作家・土居豊の批評 その他の文章 -3ページ目

没後15年、小川国夫の再評価を待ち望む

没後15年、小川国夫の再評価を待ち望む

 

 

我が師、小川国夫の没後15年をむかえるが、これに関連する出版界や文学関係の動きは特に見られない。なんて寂しいことだろう。私淑していたという贔屓目ももちろんあるが、小川国夫が昭和の文学に偉大な足跡を残したことを否定する文学関係者は少ないだろう。若い頃の小川作品を散々酷評した故・江藤淳がもし生きていたら、相変わらずの難癖をつけていたかもしれないが。小川の晩年、周辺に多数集まっていた作家や先生たちは、15年経つともう、その頃の自分たちの小川国夫への心酔ぶりを忘れてしまうのだろうか。

今年(2023年)は、昭和の作家のメモリアルや関連の出来事が多い年だ。司馬遼太郎と遠藤周作の生誕100年はずいぶん出版界を賑わせている。大江健三郎が亡くなったことも、改めて昭和の文学を振り返る契機となっている。

それに比べて、亡くなって15年の小川国夫の話題が、出版関係や文学関係でさえほとんど語られないことは、あまりに寂しすぎる。

けれど、小川文学が愛読者から忘れられることはないだろうと信じている。それだけでなく、若い読者も、今ひそかに増えつつあるのではないだろうか、と勝手な想像だが考えている。

例えば、以下のような事例を見て、そう信じたくなるのだ。

 

 

※参考記事

ゆかりの文化人探訪 中部3市でスタンプラリー 静岡県立大生協力

(静岡新聞2022.11.7)

https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1146753.html

 

引用《近代文学史に名を残す県中部ゆかりの文化人の関連施設を巡る「するが文化の散歩道スタンプラリー」(静岡市、焼津市、藤枝市主催)が12月11日まで開かれている。県立大国際関係学部の細川光洋教授とゼミ生らが企画に協力。学生が撮影した紹介動画やAR(拡張現実)を活用し、若者を呼び込もうと奮闘している。対象は静岡市の中勘助文学記念館(葵区)と芹沢ケイ介美術館(同市駿河区)、焼津市の焼津小泉八雲記念館、小川国夫が執筆を続けた藤枝市にある郷土博物館・文学館の4館。》

 

 

このような、地元密着の企画を通じて、初めて小川文学に触れる若者が、興味をもって作品を手に取ってくれたら、と願っている。

そういう点では、小川国夫自身の方が、今の旧態然とした文学関係、出版関係よりも先を行っていたともいえるのだ。小川が晩年、勤務した大阪の大阪芸術大学での、若者たちとの交流(というより、これこそ本来の教育であるはずなのだが)、その様子を身近に見聞したことのある私には、そう思えてならない。小川と彼を慕う若者たちの愉快で親密、かつ真剣な日常は、今なお昭和や戦前みたいな権威主義が支配する出版・文学のいわゆる業界人たちよりも、新しい時代の関係性を先取りしていたと思えるのだ。その参考記事として、末尾に筆者の過去記事を再録する。

ところで、手に取りたくても小川国夫の本は書店に売ってないぞ、と揶揄する人もいるかもしれない。だが若い新たな読者よ、ご安心あれ。小川だけではないが、こうやって、電子版で復刻されたものが多数、今は容易に手に入る。

 

 

※小川国夫『マグレブ、誘惑として』

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だから、前回、昨年の小川国夫命日のブログに書いたように、小沢書店版の小川国夫全集が完結しなかったことを、もう文句はいうまい。

 

※参考ブログ

来年で没後15年、小川国夫を読む

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12736290617.html

 

《これほどの大きな存在の作家が、出版サイドの事情でその全集を未完のままに放置されているのは、戦後文学史の研究にとっても大きな痛手であり、もちろん愛読者にとっても残念な現状だ。

没後10年には、主要文芸誌がどれも没後特集を組まなかったという、実に冷たい仕打ちを受けている。小川国夫を評価しないのは文芸誌編集長たちの勝手だが、愛読者はずっと読み続けており、全集が完成していないままでも作品研究は続けられている。

主要文芸誌の版元も、編集長たちも、没後10年の特集をやらなかった不見識を、いずれ後世の文学研究者から指弾されることになるだろう。

そこで、憚りながら提案したいのだが、没後20年を見据えて、小川国夫全集の完結を目指してほしい。どこの版元でも構わないが、できれば大手版元が小沢書店の絶版の版権を譲渡できるよう動いてほしい。

繰り返すが、本来なら、小川国夫全集は、小沢書店ではなく、大手出版社のいずれかから出るはずだったのだ。倒産した小沢書店経営者も、小川全集が未完のままである有り様を、泉下で嘆いているに違いない。》

 

 

とはいえ、本格的に小川文学を読み、研究するためには、やはり体系的な全集の存在は不可欠だ。河出版の選集も小沢版の未完の全集も、その意味で不十分であり、しかもどちらも入手しにくい。

引き続き、大手出版社にはぜひ、小川国夫全集の完成を志してほしい。

例えば、小沢版の全集の残りを補完する形で、後期作品集というような形で晩年の、豊かな作品の数々を全集版としてまとめることはできないのだろうか?

小川本人も語っていたが、小沢版の全集に未収録の作品は、全作品の1/3もある(はず)。

特に、小川文学の中で大きな部分を占めているはずの長編は、なんと全集未収録のものが(未完の『弱い神』を含めて)4作もある。

これでは、小沢版の小川国夫全集をもって研究の底本とするには無理があるといえるだろう。文学研究者の方々、日本文学の大学関係者、出版人たち、どうですか? なんとしても全集完結を目指す必要があるというのが、わかっていただけるだろうか?

 

 

※没後10年の記事

小川国夫の命日に寄せて 小川国夫没後10年・エッセイ「小川国夫のいた風景」

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12366773822.html

 

※筆者の小川国夫に関するブログ

作家・小川国夫の命日(4月8日)によせて

http://ameblo.jp/takashihara/entry-11507605937.html

 

 

 

 

(参考資料1)

小川国夫のスピーチ(2007年9月29日藤枝にて、藤枝市郷土博物館・文学館の開館記念パーティー挨拶)

 

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12797440381.html

 

 

 

(参考資料2)

土居豊の過去記事再録

《小川国夫と学生たち(2001年11月)

大阪芸術大学には作家・小川国夫がいる。そういうことが言えるようになってずいぶんになる。私が在学中には、まだ小川国夫はたまに講演に来るだけだった。今の芸大の学生がうらやましい。

教室での小川国夫は、くつろいだ中にも厳しい視線を学生に向けている。ラフに手編みの黒いセーターを着て、牛乳のパックを手放さない。学生たちは緊張感のある顔つきで、クラスの一人が書いた短編小説を読んでいる。やがて、小川国夫は学生に一人一人意見を求める。

たとえば、一人がその小説の欠点を指摘したら、小川国夫はその指摘に、作者に代わって反論する。

そうして、次の者にまた意見を求める。小川国夫のやり方は、決して学生の作品を否定しない。その作品のよいところを必ず見つけようと、学生と一緒にひたすら読み込む。そういう姿勢を学ぶことで、学生たちは、自分とは異なる創作のあり方を体験することになる。

講義のあと、数人の学生が小川国夫をもよりの飲み屋に引っ張っていく。若い連中に囲まれて、作家は上機嫌である。仕事の話はよそうと言って、たわいもない学生たちのおしゃべりにつきあっている。

学生たちは、大学に入って初めて小川国夫の作品を読んだ者がほとんどである。その中には、すっかり小川国夫の世界にはまって、今はなかなか手に入らない昔の作品を探して古本屋めぐりをする者が何人かいる。そうして入手した本を持ってきて、小川国夫にサインをねだっている。小川国夫は自著にサインするとき、必ず筆で、聖書の言葉を添えたり、その作品からの引用を添えたりする。それらのサインの一つ一つが、学生の心の宝である。

かつて、若い頃、小川国夫はバイクで地中海世界を駆け巡った。その情熱は、今も枯れてはいない。若い連中と飲む酒が、いつまでも現役で書きつづける力となっているに違いない。》

 

映画『シン・仮面ライダー』評 〜 シンライダーはエヴァ実写版のようなものだ

映画『シン・仮面ライダー』評 〜 シンライダーはエヴァ実写版のようなものだ

 

 

観ていてまず笑ったのは、「仮面ライダー」という誰もが知る呼び名が自称であることだ。もちろん原作漫画でもそうなのだが、映画ではライダーという名乗りのイメージがまず、ヒロインのルリ子が本郷猛に巻いてやるマフラーによって示唆される。つまり、仮面ライダーの名付け親は事実上、ルリ子ということになっている。それだけが理由ではないのだが、この映画は浜辺美波演じるルリ子が主役の作品だといえる。なぜなら主要人物がみな、ルリ子に心を救われる展開だからだ。

しかし、これではちょっと先走りすぎなので、まずは鑑賞後の印象に立ち戻ろう。

これは大人のためのライダー映画であり、鑑賞者を選ぶ作品だ。万人受けはしないだろう。だが、それはあらゆる庵野作品の特徴だ。

パンフに書いてあったが、これはまず何よりもアクション映画であり、バイクと変身、生身のバトルを楽しむ作品だといえる。その意味で、同じ庵野作品の『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』とは対極にある映画だ。

まず第1に、アクション映画として成功した要因は、ダブル・ライダー役の池松壮亮と柄本佑が、スタントほぼ無しでアクションも演じている点にある。

これもパンフによると、庵野監督は、二人が仮面をかぶったまま話す場面の、わずかなマスクの動きまで細かく気をつけていたという。細部のこだわりがリアリティを生むという庵野の手法は、「エヴァ」以来変わりない。

本作のアクション映画としての見事さは、素手で人間を殴り殺す際の過剰な血飛沫や打撃音を通じて、暴力の痛みを観客に実感させるところにある。だからこの映画は子どもには見せられないが、思春期から上の人にはぜひ見てほしいと思う。

