最近、ありがたいことに「『鬼滅の刃』についてお話を聞きたい」と取材を受ける機会が多いです。

J-WAVE、週刊女性、そして昨日放送のとくダネ!などで色々と話をさせてもらいました。

ただ、これはまったく責める意図はないのですが、メディアの特性上どうしても30~60分話しても使えるのはほんの数十秒~1分程度、ということもしばしば。その結果、話の文脈などは完全に立ち消え、非常に浅薄な意見を述べているように見えてしまうことにもなります。そして実際そのように拡散されてしまっていたのが散見されました。とはいえ、もし私が視聴者の立場で傍から見ていたらそう思っただろうなあと思います。

個人的にはそういうものだと理解して割り切って出ているところではありますし、「マンガソムリエとか名乗っているヤツが適当なこと言ってるけど、実際はこうだろ!」と私がダシになることで『鬼滅の刃』談義が盛り上がりに一役買えていたなら、むしろそれは歓迎すべきところです。

しかしながら、一応読み切り時代からずっとリアルタイムで吾峠呼世晴さんの作品を読んできて、コミックス1巻のあまりの売上の低さや常に雑誌の後ろの方にいる(掲載順番はあまり関係ないと言われていますが、それでも怖かった)ので応援のためにアンケートも送っていた身として、『鬼滅の刃』について改めて語っておきたいと思った次第です。


◆『鬼滅の刃』はどれくらい売れているのか
2016年2月に連載が始まり、2016年6月に第1巻発売。その時はまだ2万部も売れませんでした。週刊少年ジャンプ作品としてはかなり下の方であり、webのジャンプ+で人気の『地獄楽』が1,2巻で25万部といった数字と比較してもかなり心配になるものではありました。

4巻位まではまだあまり名前も知られず低迷していたものの、5巻頃から徐々に売上が伸び始めます。そして、2019年に未曾有の快進撃が訪れます。

2019年
2月15日 350万部
連載3周年を迎えてアニメ化も発表され、3年間で350万部に。

4月7日 500万部
アニメ開始時にはこれまでの1年分以上の売上を2ヶ月で達成。

7月19日 800万部
更に3ヶ月で300万部上乗せ。

9月29日 1200万部
神回19話を経て、アニメ終了時には2ヶ月と少しで400万部上乗せし1000万部超えの大台に。

12月4日 2500万部
勢い止まらず、2ヶ月で1300万部上乗せ。18巻は初版100万部超え。

2020年
1月27日 4000万部
勢いは更に加速し2ヶ月足らずで1500万部上乗せ。19巻は初版150万部。

5月1日に20巻が出ますが、その頃には4000万部の発表から3ヶ月経っており更に話題も人気も加熱していることから5000万部は悠々突破し累計約6000万部、20巻初版200万部といった数字になっていてもまったく驚きません。

現在のジャンプでは3600万部の『ハイキュー!』や2600万部の『僕のヒーローアカデミア』を既に超え、上には4.6億部の『ワンピース』と7300万部の『HUNTER×HUNTER』しかいません。ジャンプ歴代でも既にベスト20に入る売上に達しており、今年中に7000万部の『るろうに剣心』や『キャプテン翼』を超えてベスト10入りするのは堅いでしょう。

ちなみに『ワンピース』でも「頂上戦争編」の頃の2010年及び2011年の年間約3900万部が最高記録ですが、今の『鬼滅の刃』はそれを上回るペースで売れ続けています。

現在の2ヶ月1500万部のペースを維持するだけでも年間9000万部という異次元の数字が見えてきます。劇場版の無限列車編公開タイミングなどにもよりますが、まだまだ話題は尽きないため維持するどころか更に加速していく可能性もあります。今年中に、あるいは今年達成しなくても来年前半には累計1億部を突破して、すべてのマンガの中での歴代ベスト10入りしていく可能性もかなり高いです。

 

『ワンピース』が1億部突破するのに要した時間は7年でこれが歴代最速記録ですが、それを『鬼滅の刃』は4年で達成しようとしているペースであると言えばどれくらいの異常事態か伝わるでしょうか。


