人生の後始末 | 店舗探し.comの過去コラム

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2014/4/18

 

20年の歳月・・・。
 
『安部公房とわたし』(山口果林著 講談社)が出版されたの
は昨年8月でした。

 

女優山口果林さんの手による本書には、ノーベル賞受賞確実と
まで言われた作家安部公房さんと彼女の23年間に及ぶ交流が描
かれています。

 

本書には、先生と生徒、演出家と女優、そして男と女としての
日々の記録が、当事者が書いたとは思えないほど冷静に、淡々
と記述されています。
 
世界的作家と朝ドラヒロインを演じた著名女優との不倫。

 

タイミングと暴露方法の如何によっては、マスコミや世間を
大騒ぎさせるスキャンダルとなりうる素材を、しかしそのよう
に取り扱わなかったところに本書の価値があります。


本書は、文学史にその名を留める作家安部公房の評伝になって
いると同時に、難解ともいわれる彼の作品が成立した背景や、解
釈の手がかりを与えてくれる解説書としてもしっかり成立して
います。
 
本書のエピローグにはこうあります。
 
“・・・それまでずっと、作家は、発表した作品だけが後世に
 残っていればよいと考えてきた。
 
 書き進めた200枚もの原稿を、書き出しが間違っていたと反古  
 にし、冒頭から再度、取り組む安部公房の姿勢を尊重するな
 ら、私生活のエピソードを披露するなど決して喜んではもら
 えないだろう。

 

 それでもあえて、私自身のために踏み切った。

 

 いつまでも過去の亡霊に取りつかれていないで、自分の人生
 を取り戻しなさいと、ある人が言った。
 そうなりたいと心から願っている。

 

 2013年は、安部公房没後20年にあたる。
 私は、人生の後始末を考える年代に突入している。
 透明人間にされた自分の人生を再確認できれば、違う最終章
 を作れるかもしれないという淡い期待もある。”
 
青梅、渋柿、フグの卵巣・・・。

 

そのままでは危なっかしくて食べられたものではない素材も、
特別の加工を施し、一定の熟成時間を置いた後では極上の食品
へと生まれ変わります。
 
生臭いスキャンダルも、20年の熟成期間を経て、芳醇な薫りと
深いコクを持ったブランデーのような歴史的エピソードへと昇華

したのです。