次に、2つ目の魅力のバイク・アクションだ。どこまで実写でそこまでCGなのかわからないが、バイクの場面でここまでエキサイティングな映画は久しぶりにみた。思い返すと、大昔の映画「マッドマックス」第1作に匹敵するのではないか。筆者はバイクに乗らないが、スクリーンを通じてバイク走行の爽快な気分をたっぷり味わった。後半で、ルリ子が父親のバイクの後ろに乗りたかったという話と、本郷のバイクの後ろに乗った時、背中が心地よかったという話に、バイク乗りの魅力を垣間見る思いがした。

さて、3つ目は変身の魅力だ。

変身シーンはやはり、元々の仮面ライダーファンへのサービスだと思うのだが、パンフによると、変身ポーズに庵野監督からやたら細かいダメ出しがあったというのは、やはり庵野監督の本音が見えて面白い。つまりは、究極のオタクが趣味に徹して作ったオタク映画、ということになるのではなかろうか。

考えてみると、変身ヒーローというのは、初代仮面ライダーが歴史的に最初のものではなかったか? アメコミの変身ものは、正体を隠す必要性からだったように思うのだが、仮面ライダーより前に、ヒーローとしての哲学から変身するヒーローがあっただろうか? 原作の初代仮面ライダーの変身は、モンスターに改造された肉体ゆえに醜く浮き出る顔の傷を隠して、戦士に徹するための儀式のようなものだったと記憶している。

変身ものとしてのテーマ性で、最も気になった設定は、映画中のセリフでさりげなく語られた、ショッカーの改造人間(オーグ)の選ばれ方だ。確か「オタク的な」だったか、「偏った人間」だったか、そういう基準で対象者を選んだと説明されていたはずだ。つまり、本作の改造人間同士のバトルは、オタクVSオタクの戦いをアクションとして描いたことになるのだろうか。

改造人間たちを選ぶ基準がオタク度、変人度だということなら、それこそが「ライダー世界」から「庵野ワールド」への決定的な変化となっている。本作は、庵野ワールドがライダー世界を換骨奪胎した映画、だということになろう。

その上で、本作の最大の見どころは、人間ならざる者たちの愛と友情だ。特に、最初に書いたように、ルリ子がライダーと実の兄のイチロー(ショッカー首領にあたる人物)の心を救う展開には、涙が込み上げた。

この物語展開の背後には、コミュ障や発達障害、ミュータント的異常性を持つ者たちと、「普通の人間」たちとの戦い、という隠れテーマがある。これは、アメコミヒーローもののサイコ性と共通する、普遍的なテーマだ。世間で受け入れられないサイコな人たち、異常扱いされる人たちの悲哀が、仮面ライダーシリーズには通底する。庵野作品にもそれは共通したテーマとなっているため、仮面ライダーのリメイクは実際のところ、ゴジラやウルトラマンのそれよりもっと、庵野作品として肌合いが馴染むのだ。

ついでにいうと、アメコミものと本作を比較するなら、「バットマン」最新作の『ザ・バットマン』(2022年)のテイストに最も近い。ヒーローアクションをとことん生身でリアルにやるとどうなるか、という面白さを追及した描写が、両者に共通する。

もう一つ、「AIが人類を滅ぼす」という、最新の科学的な課題も背後に取り込んでおり、21世紀のSF作品として遜色ない重厚さを備えている点も見逃せない。

ところが、もう一方で面白いのは、仮面ライダーでありながら、主要キャラが庵野ワールドのキャラそのものといえる点だ。オーグ(改造人間)たちは、「エヴァ」の14歳の操縦者たちが大人化したような、不完全で人工的な非人間的存在に見える。

例えば、ルリ子とイチローは、「エヴァ」の使徒のようなもの、つまり綾波レイと渚カヲルに見える。改造人間ハチオーグは、出来損ないのエヴァ操縦者としてのアスカそのものだ。

そしてサソリオーグは、生まれ変わったミサトさんみたいで、ショッカーの博士たちは碇ゲンドウと冬月先生のように見える。もちろん、無作為に選ばれたショッカー隊員たちは、「エヴァ」のNERV職員だ。

しかし、主役としての仮面ライダー二人は、さすがに元のヒーロー像があるため、庵野キャラの何かに当てはめることは難しい。そこが逆に、ライダー二人の存在感の微妙な薄さにつながっているといえる。本作のライダー二人は、主役としては明らかにルリ子に存在感を食われている。本郷とルリ子が並んで歩いているカットで、どうみてもルリ子が主役で本郷は従者だ。

そういう意味で、本作は「エヴァ」の綾波レイが成長してヒロインとなり、二人の従者として仮面ライダー1号、2号を従えて戦う、そういう物語だと考えられる。

本郷とルリ子の関係性はどっちも人間じゃない「怪物」同士の関係性で、もしテレビシリーズなら、エヴァにおける綾波やアスカみたいなヒロインに、ルリ子が成長していく過程が丁寧に描けるに違いない。

映画の最後で「立花」と「滝」という原作準拠の名前が明かされる日本政府の2人だけは、付録、いなくても物語は成り立つ。もう一人、AIの実在端末としてのロボット?「K」の存在は、もちろん「ロボット刑事K」のオマージュであり、本作から他の特撮ヒーローものリメイクへの橋渡しとして、何か続編的な意図を感じる。

最後に付け加えると、この映画はロードムービーでもあり、本郷とルリ子の二人はバイクで移動しながら野宿したりする。改造人間のこのコンビ、本郷は風来坊的に今はやりの「ソロキャン」のキャンプ飯を楽しんでいるのに対し、ルリ子はキャンプ飯を味わうことなくただ「燃料補給」と言い放つ。こういうでこぼこコンビのロードムービーテイストを、さりげなくはさみこんでいるところがまた、非人間存在であるこのコンビの妙な人間味を醸し出す魅力となっている。

もう一つ、蛇足だが、映画冒頭のバイクアクション、トラック2台で車線を塞いで追跡してくることがものすごくリアルで、恐怖を感じる。パトカーを轢き潰して追跡を続けるトラック、これこそ日本のアクション映画の見せ場だろうと思えてくるのだ。

 

 

※参考記事

「シン・ウルトラマン」

映画「シン・ウルトラマン」は、庵野秀明監督実写作品「巨神兵、東京に現る」の完全版か?

(ネタバレします)

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12743684206.html

 

 

 

「シン・ゴジラ」

映画「シン・ゴジラ」を久々に見て、あの内閣は安倍内閣よりよほどマシだと思った

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12396547298.html

福島原発事故のリアルタイム追体験 2011年3月11日から数日間、東京電力福島第1原発事故追体験

福島原発事故のリアルタイム追体験 2011年3月11日から数日間の、東京電力福島第1原発事故の追体験ツィート

 

ここ数年、やってきたのだが、今年、原発事故後初めて、原発再稼働賛成が世論調査で半数を上回り、現・岸田政権は原発政策を2011年以来の大転換に暴走し始めている。

そこで、あの悪夢の事故を忘れないために、もう一度、2011年3月から今でもまだ終わっていない原発事故の恐怖を追体験したい。

 

今回は以下の本をメインにして再構成する。

 

『実録 FUKUSHIMA――アメリカも震撼させた核災害』

デイビッド・ロックバウム ほか (著)

岩波書店

https://www.iwanami.co.jp/book/b262436.html

 

※参考資料

東電テレビ会議

2011年3月12日〜15日

https://youtu.be/IGLvWgosIn0

 

福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録 

https://amzn.asia/d/gHMrYSv

など

 

 

#福島原発事故のリアルタイム追体験

2011年3月11日から数日間の、東京電力福島第1原発事故の追体験ツィート

 

2011年3月11日、14時46分。東日本大震災、発災。地震発生。

東京電力福島第一原発、外部電源喪失

非常用ディーゼル発電機起動

原子炉緊急停止

 

※引用

『実録 FUKUSHIMA――アメリカも震撼させた核災害』デイビッド・ロックバウム ほか (著)岩波書店)より

《1号機以外の原子炉にはそれぞれ、「原子炉隔離時冷却系」略してRCICが備えられていた。(中略)沸騰水型原子炉には非常用炉心冷却系が備えられている。(中略)

温度と圧力が急上昇したり、温度が急低下したりすると、原子炉内の部品に圧力がかかる。どちらの場合も、金属が急激に膨張または収縮し、最終的には大きなひずみによって壊れてしまう。午後3時4分、1号機原子炉の冷却速度が速すぎることを懸念した制御室の運転員は、手順通りに非常用復水器を停止し、必要になったら再び起動できるようにした。》

 

 

この後、全電源喪失した後、原子炉を冷却する手段を失ったかどうかが不明になる。吉田所長も、1号機の非常用炉心冷却系が作動していないことを知らなかった。所員が報告してたが、聞いていなかったとのことだ。(参考:福島第一原発事故 7つの謎 (講談社現代新書) NHKスペシャル『メルトダウン』取材班)

 

15時37分

非常用ディーゼル発電機停止、ステーションブラックアウト。

 

※同引用《1990年代、アメリカの当局がようやく全電源喪失のリスクに対応する行動をとると、日本の規制当局も、発電所に対応手順を作成するよう勧告した。(中略)

その系統の動作を監視して安定になるよう調節するための装置は、8時間しか持たないバッテリーから電力を得る。全電源喪失への対応は、基本的に時間との戦い》

 

※《菅(直人)は側近の顧問とともに危機管理室にいたが、原子力発電所に関する知識が豊富な側近はほとんどいなかった。(中略)

政府でも誰一人、東京電力へ赴いて発電所がどうなっているかを確かめようとはしなかった。多くの点で政府上層部は、制御室の運転員と似たような状況、つまり道しるべとなる情報が何もない状況で活動していた。》

 

※《1号機の非常用復水器は作動していると運転員は信じていたが、それも確かめる術はなかった。》

 

補足)

実は1号機の非常用炉心冷却系が作動していないことを所員が吉田所長に報告してたが、吉田所長は聞いていなかったとのことだ。(参考:福島第一原発事故 7つの謎 (講談社現代新書) NHKスペシャル『メルトダウン』取材班)

 

16時41分

1号機の水位計が復活。原子炉水位、核燃料の先端から2メートル50センチ上回っている。

(震災前は、4メートル40センチ上回っていた)

