。




駅を降りて、ホールへ歩く道すがら、かつてなじんだ懐かしいお店が閉店していたり、ホール裏手にあったホテル・プラザがすでに取り壊されて、広大な空き地になっていたり




けれど、ホールの前の公園には黒猫がいたりして、やはりロケーションのいい会場だなあ、と思いました。






この演奏会はシベリウス・チクルスで、メインはシベリウスの交響曲第4番でした。



筆者もシベリウスの交響曲は愛聴していますが、4番は、めったにCDでも聴いていませんでした。
けれど、以下の、藤岡さんのブログによる解説を読むと、もっと身を入れて聴きたくなりました。


http://www.fujioka-sachio.com/fromsachio/fromsachio.htm#fromsachio20141008-Sibelius-Symphony4
(2014/10/8「シベリウス交響曲第4番」の話 より)
「暗黒期(1908~1911)と呼ばれるこの時期の傑作が交響曲4番でシベリウス自身「心理学的交響曲」と呼びフィンランドの音楽ファンにとっては聖書とも言われている。無駄な音が全く無く斬新な和声の響きとオーケストレーションの室内楽的とも言える交響曲だ。
(中略)
今から30年前渡邉暁雄先生に弟子入りしてすぐ、「将来ボクの葬式でさ、3楽章指揮してね」と4番のスコアをプレゼントして下さったがその4年後僕がデビューする前に先生は天国へ行ってしまい実現しなかった。」


そこで、実演を聴ける貴重な機会となった昨日の演奏会では、しっかりと身を入れて、シベリウスの4番に没入しました。
まず、簡単な印象を書きますと、第1、3楽章の長大な深刻さと、2、4楽章の軽やかさの対比が、とても特徴的でした。
特に3楽章は、指揮者の恩師、故・渡邉暁雄が自らの葬儀に演奏してくれ、と言い残したというエピソードを思い起こし、聴くほどに納得させられました。おそらくは、指揮者自身の強い思い入れがオケに伝染し、重厚で、しかもしなやかな響きを引き出していました。
さらに、筆者がもっとも心惹かれたのは、4楽章の開始後すぐに響き渡るチャイムと、軽やかなオケのメロディーのかけあいでした。
3楽章ではまるで黄泉の国まで引きずり込まれたような気分でしたが、4楽章のチャイムの響きは、天国を思わせます。4楽章のスコアには鉄琴の指定があるのだそうですが、シベリウス自身はカリヨンの間違いとしているのだそうです。今回の演奏のように、チャイムが使われるのは珍しいようで、筆者が聴いたCDでも、鉄琴の演奏でした。
このように、4楽章冒頭では、天上の世界に誘われるのか、と思いきや、やはり現世では魂の救いに至らないのか、あっけないほど、慌ただしいコーダで曲が締めくくられてしまいます。最後の音が消えても、指揮者は、万感の思いを込めて、しばらく指揮台で静止していました。
藤岡幸夫さんのシベリウス・チクルスは、CD収録されて発売される予定とのこと。指揮者にとっても、オケにとっても、記念碑的なチクルス録音になるだろう、と予想できる、今回の凄絶な名演でした。

ところで、
演奏会の前半では、ピアノの萩原麻未さんと共演で、ショパンのコンチェルト第1番が演奏されました。
この日、ピアノの萩原さんの実家が広島土砂災害の地域であることから、萩原さん自身がロビーで募金箱を持って、土砂災害救援のための募金活動をされました。





筆者も若干の募金をしつつ、ご本人に確かめたところ、この募金については、以下の萩原さんのHPを通じて、広島市の募金窓口に寄付されるそうです。
被災地の、一刻も早い復興を願っています。

萩原麻未HP

http://mami-hagiwara.net/

広島市募金窓口↓
http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/0000000000000/1408607160410/index.html

広島県の募金窓口↓
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/60/giennkinn.html

広島土砂災害↓
http://www.mlit.go.jp/saigai/saigai_140819.html



さて、萩原さんのショパン演奏ですが、センチメントに満ち、ノスタルジーを漂わせながら、それでいて、構成感を失なわない、強固な自律性と、溌剌たる自発性を兼ね備えたピアノ演奏でした。
外見が、まるで子犬みたいに愛らしい萩原さんからは、ちょっと想像できないぐらいの高いポテンシャルで、エネルギッシュな打鍵ぶりも随所に聴くことができました。2楽章では、失速寸前までテンポを動かしながら、天衣無縫にメロディを歌い上げていました。
アンコールのショパンのノクターン2番は、土砂災害にあった故郷への思いを込めているのか、祈りに似た緩やかなテンポで、味わい深い演奏となりました。

日本人初のジュネーヴ国際コンクール〈ピアノ部門〉優勝、という華々しい話題で注目を集めた彼女ですが、筆者が今回、実演を聴いた印象では、エレガントさと奔放さをあわせ持った、情熱的なピアニスト、であるように思います。指揮者の藤岡さんもほめていたタッチの繊細さは、ショパンで威力を発揮しましたが、筆者の希望としては、コンクール優勝曲のラベルや、CDで聴けるグリーグのほかに、ぜひラフマニノフを聴きたい、と思います。チャイコフスキーも、もちろん。
きっと、アルへリッチに匹敵するロマンティックで奔放なロシアもののコンチェルトが聴けるのではないか、と、期待しています。
今後の成長がますます楽しみなピアニストです。