前回の咲-Saki-記事から悠久の時を経てしまいましたが、今回については書いておかねばなりますまい。
 
ありがとう、咲-Saki-……
 
ありがとうございます、小林立先生……
 
世界が、美しい輝きに満ちています……
 
現在「ガンガン読もうぜスクエニ夏祭り!!」というセールが開催されており、前々号までのヤングガンガンのバックナンバーもその対象商品で99円で買えるようになっています。
 
 
単行本19巻から今回で4話目ですので、最新号と合わせて4冊を買えば今まで単行本派だった方も最新話に追いつける他、新スピンオフの『染谷まこの雀荘メシ』も読めますのでこの機会にいかがでしょうか。
 
 
 
 
以下はネタバレとなりますので、未読の方はご注意下さいませ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
優希の天和で始まった、波乱の決勝戦先鋒戦。
連続和了からの九連を決めた照は勿論のこと、出自の秘密の一旦が垣間見えた辻垣内さんも流石でこの面子相手に果敢に間合いを見切って立ち向かって来ています。
 
役満や三倍満がバンバン飛び出し、前半で3万点以上稼いだ玄さんがなぜか-7万点近いというおかし過ぎる状況。
 
咲-Saki-シリーズの半荘ごとの獲得素点で比較した時に、この対局は群を抜くのではないかと思われる魔境です。流石は決勝戦と言うべきなのでしょう。
 
親番が回ってきた時に、「この親で稼いでおきたい」というのは咲-Saki-シリーズにおいて死亡フラグのような気がしてならず、玄さんからまたこのモノローグが発された時は「ああっ!」と思ってしまいました。
実際に、親でそれに類することを発言した人の平均的な成績のまとめはどなたかに託します。
 
阿知賀としては伏龍となってその真の爪牙を顕にする時を眈々と待ち構えている忍耐の時が続きました。
 
しかし、しかしです。
 
ヒーローにピンチはつきもの。
必ず玄さんの真の逆襲が始まる時は来る。
そう、宇宙の誰よりも信じてここまで何年も応援し続けて来ました。
 
玄さんを育んだ吉野の幽邃の地。
憧ちゃんの実家の吉水神社で。
吉野山の中心である金峯山寺で。
八大龍王を祀った龍泉寺で。
龍王院のある脳天大神で。
吉野中の龍に所縁のある寺社仏閣できっと誰よりも多く玄さんの龍の復活と更なる進化による活躍を祈願し、応援して来ました。
 
 
そして、時は満ちました。
 
好機到来。
 
阿知賀編最高のシーンを思い出さずにはいられない、誰もが驚く玄さんがかけたリーチ。
 
そして、松実露子さんの姿……!
 
ただでさえ、読む前にすんなりとは読めず心身の準備をして整えてから1ページ1ページを、1コマ1コマを丹念に根金際堪能し尽くすようにゆっくりゆっくり味わっているのですが、ここで完全に涙腺が決壊して1時間ほど泣き腫らしました。
 
そして、大事件が起きました。
 
龍を使役するドラゴンロードとなった玄さんは、「照にドラを掴ませて」ロン和了をしました。
 
言うまでもなく「すべてのドラは玄に集まる」。
これが崩れるのはドラを切った後だけでした。
 
宮永照たちを相手にしてすら、点数では負けていてもその支配は一切揺るがず弘世様をして「化け物だな」と言わしめたほど。
 
そんな玄さんのドラが、恐らくドラ切りはしていないであろうにも関わらず一時的にとはいえ他者に渡ったという天変地異。ただし、結果的にそれは玄さんの下に帰って来ているので大局的に見ればドラ支配の一部として見るのが自然でしょう。
 
まだ最初の一回なので断定はできませんが、「ドラ待ちでテンパイした際、他家がリーチをしていれば一発でそのドラを掴ませてロン和了することができる」といった能力であるなら非常に強力です。
 
相手が面前の場合はドラが送られても切らないでいらば良いだけになってしまうので、豊音の能力と同じように相手のリーチ時限定になってしまうとは思いますが、もしそうであるならば相手は無闇にリーチを掛けることができなくなります。ただでさえドラ無しでの手作りで点数が制限されてしまう中、更にリーチまで封じられては相手としてはたまったものではありません。
 