 

※《午後4時46分、東京電力は政府に対して公式に、事態が悪化しつつあると伝えた。》

 

16時56分

1号機

原子炉水位、核燃料の先端から

1メートル90センチ上。

(15分で1メートル近く水位が減る)

 

17時すぎ、水位が不明に。

 

18時すぎ、核燃料露出開始。

※(18時半、福島第2原発社員が東電テレビ会議を録画開始。しかし、12日23時まで音声は録音されず)

 

18時50分ごろ、核燃料損傷開始。

 

19時3分

菅(直人)総理、原子力緊急事態を発出。

 

※《7時45分、枝野幸男官房長官は国内外に、緊急事態が宣言されたと伝えた。

(中略)首相官邸は、明らかに、1号機原子炉建屋で高い線量が測定されたことを知らなかった。》

 

20時50分

福島第1原発から半径2キロ圏内の避難指示(福島県より)

 

21時23分

半径3キロ圏内の避難指示

半径10キロ圏内の屋内避難指示

(政府より)

 

22時前、福島第一原発1号機原子力建屋内、放射線量高く、立ち入り禁止に。

※NHK取材班と専門家によるシミュレーションによる

 

23時46分ごろ、福島第一原発1号機の核燃料棒のジルコニウム皮膜が溶け出す。

 

※《1号機原子炉建屋内の放射線レベルが高すぎて立ち入れなくなり、どんな緊急修理をしようにもきわめて困難になったのだ。放射線の測定値は、すでに炉心が露出しておそらく溶融していることを示していた。》

 

※《政府には、同じように発電所と連絡をとる術はなかった。

(中略)不満を感じた菅(直人)と側近らは、東京電力に対して、首相官邸に職員を派遣して報告をさせるよう依頼し、挙句の果てには吉田(所長)に直接電話をかけて答えさせる行動にまで出たが、のちに細かいことにまで口出ししたとして非難される》

 

23時50分、

バッテリーで計器回復し、福島第一原発1号機格納容器の圧力を確認、600キロパスカルの数値。これは設計想定の最高圧力を上回っていた。格納容器破壊の危機。

吉田・福島原発所長、ICの冷却が作動していないことに気づく。

 

【追記1】

《アメリカ東部時間3月11日午前9時46分(日本時間同日午後11時46分)

アメリカ原子力規制委員会(NRC)は、原子力事故が発生した際の対応のための厳戒態勢に相当する、監視体制に正式に入った。福島第1原発で最初に振動が検知されてから、ちょうど9時間後のことだった。

(『実録 FUKUSHIMA――アメリカも震撼させた核災害』デイビッド・ロックバウム ほか (著)岩波書店)より》

 

(2011年3月11日はここまで。ここから、2011年3月12日)

3月12日午前0時6分

福島第一原発1号機のベント準備の指示(吉田所長)

※NHK取材班と専門家によるシミュレーションによる

 

午前1時6分ごろ、福島第一原発1号機の核燃料が溶け出す。

 

午前1時30分

福島第一原発1号機のベント実施を政府が了解(菅直人総理、海江田経産大臣)。

午前3時にベント実施の発表を予定。

 

午前3時6分

政府・東電の共同記者会見でベント実施することを発表。

 

※ベント作業手間取り、実施されず。午前4時過ぎ、菅(直人)総理が福島第一原発への視察を決定

 

※《一人の職員が1号機原子炉建屋の放射線レベルを確認しに行った。しかし、扉を開けるとなかに「白煙」が見えたため、測定をせずに急いでその場を離れた。その煙は、正体が何であれ、どこかから何かが漏れていることをはっきりと示していた。午前4時頃、発電所正門近くの放射線レベルは、1時間あたり0.069マイクロ・シーベルトと測定されていた。しかし20分後、その値は10倍近い0.59マイクロ・シーベルトに跳ね上がった。1号機のドライウェルは勝手にベントしていたのだ。》

 

2011年3月12日

午前4時

福島第一原発1号機に淡水を注入開始。

 

【追記2】

《アメリカ東部時間3月11日午後3時7分(日本時間3月12日午前5時7分)

「これから数日は本当にひどいことになるかもしれない。」NRCのスタッフは、(中略)

地球の反対側にある原子炉のなかで進行しつつある災害がNRC本部にとってどんな意味合いを持つかにも気づいていた。(中略)

NRCの新設原子炉局のワーグナーは電子メールで、「安全にとって問題なのか、経済にとって問題なのか?」という質問を受けた。するとワーグナーは、「両方だ」と返信した。多くの規制当局と同じようにアメリカのNRCも、人々の安全を守る必要性と、規制対象である産業界からの、あら探しをしないでくれという圧力との狭間で、難しい立場に立たされている。(『実録 FUKUSHIMA――アメリカも震撼させた核災害』デイビッド・ロックバウム ほか (著)岩波書店)より》

 

※《NRCのあるスタッフが「本当にひどいことになるかもしれない」と予想した時刻は、日本では3月12日午前5時7分だった。そのとき、福島第一原発の免震棟のなかで吉田所長は、1号機原子炉のベントをおこなう方法を見出そうと奮闘していた。菅(直人)首相は、情報不足にいらだちながら、自ら発電所に向かおうとしていた。》

 

午前5時44分

半径10キロ圏内の避難指示(政府より)。

 

※《東京では、東京電力と首相官邸の誰もが、同じ疑問を口にしつづけていた。いつベントが始まるのか? (中略)菅(直人)首相が、官邸に派遣された東京電力役員に遅れの理由を説明するよう求めても、明確な答は何も返ってこなかった。午前6時を回った頃、菅(直人)は自分でその答を見つけることに決めた。》

 

午前6時15分

菅(直人)総理ら、福島第一原発へ出発。

 

午前7時11分

菅(直人)総理ら、福島第一原発で吉田所長らと面会。その後、現地を離れる。

 

【追記3】

《3月12日土曜日の朝、NRCの委員長グレゴリー・ヤツコは、午前11時からホワイトハウスで開かれる、日本の状況に関して話し合う会議へ向かっている途中で、最新情報を受け取った。(『実録 FUKUSHIMA――アメリカも震撼させた核災害』デイビッド・ロックバウム ほか (著)岩波書店)より》

 

※《3月12日午前11時36分、3号機のRCICが停止し、再始動できなくなった。いまや3号機にも水が必要となった。それもすぐに。使用できる消防車はすべて、1号機への注水に使われていた。発電所外から別の消防車を確保しようにも、道路が危険な状態ですぐには不可能だった。》

 

14時30分、

福島第一原発1号機のベント実行。

 

※しかし、現在に至るまで、実際に1号機のベントが成功したか否か、確証はない。

(福島第一原発事故7つの謎 (講談社現代新書) NHKスペシャル『メルトダウン』取材班による)

 

14時53分

1号機への注入淡水が枯渇。

54分

1号機への海水注入指示(吉田所長)。注入準備に入る。

 

※《午後3時18分、吉田(所長)は東京電力本社にベントの実行を伝えた。

(中略)午後3時36分、大きな爆発によって1号機の原子炉建屋が壊れ、屋根が吹き飛んで至るところに瓦礫が飛び散った。

(中略)緊急対策室では、テレビで爆発の様子を見た所員たちがあっけにとられ、何が爆発したのかよく理解できなかった。》

 

15時36分

福島第一原発1号機が爆発。海水注入用のホースなどが破損。

※『カウントダウン・メルトダウン』船橋洋一(上巻)より引用

《原子炉建屋5階部分の壁が、鉄骨の骨組みを覗いて、すべて吹っ飛んだ。現場で作業していた東京電力社員2人、南明興産社員二人が負傷した。

(中略)放射性物質で汚染された建屋の鉄板などのがれきが散乱し、敷地内の放射線量が上昇。作業環境は一気に悪くなった。》

 

【追記4】

《産業界の代表とNRCがそれぞれの情報を共有すると、福島第一原発の状況が次のように浮かび上がってきた。爆発後、発電所敷地境界での放射線レベルが、バックグラウンドの約1万倍に相当する1時間あたり1ミリシーベルトに跳ね上がり、その後、1時間あたり0.5ミリシーベルトに下がった。1号機の格納容器はいまだ無傷と考えられる。ヨウ素とセシウムの同位体が検出されており、燃料が一部溶融していることがわかる。

(中略)ヤツコがこの初期段階からもっとも心配していた事柄の一つが、この事故によって起こりうる放射線の影響と、発電所からどれほど遠くまで高い放射線被曝が起こりうるか、という点だった。

 

指令センターのスタッフは、日本で起こっている出来事を監視するのに加え、別の類の危機にも関心を向けはじめていた。アメリカ社会との関係が最悪になるという可能性だ。NRCは、福島第一原発でトラブルを起こしているのと同じ設計の23基の原子炉を監督している。

(中略)日本の発電所について十分な知識がなく、アメリカの方が安全性が高いと確信を持って言うことはできなかった。(『実録 FUKUSHIMA――アメリカも震撼させた核災害』デイビッド・ロックバウム ほか (著)岩波書店)より》

 

17時47分

枝野官房長官(当時)の記者会見

「(福島第一原発1号機で)なんらかの爆発的事象があったことが報告をされております」

 

18時25分

半径20キロの圏内の避難指示。

(半径10キロ圏内の4つの町には、原発事故時の防災計画があったが、20キロ圏内には原発事故の防災計画はなかった。避難指示が出て大混乱となる。避難対象は2市5町1村の17万7503人。)

 

19時4分

福島第一原発1号機に海水注入を開始。

 

20時36分

※《3号機の水位を監視していた計器のバッテリーが切れた。実は、3号機の問題はいつの間にか悪化していた。》

 

21時30分

原子力安全保安院の会見

「炉心の破損はかなり高い確率だと思うが正確にはわからない。現時点でメルトダウンが進行していることはないのではないか」

筆者の感想:保安院の方は、こんな遅ればせの発表をしていた。現実に目に見える爆発や放射線量の上昇などと、霞が関の発表の落差が、ますます政府対応への不信感を増大させたのは間違いない。

 