◆ここまで爆発的に売れている外的要因
まず、そもそも売れるマンガとは何か、と問うた時の答えとして「面白いマンガ」というのは二番目だと言われます。では一番目は何かというと「話題のマンガ」。身も蓋もない話ですが、「話題のマンガ」は話題だからこそ手に取られ更に売れ、そして売れたからこそ話題になり、有名人・インフルエンサーも話題にし、そしてまた売れるという好循環が起こります。

多くの人が触れている作品というのは、それだけで面白い面白くないに関わらずコミュニケーションツールとして機能します。もちろん、「面白いマンガ」は話題になりやすいですし、多くの話題のマンガが一定水準以上面白いのは確かです。ただ、残念ながらとても面白いのに話題にならず売れないまま終わってしまうマンガも少なからずあるのが実情です。

世界で一番売れているマンガは『ワンピース』ですが、では『ワンピース』が世界で一番面白いマンガかといえばそれは人によるでしょう。これはマンガのみならず他のコンテンツでも同様です。

ともあれ、大ヒットを飛ばすためにはどこかで大きく話題になる必要があります。近年では『キングダム』がアメトーーク!のお陰で大ブレイクしたこともありましたが、『鬼滅の刃』の場合のそれは明らかにアニメ化であったと言えるでしょう。アニメ化前後での部数の推移が如実にそれを示しています。

2011年にufotableが制作したアニメ版『Fate/Zero』を観た時、そのクオリティに私は心底驚き感動しました。その後もufotableは毎週放映するアニメとは思えない高クオリティの作品を生み出し続けています。『鬼滅の刃』がufotableによって作られたことは大きな幸運の一つであったと思います。

マンガで読む時以上に映える美しく格好いい各種アクションを始めとする美麗な映像、紅白でも歌われた主題歌「紅蓮華」を始めとする素晴らしい楽曲、豪華声優陣の心震える熱演、そして類稀なる原作愛に裏打ちされた原作を補完し更に物語を深める数々の演出、そのどれもが超一級でした。

そして、アニメが純粋にハイクオリティだったことに加えて、多くの人がスマートフォンやタブレットを所持しAmazon Prime、Netflix、hulu、U-NEXTなどなど何かしらの動画配信サービスと契約して気軽に観ることができる環境が整っていた、というのも大きな要因だったと思います。

一昔前であれば「このアニメ良いよ」と言われてもDVDやBDを全巻を買う、借りる、それをプレーヤーにセットしてTVの前で観るなどする必要がありました。しかし、今や通学・通勤中でもベッドの上で寝転がりながらでも、かつてより遥かに安価かつ容易に作品に触れられるようになりました。録画し逃してテンションが落ちることもなく、すぐにネットを介して全話観ることができる。それによって布教のハードルも非常に低くなっており、布教する側も気軽に「観てみて!」と言うことができるようになっているのは現代の強みでしょう。

アニメ放映時にはTwitter上でも日毎に鬼滅の刃について語る人が増えていき、特に神回と名高い19話の際には言及数も二次創作も観測範囲で爆発的に増えたことは記憶に新しいです。

アニメを観終わった後に続きが気になって原作を求める人が続出し、無限列車編以降の巻だけ売り切れている書店なども数多く観測されました。そして、無限列車編以降更『鬼滅の刃』は更に右肩上がりに面白くなっていきます。単行本で続きを読んだ人は「アニメの後の方が面白い、この面白い部分を皆読んで欲しい!」と広めたくなる作りになっています。

『鬼滅の刃』が作者の初連載作品であることもあり、正直序盤の巻だと画力や演出力の面でまだこなれていない部分がないとは言えません。実際に1,2冊読んで「そこまで面白いと思えなかった」と止めてしまう方も少なからずいます。ただ、『鬼滅の刃』は巻数が重なってから物語もキャラクターも画力も演出力も大きく魅力を伸ばしていきます。

もっと言えば最新部分がクライマックスを迎えて一番面白くなっています。毎週月曜日には本誌勢の阿鼻叫喚が満ちることもあって、下手なお薦めより口コミ効果がありどんどん単行本派、そこからの本誌派も増えて行っている印象です。