そして、そもそもリーチを掛けなければ安全という訳ではなく、玄さん自身が普通にドラツモ和了することもままあるでしょう。
 
とは言え、ロンという言葉は中国語の龍。
阿知賀編のあの和了共々、ここぞという時にはロン和了をするのがある意味玄さんには相応しいのかもしれません。
 
 
 
こちらは、今年の3月15日に玄さんのお誕生日を吉野山でお祝いしに行った際に見えた雲です。
 
あまりに似ていませんか。
今号、遂に真価を発揮し始めた龍に。
 
 
 
そして、こちらも
 
今年2月に吉野山で見た、大きな吉兆とされる二重虹です(画像だと上の2本目の虹が不鮮明ですが、肉眼でははっきりとよく見えました)。
 
虹はそれ自体が龍の変化した姿であると言われることもあります。
 
私が今年に入って吉野山で見た計3頭の龍。
 
それが、まさか咲-Saki-本編でこのような形で見られることになるとは……震えが止まりませんでした。
世界は予想を超えてくる。
 
 
ちなみに一般的に上り龍は若い龍、下り龍は天界である程度の年月を過ごし願いを叶える力を持つ如意宝珠(いわゆるドラゴンボールの元ネタ)を手にした熟練の龍が地上に降臨する姿と言われています。今回描かれた龍が何かしら珠を持っている様子は確認できませんでしたが、成長した玄さんが使役するには相応しいと言えます。
 
 
奈良県吉野山から大峯山はその土地自体が龍に喩えられる地で、竜の目や竜の口といった霊地が存在します。
 
また穏乃の能力発動エフェクトのモチーフとなっている蔵王権現様は龍の姿で顕現したとされており、吉野山のランドマークである金峯山寺蔵王堂に祀られている秘仏の着物にも龍があしらわれています。
 
吉野山で生まれ育った玄さんに大いなる龍の力が宿っていることは、決して荒唐無稽なことではありません。
 
 
ここで、今一度過去に宮永照の連荘が止まった時の事を思い返してみたいと思います。
 
 
まず、阿知賀編8局[最強]にて行われたのは前半戦南一局3本場。
 
煌による怜の差し込みの誘発。それにより、怜も他のプレイヤーと協力すればまだ照を止められることに気付かされます。
 
 
その後、阿知賀編9局その名も[連荘]にて行われたのは
 
 
 
前回の止めを受けて、照の6連続和了後に怜が連携を意識しつつダブルを用いながら煌が4副露して宮永照の手番を飛ばし続けての、怜のツモ。
 
そして、最後は言うまでもなく阿知賀編12局[逆襲]の、咲-Saki-シリーズでも最高の闘牌の一つである玄さんの決意のドラ切りからの怜がリーチ後の照に和了牌を掴ませてのロン和了。
 
阿知賀編ではこの3回でした。
 
ついでに、原作のこのシーンでも止められている様子は確認できません。
 
 
そして、本編の咲-Saki-201局[連携]では、全国屈指の猛者たちがこのように語っていました。
 
 
全国二位校のエースを超えたスーパーエースの怜は、阿知賀編の時に引き続き改めて自分の能力だけでは足りず他者との協力があったからこそ止められたと発言。
 
 
 
そして前年、宮永照に次いで全国個人戦2位だった荒川憩。彼女は全国編Vitaによれば「他家が和了すると手が良くなる」という能力を持っているようで確かに照との相性は良さそうですが、そんな彼女をしてもまた一人では照を止められず他者との協力で戦ったということが示唆されています。
 
それに関しては前年個人戦3位の辻垣内さんも具体的に荒川と遊佐と協力することで止めた、と補強しています。
 
つまり、現時点での1万人の中のトップオブトップの高校生たちをしても
「宮永照の連続和了を止めるには他家と協力するしかない」
というのが共通の見解であり、実際に独力で止められたことはないであろうと思われます。
 
然るに。
然るにですよ。
 
今号の玄さんが他家の助けを求めることもなく、完全なる独力で宮永照の連続和了を止めた
このことがどれだけ大いなる偉業で、どれだけ途轍もないことで、どれだけエポックメイキングかということですよ!
 