22時59分

※東電テレビ会議記録より

《武黒フェロー(東電幹部)「イラ菅という言葉があるけども、まあとにかくよく怒るんだよね》

筆者の補足:原発事故以降、総理官邸に詰めていた武黒氏の、上記のような愚痴から突然、音声記録が始まった。ここまでの東電テレビ会議記録は、なぜか音声録音がない。

 

23時7分

※東電テレビ会議記録より引用

吉田・福島原発所長《いま、避難している人たちの中から、やっぱりものすごく不満があって、東京電力が説明しに来ないというかですね、いつまでこんな生活が続くんだと、こういうようなご不満が多々出ている》

筆者の感想:吉田所長は他人事のような口調で、原発事故で避難させられた住民の苦情をテレビ会議に紹介している。避難住民のことをこんな冷たい言い方していたというのはショッキングだ。

 

(2011年3月12日は、ここまで。ここから2011年3月13日)

 

午前0時45分

※東電テレビ会議記録より引用

《東京電力本店「なんとなくこのままだと1時に圧力容器満水になりますっていうふうにプレスでしゃべってしまいそうな勢いらしいんです(中略)多分官邸の中で武黒さんが話をしている中で出てきた目安みたいな数字なんだと思います。TAF(燃料水位計のゼロポイント。燃料集合体の燃料ペレットの一番上の端)のつもりで」

本店の別の人「満水って言ってたんだって」

第1原発のスタッフ「どっちでいくかっていうのも明確にはまだ水位計が生きてないから決めきれてなくて」

本店「だから、えいやとこんなもんですって」》

筆者の補足:このように、この段階では東電側と政府との連絡がすれ違っていて、プレス発表の中身も「えいや」と決めて発表するようないい加減な話だった。

 

午前0時56分

※東電テレビ会議記録より引用

《東電本店「なんかもうニュースで言っちゃったそうです。1時に圧力容器満水になりましたって」

吉田所長「2時間だったら本当は満水になっているはずが、なっていないというところなんです」

本店「実際満水になると分かるんでしたっけ」

吉田所長「いえ、だから流量計も信じられないし…水位計がおかしいのではないかという前提で、もうあのどんどんと水を入れていきますと。あと2時間は」》

筆者の補足:このように、この時点で報道では1号機圧力容器が満水になったと報じられているが、現実には、水位計が働かず実際に水が入っているのか不明なままだった。

 

午前3時53分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「いま確認しておりますけども、炉圧が上がっていると。…代替の注水手段を確認しているところなんですけども、はい。ちょっと3号(機)が」

本店「はい、わかりました」》

筆者の補足:このやりとりは、実は重大事態が判明した瞬間だった。原子炉への注水手段をすべて失ったのだが、本店には緊急度が伝わっていない。

 

午前4時42分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発資材班「マイカーの鍵を持っている人がいたんだったら鍵を借りてポンプはあるみたいだから、ガソリンをそこからちょっともらうっていうことで」》

筆者の補足:ここに至って、発電所のガソリンが不足して、所員の自家用車からガソリンを抜き取る相談をしている。原発事故の危機が進行している中、車からガソリンを抜く相談というのがあまりに間抜けで、脱力してしまうが、これが現実に起きていたことだったのだ。

 

午前4時53分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発技術班「3号機TAF(燃料水位計のゼロポイント)到着まで1時間弱と評価してます。TAF到達から炉心溶解まで4時間位というふうに評価しています」

第1原発の別の人「このままだとTAFが5時半、何もしなければ炉心損傷まで9時半、PCVの圧力は上がって、設計圧になるのが19時半位のスピード感で動いていかないといけないんで」》

筆者の感想:この時点で、3号機への注水ができなければメルトダウンまっしぐらだということを、淡々と相談しているのが、かえって恐ろしく感じる。

 

午前5時14分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発「4時間と言ったのが炉心溶融です」

本店「あっ、炉心溶融か」

第1原発「炉心損傷でいくと7時半、2時間になりますんで、もうちょっと早いです」》

同、15分

《本店 高橋フェロー「7時半、それまでには…さっさとやるんだ」

吉田所長「もう、やろう」》

筆者の補足:この時点で、3号機のベント作業を開始することを決断。しかし、作業はスムーズにいかない。

 

午前5時56分

※東電テレビ会議記録より引用

《東電本店「サイト(第1原発)さん、TAF到着時刻、何時頃?」

吉田所長「何時にするんだ?」

所員「4時14分になります」

吉田所長「そんなに前なの?」》

筆者の補足:TAF(燃料水位計のゼロポイント。燃料集合体の燃料ペレットの一番上の端)に冷却水が到達した時間が、とっくに過ぎていることに、吉田所長が遅ればせながら気づいて焦る。すでに3号機は核燃料がむき出しになっている。

 

午前7時47分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発所員「自分の車で来ている方で車のバッテリーを使いたいと思います。車の鍵を持って…」

所員「各班、マイカーのバッテリーを貸していただける方は集まっていただけますか。10台必要です」》

筆者の感想:この緊急事態の最中に、バッテリーが足りなくてマイカーのバッテリーを外してつなげて使おうという話をしている。なんとも間抜けで、どうしようもないほど悲しくなる。もちろん、津波で非常用発電機をやられたためにこうなってしまったのだ。

 

午前8時25分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「本店さん、ちょっとね、また別の問題が1点上がって来て、これちょっとうちで対応する余力ないんで、なんとかフォローアップして欲しいんだけど…1号機、燃料プール、いまあのむき出してます。あの、飛んじゃった(爆発したということ)もんだから。そっからですね、ちょっと湯気が出ているという話が出て…プールがあの状態じゃちょっとまずいんで、手を打ちたいんだけど、なんとも水源もないんで知恵が出てこない」

本店・小森常務「わかりました。ちょっと消防で水を突っ込むっていうのが1つあれか」

吉田「だけど、現場に近寄れないんで」

小森「近寄れないなあ」

吉田「ヘリか何かで上から水を噴霧か、落とすか」》

筆者の補足:ことここに至って、ようやく、核燃料プールの危険に吉田所長が思い至る。1号機の燃料プールには292本の使用済み核燃料があり、その核燃料の崩壊熱で水が干上がると、溶けて高線量の放射性物質を撒き散らす。3号機のベント作業がままならない中、1号機の燃料プールの核燃料の心配が重なる。

 

午前9時15分

※東電テレビ会議記録より引用

《本店総務班「自衛隊の給水車は20台から30台程度、四倉パーキングエリア付近で待機中です。第1原発3号機の状況を非常に気にされていて、第1原発には行きたくないというような見解を示しています》

筆者の補足:これまたショッキングな内情が、さらりと報告されている。自衛隊は、前のツィートで引用したように、原子炉が危険な状態の時は、一旦撤収している。そのことを指すものだろうと思われる。

 

午前11時56分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「ちょっとまた新たな頭痛の種が…4号機の燃料プールの温度が高い。」》

筆者の補足:この時点で、3号機の作業に四苦八苦する中、別の号機の燃料プールの中にある核燃料の温度が心配になってくる。二重三重にトラブルが重なる。

 

午後12時

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発復旧班「4号の先ほどの燃料プールのあれなんですけど、(中略)原子力ウェルとドライヤーセパレータピットの水が満水なので》

筆者の補足:このなにげない言葉が、こののちの瀬戸際で、日本を救ったことになる。それは、4号機の使用済み核燃料プールが満水だったということで、のちに事故がますます悪化した際、満水だったおかげで大量の核燃料が飛び散る事態をかろうじて回避できた。これは全くの偶然で、本来は工事で水を抜くはずだったのが、遅れていて水を抜かなかった、という単純な事実による。もしこの4号機プールの水が抜いてあれば、注水が間に合わず使用済み核燃料が溶けて莫大な放射線量の核物質が飛散した可能性が極めて高い、と言われている。

 

【追記5】

《アメリカでは日曜日早朝、エネルギー省の半独立部門である国家核安全保障局で海軍の原子炉を担当するカークランド・ドナルド大将から、NRCの緊急司令センターに電話がかかってきた。ドナルドには、NRCとエネルギー省に、電話で伝えておきたいことがあった。日本の沖合に停泊する原子力空母ロナルド・レーガンが、「(中略)あるアクティビティを、海上で検知した」というのだ。その「アクティビティ」とは放射能のことだった。

(中略)

船団は福島第一原発からおよそ180キロの位置に停泊しており、士官らは、この距離なら放射能雲は届かないと考えていた。ところが、空母機関室内の放射線検出器が通常の2.5倍の値を記録した。発電所から80キロ沖合に浮かぶ日本の船に降りた兵士とヘリからも、放射線が検出された。放射線レベルは低かったが、将校は心配していた。

(中略)

船団が危険を避けるには、錨を揚げてさらに沖合へ移動すればそれで済んだ。しかし、日本に住む何万人ものアメリカ市民にとっては、それほど簡単なことではなかった。(『実録 FUKUSHIMA――アメリカも震撼させた核災害』デイビッド・ロックバウム ほか (著)岩波書店)より)》

 

15時49分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「3号機はかなりトレンドとしてヤバいということ…2号機もいつこうなるか分からないんで、…実は水素爆発があるかも分からないということで、いま、作業員を全部引き上げたんですよ」

東電本店・高橋フェロー「はあはあ」

吉田「2号機の海水注入ラインはまだ生きてない、そこを生かしに行くにはかなりの勇気がいるんで、これはもう、じじいの決死隊で行こうかな、と」》

筆者の補足:決死隊、という言葉が、さらっと発せられてる。現場がいかに切羽詰まっていたか、が窺われる。だが、この決死隊という言葉は、その前段階で、2号機を救う作業をやろうとする吉田所長の指示に、所員が誰も行かなかったことの結果、皮肉のように口に出されたものだと読み取れる。この後、結局、決死隊は行かず、事態はさらに悪化して、2号機から大量の放射能が放出されることになる。最終的に、福島第一原発から出た放射能の中で、この2号機からの量が最も多くなる。

 

