たなごころで握るおむすび | 店舗探し.comの過去コラム

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2012/2/3

・おむすび
・おつゆ
・さんまの塩焼き
・ゆでとうもろこし

昨日の夕飯の献立ではありません。

『初女さんのお料理』
   佐藤初女著 主婦の友社

冒頭のメニューは本書でレシピが紹介されているものの一部です。
どれも、わざわざ教えてもらうほどのことはない気もしますが、
どうしてどうして。
佐藤初女さんのおむすびは、自殺志願の青年を思いとどまらせた
こともあるのです。
彼女は、ある雑誌のインタビューに次のように語ったことがあり
ます。

「おむすびの場合は粗熱をとってから握るんです。
 お水を手に付けることはしません。代わりに、塩を手にまぶし
 て、手の上で熱いご飯と塩が溶け合うように握ります。
 そうするとご飯がべたべたせず、海苔を巻いた時に香りがとて
 も引き立ちます。

 握る時はお米をつぶさないよう、お米が呼吸できるように、指
 でなく、たなごころで握ります。海苔をつける時も、ちょうど
 いい加減の温度の時にやらないと、海苔がふやけるとか、そう
 いうようなことを一緒に考えながらやります。」

彼女が主催する「森のイスケア」には様々な悩みを抱えた人がやっ
てきます。
彼女は身近にある食材で料理を作って、一緒に食べます。
話したくなった人の傍らでじっとその人の話に耳を傾けます。
やってきた人たちに初女さんがすることは、つまりはただそれだ
けの、ごく平凡なことです。

「おいしく食べて、そのことが心に深く残る。そのような料理を
 作りたい、と私はいつも考えています。
 でも、どこがその人の心に響くのか、わかりません。受ける人
 によって響き方は様々なので、10の工程で仕上がるものがある
 とすれば、どの工程にも手を抜かないで、すべてに心をかけて
 やらなくてはいけないと思います。

 時間と手数をかけただけ心がこもっているからでしょうか、一
 つ一つを丁寧にすると、不思議なぐらい伝わります。」

どうにもならない心の重荷を感じた時、そこへ行けば癒され、自
分を見つめ直し、新たなエネルギーを得ることができる・・・。
「森のイスケア」には次々に悩める人が訪ねています。

食事をする、風呂に入る、着替える、寝る・・・。

何気なくこなしているごく平凡な日常生活の作業であっても、潜
む真理をきちんと認識して気持ちを込めて振舞えば、誰かを癒し
たり、力づけることだってできるのかもしれません。

佐藤初女さんは90歳。
今なお現役で活躍しています。
(佐藤初女さんは2月1日に逝去されました。94歳でした。
 謹んでご冥福をお祈りします。)