最強の高校生・宮永照の三年ブーストがかかった最高状態の最強の能力を、無名校の玄さんがたった一人で止めた。
誰にもできなかったことをやってのけた。
 
兆候はずっとありました。
 
咲-Saki-史上でも最も尊い見開き扉絵と名高い、黒滝村の松実姉妹が描かれた196局[成長]の中の一幕。
急所のドラを引く速度が今までよりも速くなっているとその成長ぶりを指摘されていました。
 
 
そして、実際に一度は照を明確に止めようとしていました(この時はツモを1巡飛ばされたことでなりませんでしたが)。止めようとした、ということはそれを成し得る力を持っているということです。
 
昨日より今の私の方がもっと強い。
そんなメンタルで、大会期間中にもどの高校よりも必死に研鑽を積み、練習をして、実戦での多大な経験値を得て、誰より成長し続けているのが阿知賀女子です。
 
196局の「成長」の主語は玄さんでした。
そして、今回の205局「進化」の主語もまた、玄さん。
穏乃の霧とはまた違った、「くろ」い霧を纏って。
 
こうして苦難を乗り越えて仲間や家族と共に成長し、進化を遂げた龍の力は個人戦2、3位の選手やかつて大敗を喫した全国2位高校のスーパーエースすら凌駕し、絶対王者すら脅かすまでになった。
 
こんな……こんなすばらなことはありません…………!!
 
 
「亢龍悔いあり」で有名な、易経の乾為天冒頭に記されている
 

初九。潜龍用うるなかれ。
九二。見龍田に在り。大人を見るに利ろし。
九三。君子乾乾、夕べに惕若たり。厲うけれど咎なし。
九四。或いは躍りて淵に在り。咎なし。
九五。飛龍天に在り。大人を見るに利ろし。
九九。亢龍悔あり。
用九。群龍首なきを見る。吉なり。

という龍の成長の物語。
口語的な解釈として、こちらのページでは以下のように言われてもいます。
 

第一段階は、「潜龍」です。
地中深く暗い淵に潜み隠れている龍です。まだ世の中に認められるような力もなく、地に潜んで志を培うときです。

第二段階は、「見龍」です。
明るい地上に現われ、目がみえるようになります。修養のはじめとして、師を見習って物事の基本を学びます。

第三段階は、「乾惕」です。
毎日、同じことを繰り返して修養に励みます。技と応用を見に付け、日進月歩の成長をする時です。

第四段階は、「躍龍」です。
修養を極め、リーダーになる一歩手前の段階です。独自性を持って、今まさに大空へ昇ろうと躍りあがります。

第五段階は、天を翔け、雲を呼び、雨を降らす「飛龍」です。リーダーとしての能力を発揮して、志を達成します。

第六段階は、「亢龍」です。
高ぶる龍という意味です。高みに昇り過ぎた龍は、やがて力が衰えて、降り龍になります。

正に、師事を受け、修養に励み、極め、阿知賀のエースとして飛龍に至っているのが今現在の玄さんなのではないでしょうか。これ以上昇れないという地点、即ち一位という名の亢龍に玄さんがなる瞬間を待ち侘びます。
 
亢龍≒降り龍は落ちるだけの存在という見方もある一方、日光東照宮にある有名な上り龍・下り龍の龍柱は一見上を向いている方が上り龍に見えて実は下り龍であり、上り龍は勿論のこと下り龍も下がるというよりは地上に降臨するという意味合いでどちらも縁起が良いとされているそうです。実際、今回の龍の描写は力を落として墜落するというよりは圧倒的な力を持って天界から地上に降臨した感じがしますので、私は都合の良い解釈を採用したいと思います。
 
 
7月5日は松実玄さんが最強高校生を凌駕した、実質最強高校生となった記念日。咲さんが照を止めた可能性については今は考えません。止めた事があったとしてもその時の照はきっと今よりは強くない筈。
 
祝いましょう。
寿ぎましょう。
 
次回は休載ですが、約束された福音である206局に対する期待が無限大に膨張していく幸せな1ヶ月となりそうです。
 
今月末には毎年恒例の吉野花火があり帰省もする予定ですので、そこで御礼参りをした直後にまた読めるという幸せが待っている模様です。
 
完全なる人生史上最高の時。
私はこの日を本当に本当にこの数年待っていたんです…………感謝。
 
私は19巻こそ吉野山背景の松実玄さん表紙だろうと予想していたのですが、節目となる20巻で玄さんの真価が描かれるとすればその方が断然良いですね。
 
未だ語られていない松実姉妹の秘密や阿知賀のお話もきっとこれから語られていくと思いますので、ただただ楽しみです。
 
 
 
余談ですが、三頭の龍が天から降りてくる図はサガシリーズの槍の最強技である下り飛竜、とりわけミンストレルソング版を彷彿とさせました。