16時37分

※東電テレビ会議記録より引用

《東電柏崎原発・横村所長「吉田さん、ヘリコプターでね、(1号機核燃料プールの)水があるのかないのかだけ確認しておいたほうがいい」

吉田所長「それはね、もう今週の初めから…飛んで来てくれる勇気のあるヘリコ、操縦士がいない」

本店・高橋フェロー「飛んでくれる人はいたんだけど、氷を(冷却のため核燃料プールに)落としてくれる人がいなかったのよ。ところがこれだけ(放射)線量が上がっちゃうと…飛んでくれなくなっちゃった」

横村「ヘリコプターね、水があるかないか見るだけだったら…望遠の双眼鏡」

吉田「それすら行ってくれないみたいなんですよ」》

筆者の補足:ここでの、吉田・第1原発所長と本店の幹部、それに同じ東電の柏崎原発所長との会話には、どうしても1号機核燃料プールの冷却水があるかどうかを確かめたいという切迫感がある。その一方で、民間会社であるヘリコプター会社への、理不尽な協力要請を当然のように思うメンタリティがにじみ出ている。これは東電というエリート企業ゆえの、無意識の優越感だろうか。

 

20時43分

※東電テレビ会議記録より引用

《東電本店「(1号機の核)燃料プールの件で、ぜひ見たいねっていう話…新日本ヘリコプターはまずバツでした…自衛隊の本部に行ったらば、これはちょっとずるい言い方なんですけど、防衛省としては法律の問題もあってちょっと言えないと、許可できないと、ただ、現場はいまも放射線測定の名目で飛んでいるはずであり、その名目で飛ぶ分には防衛省として文句も言わないから現場に行ってみれば、という》

筆者の補足:このように、原発事故に際して東電が事故対応に外部の協力を得ようとして苦心している様子が窺える。

 

※東電テレビ会議記録より引用

《オフサイトセンター・武藤・東電副社長「こんな時こそ東電TEPCOスピリッツの発揮どころだというふうに思います。みんなで力を合わせて》

筆者の補足:このように、社員にハッパをかける副社長の言葉だが、状況の厳しさに対して空虚に響く。

 

21時54分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「まだそんなにちゃんと落ち着いたわけじゃないんだけど、まあ、1号機、3号機、かなり(放射)線量高いんだけど、でも主要パラメータが安定してきているのと、あとやることは2号機の、えー、あれですね、切り替えですね、これがまだ今日残っているんですが、…一回リセット、ここで締めて》

筆者の補足:震災後、2日目の夜、第1原発の現場ではようやくほっと一息ついている雰囲気だ。だが、現実には、1号機は建屋が水素爆発しており、この翌日には3号機が爆発することになり、同じく2号機も放射能大量放出の危機に陥ることになる。

 

22時47分

※東電テレビ会議記録より引用

《NHKニュース音声「明日、あらかじめ地域を区切った上で、順番に一定時間、電気の供給を止める計画停電を実施することを決めました》

筆者の感想:事故の最中だが、震災後2日経って、電力供給の見通しが危うくなり、計画停電が行われることになった。

筆者の当時の実感だが、原発事故がまだ収束できるかどうかもわからないこの時に、首都圏で停電の話が出ていることに非常に違和感を覚えた。首都圏で電力が足りないなら、全国から融通できないのか?と疑問を抱いた。そこで初めて、東日本と西日本で電源周波数が違っていて、すぐには送電できないということを知った

 

(2011年3月13日は、ここまで。ここから2011年3月14日)

 

午前1時34分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「1号機と3号機の海水系のライン(炉心への注水のための)がですね、止めざるを得ないという状況で、水が供給されないような状態になっています。…今後のパラメータの水位によっては緊急にいろんなことをしないといけないんで、一旦、態勢としてですね、対応できるようにスタンバイできるようにしていただけますか?》

 

午前2時6分

※東電テレビ会議記録より引用

《東電本店・藤本副社長「輪番停電(計画停電)のことについて、ちょっといまですねえ、官房長官(枝野)からですね、非常に強いことを言われていることについて、情報共有…明日6時20分から計画停電をやるということについては絶対認めないと…人工呼吸器、人工心肺、これを家庭で使っている人をお前は殺すことになると。お前がそれを承知して計画停電をやるということは、おれは殺人罪をお前に対して問うと。》

筆者の感想:ここでの激しい憤りを吐露している東電副社長は、まるで先生に叱られた子どもが愚痴をぶちまけているような感じだ。東電が計画停電を実施しようとする区域に、人工呼吸器や人工心肺の患者たちがいるということを心配して(当然だが)無理な停電を止めようとする枝野官房長官たちの方が、まともな感覚だと筆者には思える。

 

※東電テレビ会議記録より引用

《同「揚水(発電)をできるだけ午前中に集中して使ってしまえばですよ、なんとか需要抑制を加えて、輪番停電は午前中は回避できそうだという見通しが立ちそうなので》

筆者の感想:それなら最初からそうしたらよかったのだ、と筆者は思う。おそらくこの東電副社長には、停電で生命にかかわる患者がいるということがそもそも頭になかったのだろう。それにしても、福島第1原発の1号機、3号機の水位がまた怪しくなってきている最中に、本店では計画停電の方に意識が向いていることに、驚かされる。

 

午前3時37分

※東電テレビ会議記録より引用

《オフサイトセンター・武藤副社長「何なの、何が起きてんだ。その溢水しているちゅうことか」

吉田所長「どっかでバイパスフロー(水漏れ箇所)がある可能性が高いということですね」

武藤「どっか横抜けてってるってこと?」》

筆者の補足:ここでの会話は、3号機に注水しても水位が上がらないことへの疑問。どこかから水漏れしているのだろうと推測している。今さらながら、大震災の地震と津波で福島原発が激しい破壊を受けたことを思い出させる。

 

午前4時40分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発所員「炉心損傷が25%?衝撃っていうか、そのくらいなんじゃないの?》

筆者の補足:この段階で、3号機の核燃料は25%が損傷していると計算された。3号機は炉心が完全に露出しているということがわかった。

 

午前5時50分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「ちょっと発電所の状況を説明します。あまりよろしくないっていう状況になってきている…ドライウェルの圧力の上昇傾向は止まっていません。5時50分のデータでですね、415キロパスカルまで上がってきました。…例の1号機と同じように水素爆発の可能性がまたあるということなんですよ》

筆者の補足:3号機も、1号機と同じく水素爆発の危険が高まっていることが、本店にも知らされた。

 

午前6時24分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「これね、もう危機的状況ですよ、これ」

本店・小森常務「え、水位がダウンスケールしてる。おい、保安院に、官邸にドライウェルの圧力が上がって。早く、早く連絡して」

吉田「完全に(炉心が)露出してる状態になってますよ、これ」》

筆者の補足:3号機の危機がいよいよ高まってきたので、原子力安全保安院と総理官邸にその旨、連絡するよう、本店でも慌てている。このまま、3号機の危機は続き、ついにこの日、水素爆発にいたる。

 

午前11時1分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「本店!本店!大変、大変です。3号機、たぶん水蒸気だと、爆発が、いま起こりました」

(あれこれやりとりが錯綜。)

 

11時2分

本店・小森常務「現場の人、退避、退避」》

 

筆者の補足:折しも、枝野官房長官は、計画停電の会見中だったが、連絡を受けて、そのまま記者たちに3号機の爆発を伝えた。

 

午前11時17分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「本店さん、11時15分の3号機のデータは格納容器の圧力も立ってますし、圧力容器の圧力も立ってますから、健全性には問題なかったと判断します。測定の結果、中性子線は検出されておりません。》

 

11時39分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発総務班「けが人の最新情報です。けが人は1名です。自衛隊の方は6名が不明になっています》

 

※『カウントダウン・メルトダウン』(船橋洋一)より引用

《14日午前7時。

(中略)

その時、3号機の原子炉建屋上部が轟音とともに吹っ飛び、上から飛び散ったがれきが装甲車のフロントガラスを突き破った。そのとたんに、乗っていた自衛隊員が身につけていた線量計が一斉になり始めた。20ミリシーベルトを超えている。

(中略)

隊員たちは、車両のドアをこじ開け、低いうめき声を漏らしながらはい出した。岩熊は、号令を発した。「退避!急げ!」隊員のうち4人が負傷した。タイベックススーツがボロボロに裂けている。》

 

12時41分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「こんな時になんなんだけども、やっぱりこの1、この2つ爆発があってですね、非常にサイトもこう、かなりショックっていうか、まあ、いろんな状態あってですね」

東電本店・高橋フェロー「そうだね、はい」

吉田「職員がですね、多分、みんなもう落ち込んでんですよ」

本店「お察し申し上げます」

吉田「やれることはやるんですが、かなり士気が衰えると思います。…被ばく線量がかなりもう、みんなパンパンになってきてますので》

 

13時1分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発技術班「2号機の水位の低下が大きくなってます。…12時半の段階から3時、3.3時間後位に、TAFに到達…4時位にTAFに到達する可能性があります」

吉田所長「みなさん聞いてください。…16時にTAFに到達する可能性があります。…できれば14時30分位までにすべて整えたいと思います》

筆者の補足:2号機の水位が下がり、核燃料が露出する可能性が高まってきている。

 

14時32分

※東電テレビ会議記録より引用

《オフサイトセンター・武藤副社長「トランシーバーみたいなもんでも少し、もうちょっと持ってきてみたらどう」

吉田所長「いや、トランシーバーね、50台調達したやつが来たんですけど、全部ね、同じ回線なんですよ」

武藤「あ、なるほど」

吉田「だから混線しちゃうの」》

筆者の感想:切羽詰まっている状況下で、なんとも間抜けな話だとしか言いようがない。

 

15時35分

※東電テレビ会議記録より引用

《吉田所長「だから聞くやつが違う、責任者が答えろって言ってるじゃないか、どアホ!》

筆者の補足:切羽詰まって来て、吉田所長がブチ切れる場面が再々ある。

 

17時17分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発技術班「水位マイナス1000ということでTAFに到達したというふうに推測します」》

筆者の補足:2号機の核燃料が冷却水から露出し始めた。

 

18時28分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発所員「いま、消防車の方が、どうもオイルを入れまわっていたのですが…消防車が止まっている可能性があります」

所員「いま、ポンプ回っていないんですか」》

筆者の補足:2号機にようやく注水できるように炉圧を下げることに成功したちょうどそのタイミングで、肝心の消防車がガス欠でポンプを動かせないことが判明し、現場が凍りついた。

 

19時

※東電テレビ会議記録より引用

《東電本店「誰かが、ポンプ現場見に行って…」

吉田所長「いやいや、それは言ってんだけどね。…ものすごい(放射)線量高いのよ。ここの現場来ない人はわかんないかもしれないけど、もうほんとにチンチンなんですよ》

筆者の補足:吉田所長が、現場を知らずに無責任なことをいう本店に皮肉を言う。

 

19時23分

※東電テレビ会議記録より引用

《オフサイトセンター・小森常務「発電所のほうも中操(中央操縦室)なんかに居続けることができるかどうか、どっかで判断しないとすごいことになるので、退避基準の検討を」

本店・武藤副社長「うん、わかった。それやって。…TAFは言ってて、その裸になった時間の認識はそろえようよ。18時22分。…で、2時間でメルト(ダウン)。》

筆者の補足:ここで、東電幹部の中で第1原発からの撤退の認識が話し合われた。このことが、清水社長を通じて菅総理など政府中枢に打診されたことで、その後の菅総理の東電本社乗り込みへとつながって行く。

 

22時14分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発所員「22時10分のデータです。2号機、炉水位がマイナス1600、…」

別の所員「これ、いままず言わないと、これダメだよ言わなきゃ!」

別の所員「本店さん、本店さん、1Fちょっと至急に報告」

別の所員「21時37分に正門で計測…3.2ミリシーベルト/アワー。のガンマ線です」

吉田所長「ちょ、ちょっと待ってくれ!3.、ミリシーベルトなの?」

武藤副社長「それ、大変だよ」》

筆者の補足:この時点で、急に猛烈に高い放射線量が原発の正門付近で定時計測していたところで計測され、大変な事態が進行していることを現場も本社も認識した。本来の基準で原子力災害対策特別措置法15条の対象になる値の、6倍以上の放射線量を計測していたのだった。

 

23時27分

※東電テレビ会議記録より引用

《第1原発所員「ダウンスケール、いまダウンスケールになっています。ダウンスケールは燃料がすべて水から出ていると言う状況ですので」

本店・早瀬顧問(が口をはさむ)「早瀬ですけどね吉田さん、…早くバッテリーを繋いで」

吉田所長「はいはい、了解です」

早瀬「ちゃんとやってよ」

吉田「はい」》

筆者の補足:2号機の核燃料がすっかり露出してしまっている可能性に、現場も本店も浮き足立つ。本店の東電幹部が吉田所長にせっついている。

 

23時32分

※東電テレビ会議記録より引用

《本店「ベントが先だね」

第1原発所員「ベントが先です」

別の所員「でもできないですから」

別の所員「ベントできないと格納容器が壊れる」》

筆者の感想:聴いていて、背筋が凍るような会話が続く。

 

23時35分

※東電テレビ会議記録より引用

《本店・早瀬顧問(が口をはさむ)「ドライウェルベントできるんならさあ、おい吉田」

吉田所長「はい」

早瀬「ドライウェルベントできるんならもう、すぐやれ」

吉田「はい」

早瀬「余計なこと考えるな、こっちで全部責任とるから」》

筆者の感想:東電幹部、顧問の早瀬という人、全部責任とるなどと偉そうだが、結局、福島原発事故の責任は東電幹部は誰もとっていない。そもそも、東電本社、原発現地、政府がバラバラに対応していたのも、事態を深刻化させた原因だと言える。映画『Fukushima50』では菅(直人)総理が東電の現場を混乱させ、原発事故の被害を拡大させた元凶という描き方をしている。また、当時、野党自民党の安倍晋三が、菅(直人)総理の原発事故対応をブログで批判し、海水注水を遅らせたのが事故悪化の原因というデマを拡散させた。安倍晋三のいうような事実はないことは、国会事故調報告でも指摘されている。実際は、菅(直人)総理は、3月13日の午前0時過ぎごろ、すでに福島原発のそれぞれの号機で何が課題なのか、官邸で原子力安全保安院に整理するよう命じていた。

 

ここまで

 

 

以上、

 

#福島原発事故のリアルタイム追体験

2023高校入試、大阪府立高校倍率は維新の会の教育政策の最悪の結末だ

2023年度高校入試、大阪府立高校倍率は維新の会の教育政策の最悪の結末だ

 

写真のように、2023年度高校入試の大阪府立高校の倍率の格差は、橋下府知事時代以来14年間の維新の会教育政策の最悪の結末を示した。

詳しくみていこう。

 

 

※前段

2023年の大阪府立高校希望調査と、私立高校希望調査をみて

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12786413545.html

 

 

筆者は昔の9学区制の頃、第2学区で高校受験を体験し、その後、高校教諭として第1学区と第2学区で10数年、勤務した。その経験から、以下、検証する。

まず普通科。

 

写真1)

 

 

写真1)のように、この北摂地区の旧2学区には、普通科で最高倍率を誇る?春日丘高校がある。公立高校の受験でこの倍率は、異常な高さなのだが、この学校は筆者の高校生だった40年前からすでに、人気校で、高い倍率だったため、あまり参考にはなりにくい。

そこで、北摂地区の1、2学区でその次に目立つ高倍率を見てみよう。

旧1学区では、桜塚高校と豊島高校が人気だ。だが、偏差値的には、桜塚高校の方がずっと高いのに、豊島高校はなぜか高倍率を保っている。これが、維新の会の教育政策の要である「3年間定員割れは統廃合」の結果なのだ。

解説すると、この旧1学区には橋下府知事時代、14年ほど前までは、偏差値的に中堅の普通科高校がもっとたくさんあり、偏差値の低い普通科も数校あった。ところが、中堅の府立高校が次々統廃合され、現在、旧1学区の中堅校は片手でおさまる。その中で最も人気が集中するのが桜塚高校だというわけだ。偏差値の低い方も、どんどん統廃合され、豊島高校が成績低位の中で安定した人気の学校になってしまっている。

そうなると、この倍率のまま、受験が行われると、どうなるか?

中堅高レベルと、偏差値低位レベルの生徒が大量に不合格になり、併願受験した私立高校に流れる。

これこそ、橋下府知事以来の維新の会のやった教育政策の成れの果てなのだ。

 

同じく、写真1)の北摂地区旧2学区にも、同様の傾向が見てとれる。

吹田東高校と山田高校の高倍率が、それだ。

 

この中堅校の高倍率のパターンは、次に

写真2)

と見比べると、もっとわかりやすい構図になる。

 

写真2)

 

 

大阪府立高校の中で偏差値トップ級の10校、それが文理学科だ。

その10校中、北野高校は別格扱いでダントツ1位なのだが、その次の座を争う数校のうち、旧2学区の茨木高校は、頭抜けて高倍率になっている。この旧2学区は、偏差値トップレベルの生徒が茨木高校に集中する傾向がここ数年見られるのだが、トップ10校の文理学科に手が届かないレベルの生徒は、その次のランクとして本来なら、普通科の偏差値トップクラスを狙いたいところだ。しかし、旧2学区の場合、その2番手に当たるのが普通科では春日丘高校で、これは最初に書いたように、異常な高倍率のため、逆に敬遠される。その次の中堅校となると、選択肢は限られてしまい、結果的に、前述のような吹田東と山田の高倍率といういびつな結果になるのだと考えられる。

旧1学区でいうと、文理学科トップの北野は別扱いで、次に豊中高校が高倍率となる。そこに手が届かない生徒は、むしろ旧2学区や大阪市内の方に流れている生徒も多いように見受けられる。そこが旧1学区の特殊な特徴で、交通の便が大阪府内で最も発達している関係で、近隣だけでなく旧学区の垣根を越えて通学しやすいところからそうなっているのではなかろうか。

 

さて、写真2)の文理学科の高倍率ぶりと、総合学科の苦戦ぶり、さらに写真3)の職業系の定員割れとを比較すると、ここにも維新の会の教育政策の失敗が如実に見られる。

 

写真3)

 

 

国公立大学への進学率を誇る文理学科10校に、府内の同年代の子どもたちのうち、偏差値的に上澄みの生徒が集中している反面、かつて大阪の教育政策の目玉商品だった総合学科は、廃れてしまっているように見える。さらに、かつて大阪の産業を支えた職業系の高校にも人気が集まらない。このまま定員割れが続けば、維新の会の教育政策に従えば、いずれ統廃合の運命が待っている。

だが、このように総合学科、つまり多様な興味関心を育む学科や職業能力を身につけさせる工業系などが廃れていき、偏差値的に頭でっかちな生徒だけが優遇されて国公立大学に進学していくような、子どもたちを二分割して格差を固定させるような教育政策は、結局は同世代間の格差拡大と対立をうみ、大阪の未来を壊していくのではなかろうか。

橋下府知事以来の競争原理による教育の、14年間の結末が、この府立高校受験倍率のいびつな偏りとなって明らかになったといえるのだ。

もう、この大失敗を大阪府と維新の会の政治家、教育行政の担当者たちは素直に認めて、教育政策の方針転換をするべきではなかろうか。大阪府民も、この結果をしっかり見て、政治の選択を間違えたことを認め、今からでも大阪府の教育政策の方向を考え直すべきではなかろうか。

 

 

※過去の関係記事

2022年大阪府立高校入試の倍率、やはり維新の会の教育改悪の結果、子どもたちは苛烈な競争に追い立てられている

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12730121136.html

 

2021年度大阪府公立高校入試の倍率、確定。高倍率と定員割れの格差を作ったのは維新の会の教育政策だ。

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12660782281.html

 

2020年大阪府立高校の入試出願の中間発表と最終発表、今年は変だ

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12580614066.html

 

2020年春の大阪府立高校の難関大学合格結果を考察した。この10年の維新の会による大阪府教育改革はこれでいいのか?

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12589793890.html

 

(まとめ)2019年の大阪府立高校入試と大学入試の結果で、維新の会教育改革失敗が証明された

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12450639923.html

 

大阪府立のハイレベル高校、大学入試の結果は維新の会教育改革の失敗を示している

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12449967911.html

 

※高校入試関連の過去の記事

近畿の高校入試と大学入試の現状について

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12438929103.html

 

大阪府の公立中学のチャレンジテスト、その後

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12427705365.html

2023年の大阪府立高校希望調査と、私立高校希望調査をみて

2023年府立高校希望調査と、私立高校希望調査をみて

 

 

2023年度の大阪府の府立高校特別学科入試と、私立高校入試の希望調査を比べてみた。これを見れば、維新の会と大阪府教委が推し進める府立高校削減がいかにひどいかわかる。

 

 

まず、府立高校の特別学科のうち、定員割れになっている高校で、かつては人気校だった例を見てみよう。

府立夕陽丘高校の音楽学科も定員割れだ。また、かつては大阪の文化を継承発展すると鳴物入りで誕生した、府立東住吉高校の芸能文化も、いまや定員割れだ。

人気の高い体育科のある府立高校も、定員割れのところと、高倍率のところの差が激しい。

 

 

次に、これも鳴物入りで作られた「エンパワメント」高校、つまり低学力の生徒を底上げする目的の高校だが、やっぱりこちらも定員割れが多い。維新の会の政策である「3年連続定員割れは統廃合」のために、せっかく合併してできた淀川清流高校がまだ定員割れのままだ。つまり、維新の会のこの政策は結果的に効果はなく、長い歴史のある高校を2つ統廃合して一つのエンパワメント校を作ったことは無意味だったということになりかねない。

 

 

その一方、バカロレアを売り物に誕生した水都国際は、大人気で高倍率の1.6倍! これはまるで大学入試並みだ。

こういう学校間格差、人気のアンバランスを平均化して、大多数の中学3年が少しでも希望の進路校に進学できるようにするのが、教育行政の役割なのだ。

なのに、維新の会の教育政策は、逆に学校間格差を拡大し、人気校と定員割れの高校の差をますます際立たせるばかり。

そもそも、公立の高校への進学が、ここまで過剰な競争に左右されるのは異常事態だといえる。なぜなら、大学入試の場合と違い、今の中3生の選択肢は、とにかくどこかに進学するしかないからだ。

 

大阪府の高校受験の異常さは、僻地の学校をどんどん見捨てていることにも表れている。

例えば、大阪府最北の能勢町にあった府立能勢高校は、市街地にある人気校・府立豊中高校の分校となったが、結果的には変わらず定員割れのままだ。

同じく、府の最南の岬高校も定員割れが続いている。

こういう人口の少ない地域で公立の高校を維持するのも、本来、教育行政の大切な役割のはずだ。しかし、このまま定員割れが続けば、先日発表の府教委の方針「定員割れの続く高校をさらに9校統廃合する」という政策で、人口の少ない地域のこれらの府立高校もあっさり閉校にされかねない。

その証拠に、大阪府と京都府の境にある、島本町唯一の高校だった島本高校は、反対運動があったにもかかわらず統廃合されてしまった。

こういうのが、維新の会の教育改悪なのだ。

 

もう一つ、大阪府の教育改悪の進行具合がよくわかるのが、今回発表の府内の私立高校への希望調査結果だ。

悪名高い維新の会の政策・「私立高校授業料(所得制限付き)無料」、その結果が、府立高校の併願が多い中堅私学にみられる超高倍率となって表れている。

例えば、北摂地域の関西大倉は、周辺の府立高校ハイレベル校の併願として多数の受験生を集めている。それが、この高倍率だ。

同じく、北摂の中堅私立の箕面自由学園、大阪南部のハイレベル私立の一つ、桃山学院の場合も、よく似ている。

 

 

 

しかもこの高倍率には、私立高校独自のカラクリがある。

高倍率になっているハイレベルコースを受験して、落ちた場合でも、「回し合格」という仕組みで、同じ高校の下位コースに順番に受け入れていくというやり方だ。

このやり方で中堅私立高校は、府立のハイレベル高校を目指して落ちた生徒の、併願受験の受け皿となっているわけだ。

 

これこそ、橋下府知事時代から維新の会の教育政策で始めた、高校入試の改悪の実例だといえる。

つまり、「私立高校授業料(所得制限付)無料にする」というエサで成績優秀な生徒を釣り、府立高校受験生のうち惜しくも不合格となったハイレベルの生徒を、併願の私立にどんどん流していく。

そうやって私立高校を儲けさせる一方、一握りの府立のハイレベル高には、猛烈な競争を勝ち抜いた成績優秀生徒を集めて、東大京大への合格者を増やそうとしたのだ。

けれど、その結果は無惨だった。

肝心の府立ハイレベル高校の東大京大への合格実績は、この14年でむしろ伸び悩んでいるからだ。大多数の中3生を犠牲にしてトップ府立10校に集められた最優秀生徒が、橋下府知事時代からの期待通りには、なかなか東大京大に多数は進学できていない。この程度の実績のために、府内の大多数の15歳に苦い思いをさせ、不本意進学をさせ続けたことは、この14年間でどれほどの子どもたちの未来を奪ってしまったかを考えると、その教育改悪をやった為政者たちの責任は、あまりに罪深い。

さらに悪いことに、うまい汁を吸う中堅私立高校の方も、経営は栄えているかもしれないが、肝心の生徒の進路実績は、決して上々とは言えない現状だ。

つまり、橋下府知事時代からの維新の会の教育改悪は、最悪の結果をもたらしている。

次の府知事選で、吉村府知事の後釜にもし維新の会の候補が続けば、またもや大阪府内の15歳の子たちは進路選択に過剰な競争を強いられ続けて、未来を奪われ続けることになる。我々大人が、この不幸の連鎖を止めてやらなければならない。

ジブリ映画『思い出のマーニー』原作は英国児童文学の名作、今こそ読まれるべき本

ジブリ映画『思い出のマーニー』原作は英国児童文学の名作、今こそ読まれるべき本

 

 

 

金曜ロードショー、ジブリ映画『思い出のマーニー』、原作は英国児童文学の名作だ。今こそ読まれるべき本。子どもと家族のあり方を考えさせられる。

 

 

※土居豊の児童文学講座(ユーチューブチャンネル)

ジブリ映画『思い出のマーニー』原作舞台は、アーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』シリーズの作品舞台と同じ! https://youtu.be/fbNusdxebX0

 

 

『思い出のマーニー』原作の舞台は、英国児童文学の古典「ランサム・サガ」の『オオバンクラブ』シリーズと同じ、ノーフォーク地方だ。原作の地名は、現在も実在する場所で、ランサムが描いた湖沼地方より少し北側にある。どちらも自然保護区で、19世紀以来の貴重な環境が守られてきた。

 

 

 

 

ジブリ映画版『思い出のマーニー』の舞台は、原作の英国ノーフォーク地方から、北海道に移してあるが、場所のイメージは原作の雰囲気に近い。

ついでながら、ジブリ版『思い出のマーニー』の場所である北海道には、原作の英国ノーフォーク地方を思わせる風景がある。私自身、北海道の大沼や然別湖を訪れたとき、ランサムが描いた英国ノーフォーク地方の風景に似ている、と思った。

 

 

【アーカイブ】

(1)

《2020年、クルーズ船DP号の新型コロナ検疫でも使われた、検疫船旗が登場するランサム『長い冬休み』を語る》

https://youtu.be/gIbRyDusveY

 

(2)

《2020年、新型コロナの一斉休校で自宅にこもった子どもたちへ。アーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』シリーズの魅力を語る》

https://youtu.be/4ulxYSVanEw

 

(3)

《アーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』シリーズの魅力を語る その2》

https://youtu.be/MMJWys5hkGU

 

(6)

《「涼宮ハルヒとナンシイブラケット」書籍化企画〜新型コロナでも子どもたちは「遊び」をあきらめてはいけない。アーサーランサムサーガのヒロイン・ナンシイも、あの涼宮ハルヒも、1度きりの夏をあきらめなかった》

https://youtu.be/1QupBWavFm4

 

(9)

《アーサーランサム『ツバメ号の伝書バト』その1〜ナンシイは金鉱掘りごっこを現実世界での成功に導いた》

https://youtu.be/aPUst7pYQ4Y

 

(11)

《アーサーランサム『ひみつの海』のナンシイは、シリーズ中で初めて故郷以外の土地で冒険を仕切る》

https://youtu.be/COd5GaoJgDY

 

(12)

《アーサーランサム『スカラブ号の夏休み』でのナンシイは、大人たちもコントロールして失踪した大おばさん捜索を仕切る》

https://youtu.be/oBuggJaW-Ec

 

(13)

《アーサーランサム『シロクマ号となぞの鳥』でナンシイは、遠くスコットランドの地主親子まで自分の影響力で動かしてしまう》

https://youtu.be/-bM4253Ci_A

 

(16)

《「ハルヒとナンシイ」講座番外編アーサーランサム 『ヤマネコ号の冒険』〜キャラたちが語り下ろした「物語中の物語」!20世紀初めの児童文学で二次創作が行われていた!》

https://youtu.be/n2zNu2dn7ao

 

(17)

知床観光船沈没事故追悼

《船遊びでトラブルが起きても生き延びるために〜アーサーランサム 『海へ出るつもりじゃなかった』を全ての子どもたちに読ませたい》

https://youtu.be/syZuFfZ1-j4

 

(18)

「ハルヒとナンシイ」講座 ランサム『ツバメ号とアマゾン号』シリーズ番外編2『女海賊の島』〜児童文学史上最初の「ツンデレ美女」

https://youtu.be/UyT7oMQEyMU

 

 

 

 

2023年、元旦の主要4紙の1面を比較

2023年、元旦の主要4紙の1面を比較

 

 

※昨年の場合

元旦の主要4紙の1面を比較〜コロナ感染爆発の危機感が感じられない!

https://ameblo.jp/takashihara/entry-12647652535.html

 

 

 

2023年の元旦の大手4紙、一面を比較してみると、世相がはっきり表れている。

まず、4紙共通して、コロナ第8波の記事が一面に全くない。

毎日のように数百人の患者が死亡し続けている、今まさに危機の最中であるということが、新聞の見出しからは消し去られている。

 

さて、順番に見ていこう。

産経新聞。これは意外だが、日韓関係のボトルネックである徴用工問題が、一面下側で大きく目立つ。しかも韓国側からの解決提案を載せることで、少なくとも今年は日韓関係を改善させなければ、という主張が垣間見える。嫌韓の急先鋒だった産経にしてはなかなかよい。

 

 

次に、読売。これもわかりやすく、ミサイル防衛の面で日韓の協力関係を大きく取り上げている。

 

 

毎日。こちらは日台関係でスクープを一面に出す。中国軍対策で日台間に秘密回線があるというもの。もう一つ、目を引くのが新成人の最少人数更新。どちらも国の危機をストレートに象徴する紙面だ。

 

 

 

 

朝日は、やはり自称?クオリティペーパーらしく、文芸・文化で一面を埋める。それも、ノーベル文学賞作家のウクライナ出身・アレクエーヴィッチのインタビューを、一面から二面へ続けて載せている。

 

 

 

 

大手紙の文化欄比較で面白かったのが、この朝日と、一方は産経だ。朝日がノーベル文学賞作家なら、産経はなんと、歴史学者(最近はタレント化しているが)の磯田道史を岸田総理と対談させている。

 

 

 

 

この対談、話が全く噛み合っていない点でも面白いが、磯田氏はなんとか岸田総理に話を合わせようと懸命だ。

唯一、話が噛み合う?のが今年の大河ドラマでもある徳川家康について。なんと、驚いたことに岸田総理は最近、山岡宗八『徳川家康』を全巻読破したのだという。

そこで磯田氏は家康の歴史的位置づけと魅力を語るのだが、それはまるで岸田総理が家康のような長期政権の権力者となるよう励ましているようにも読めて、全くげんなりさせられた。

ところで、岸田総理が語る小説『徳川家康』の感想が、どうも的外れで、本当にこの長い小説を読んだのか?と疑わしい。実はあらすじしか読んでいないのではないか?

山岡宗八の描いた家康像は、一般に流布したずるい狸親父イメージを、平和の希求者としてかなりデフォルメしたところに魅力がある。だが岸田総理には、そこのところが伝わらなかったようだ。せっかく平和主義者の家康のイメージを学ぶ機会があったのに、岸田総理はむしろ真逆に侵略者としての日本を作ろうとしているのは、残念なことだ。

 

元旦の新聞比較・番外編

毎日新聞の「維新の会推し」にうんざり。

もはや大阪府民は争点などではなく、維新の会支配下の圧政・悲惨から逃げたいのだ。コロナ死者日本一をやらかした維新の会の政治は、市民の命の犠牲の上に成り立つ。各党はなんとしても反・維新の知事&市長候補を共同擁立してくれ。

 

 

 

 

1日早いけど、2023年賀ブログです

作家の土居豊です。

本年も各方面で大変お世話になり、ありがとうございました。

2022年6月以降、思ってもみなかった事態が生じて、後半はほぼ仕事を休止していました。

23年は、少しでも仕事を再開していけたらと願っております。

 

 

 

(1)「文芸ユーチューバー」として文芸講座などの動画配信をしています。

ぜひご覧ください。

 

作家・土居豊チャンネル(登録お願いします)

https://www.youtube.com/user/akiraurazumi/featured?view_as=subscriber

 

youtube動画チャンネル「涼宮ハルヒとナンシイブラケット」書籍化企画〜アーサーランサムサーガ研究

https://youtube.com/playlist?list=PLEmLAtFEHEKU1j9AjhcRG4EMhmGQbj4QM

 

 

 

(2)エッセイ連載(休止中ですが、また再開の予定)

 

『(加筆修正版)クラシック演奏定点観測〜バブル期クラシック演奏会』

https://note.com/doiyutaka/m/m95eba8e4b1c1

 

 

(3)学会誌掲載

J-STAGE

こころの科学とエピステモロジー4巻 (2022) 1号

映像メディア時評「京アニ作品の死生観」論その1【ミステリーアニメの死生観〜『涼宮ハルヒ』とP.A.WORKSの『Another』、そして『氷菓』】

土居豊(作家)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/epstemindsci/4/1/4_103/_pdf/-char/ja

 

 

(4)書評掲載多数

【『アニメの輪郭』(藤井亮太 著)書評掲載】

十勝毎日新聞、デーリー東北、北日本新聞、四国新聞、島根日日新聞、北羽新報

など

 

(5)近作

『メロフォンとフレンチ』

(前作の音楽小説『ウィ・ガット・サマータイム!』の姉妹編)

2022年電子版で刊行

https://bookwalker.jp/de974fa0d0-bb72-4f01-b665-cac9c7259fce/?_ga=2.224024991.523969655.1642153124-1513163038.1642040185

 

《楽器不足の中でステージを実現していく吹奏楽大好き高校生たちの友情と恋の青春。『ウィ・ガット・サマータイム!』の姉妹編》

《発売1ヶ月半で再びBOOK ⭐︎WALKERランキング1位! 日間ランキング ラブストーリー 1位(同人誌・個人出版部門)》

 

 

 

(6)著作

『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会)

https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_J1b6BbSGPS6GB

 

 

 

土居豊の伝奇小説『禿(かぶろ)〜平家物語異聞1』

ブックウォーカー版

https://bookwalker.jp/de09e06e1b-9c35-43cd-96c5-92940653476e/?_ga=2.198801835.523969655.1642153124-1513163038.1642040185

 

【内容紹介】

《ちょうど10年前、本稿を電子書籍版で刊行した。今、世界はパンデミックの渦中にある。折しも、日本のテレビで、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が放映開始、同時に、アニメ作品『平家物語』も放映され始めた。混迷の時代を生き抜く手がかりを、人々は求めているのだろう。おそらく誰もが中学校で一度は習ったはずの『平家物語』。世界が滅びに瀕しているような今、人々はもう一度、耳を傾けたくなったのだろう。

本作は十年前にはまだ早すぎたのかもしれない。今ならだれかが本作を読んで、古典『平家』をきちんと読んでみよう、と思うかもしれない。そういう人々に、本書を手渡したい。》

 

 

 

 

Amazon著者ページ

http://www.amazon.co.jp/-/e/B00491B5TQ

 

以上

2023年も、ご贔屓いただきますよう、どうぞお願い申し上げます。

 

作家・文芸ソムリエ・文芸ユーチューバー

土居 豊

 

 

映画『すずめの戸締まり』評 ~ 本作は「星を追う子ども」のリベンジだ

映画『すずめの戸締まり』評 ~ 本作は「星を追う子ども」のリベンジだ

 

 

(以下、ネタバレします)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.11の映画であり、新海誠の震災3部作として総決算だといえる。

前2作と比べて、震災と被災者の思いを掘り下げる深度が半端なく深い。だからアニメ作品としてのエンタメ性がかなり割り引かれている。

細かいところから言うと、主役のすずめ自身のキャラクターが明確になっていない。彼女は、災厄に立ち向かうために作られた不自然なキャラクターに見える。同じく主役級の草太さん、彼も完全に役柄のために作られた人造人間的なキャラクターだ。この主役カップル2人が役柄に従属してしまっている分を、ドラマ面で補ってあまりあるのが、すずめのおばさんの環(たまき)と、草太の友人・芹澤くんだ。

中盤以降、ロードムービーとして東北へ向かうこの4人の中で、主役カップルが異世界と戦っている傍らで、環おばさんと芹澤くんは、実にリアルで存在感あるキャラクターとなっている。この2人がなければ、映画自体が嘘くさくみえただろう。

すずめの旅を助けてくれる四国の彼女と、神戸の親子が見事に脇を固めているし、環に惚れている職場の彼もいい。総じて本作は、脇役が生き生きとして作品を支えている。

その分、本筋は、嘘くさくなってしまう瀬戸際でからくもリアリティをキープしている。この物語自体が、辻褄合わせの無理矢理な作りになるギリギリのところで成り立っている。

新海誠はやはり限りなくプライベートな物語を書く創作者であり、風呂敷を広げすぎた場合はよく失敗する。本作は、危うくそうなるところをバランスを保った。

その意味で、新海誠のこれまでの唯一の失敗作といわれる「星を追う子ども」の後継作に、危うくなってしまうところだったが、絶妙なバランスで、本作は見事に「星を追う子ども」のリベンジを果たした。

 

最後に、そろそろ本作もネタバレ解禁のようで、批評記事や内容に触れた記事が出てきた。だが、もしまだ観ていない人は、可能な限り予備知識なしで観ることをおすすめする。

 

※参考記事

https://www.nikkansports.com/general/news/202212100000973.html

 

この記事によると、本作は、

《同作は、震災で母親を亡くした17歳の鈴芽(すずめ)が主人公。全国を巡り、地震を引き起こす「扉」を閉じていく冒険物語。》

なのだそうだ。

これ、間違えてない? それとも、地震を引き起こす「あれ」の正体をネタばらししないために、あえて間違えて書いてるの? だがその割には、「震災で母を亡くした」という重大なネタバレをやっている。単に、記者さんが映画の内容を理解できなかっただけかな。

2022年11月8日 皆既月食と天王星蝕

2022年11月8日 皆既月食と天王星蝕

 

https://youtube.com/shorts/NAdgLfvEVwo?feature=share

 

 

皆既月食が、400年ぶりに惑星蝕と重なる。天王星が、月蝕の後ろに。

皆既月食と、惑星蝕が同時に見られるのは、400年ぶりとのことだが、天王星の場合、400年前には見られなかったのでは?

とすると、今回は、人類初の天王星蝕と皆既月食ということでは?

1700年代以前は、天王星は発見されてなかったのなら、占星術では、どういう扱いだったのだろう?

土星までしかない形で、占星術が考えられていたのだろうか?

 

ともあれ、

皆既月食をリアルタイムで眺めている人とは、わかりあえる気がする。

天王星蝕に注目している人とは、もっと深く理解しあえる気がする。

これは、何百年も前からの真実だ。科学はそうやって国境を超えて人々を繋ぎ合わせてきた。

 

写真

(1)月食始まる前

 

(2)皆既月食中

 

(3)木星とコラボ

 

(4)皆既月食から姿をあらわす。火星とのコラボ