特に電子版のジャンプ+なら全国一律の配信日で、『鬼滅の刃』は毎週フルカラーで読める上にその他おまけも付くということで、相当購読者を増やしているでしょう(好きなマンガの好きなページをTシャツにできるという素晴らしいサービスも行われているジャンプ+ ですが、『鬼滅の刃』の場合はフルカラー版からも作れてお得なので推しのTシャツが欲しい方には非常にお薦めです)。

また、ジャンプ編集部の努力も当然あります。毎巻発売の度に付く特典もそのひとつ。18巻はランダムで18種類のポストカードが付き、19巻は特典こそ付かなかったものの人気投票券が付いていました。これによって、推しのために複数買いする方もおり、中にはひとりで100冊以上買っている人も見受けられました。20巻も特装版として16種類のポストカードが付いているバージョンがあり、既に書店での予約も締め切られているところもある人気ぶりです。

単行本発売の度にこうしたことでお祭化することもあり、話題になる機会が増えて現在も大驀進している状態です。


◆『鬼滅の刃』のさまざまな魅力
実に多岐にわたる作品の魅力。ひとつずつ語っていきましょう。

1.ジャンプ作品らしい王道ストーリー
『吾峠呼世晴短編集』に収録されている『鬼滅の刃』連載より前の短編を読むと、吾峠呼世晴さんの作家性が非常によく解ります。暗鬱さ、不気味さをはらみながらも、どこか琴線に触れてくる物語たち。その作風は、どちらかと言えばガンガン系やエース系、あるいはジャンプSQ.系でジャンプ本誌的ではないと思えます。しかし、『鬼滅の刃』ではその作家性も大いに残しながら、ジャンプらしいと十分に言える最大公約数的なところに上手く着地させています。これは、担当編集者の手腕によるところも大きいでしょう。

ジャンプといえば「友情・努力・勝利」。間違いなく、その三拍子も『鬼滅の刃』にはあります。憎き悪役がいて、それを倒すために友と修行して強くなって、派手な必殺技で倒す。

そして、『鬼滅の刃』では主人公・炭治郎の動機は家族を惨殺した鬼・無惨への復讐と、鬼にされた妹を元に戻すこと。ストーリーの骨子はジャンプの王道を踏まえています。もっと極めてシンプルに言えば、刀を振るって鬼を倒す話。日本人なら誰にとっても親しみのある題材であり、故に取っ付き易いです。

また、『ワンピース』や『進撃の巨人』、あるいは『新世紀エヴァンゲリオン』など社会現象と言われるまでにメガヒットしたコンテンツのひとつの共通の特徴として、語り合い考察したくなる「謎」があることが挙げられます。しかし、『鬼滅の刃』にはそれはありません。あくまで純粋に物語を楽しむ作りとなっています。

「謎」の存在は世界観を引き立て大きな楽しみを与える一方で、難解さを感じさせ物語へ入る障壁として作用する場合があります。そういったハードルがないのも、『鬼滅の刃』が子供から年配の方まで広く受け入れられる要因かもしれません。


2.エンターテインメントの基本を押さえている
「笑い」、「エロス(恋愛)」、「バイオレンス」は古今東西を問わず普遍的に人類が好むテーマであり、エンターテインメントから無くならない要素であろうと言われます。

特に「笑い」は『鬼滅の刃』の特徴的な魅力を担っているもの。ストレートなギャグから独特のセンスによるシュールな笑いまで、多くのシーンで笑わせてきます。特に異端なのは、極めてシリアスな状況下であってもそうした描写がなくならない点。特に、連載最新の無惨とのラストバトルの最中であってもちょくちょく笑いを入れてくるのは今までのジャンプ作品と大きく異なる点のひとつと言えます。それが決して物語を追う邪魔となっておらず、悲喜の抑揚を生むアクセントとして働いているのは筆者の力量によるもの。

エロス(恋愛)に関しては若干薄めではありましたが、中盤からは主に恋柱が八面六臂の活躍です。ネタバレとなるので深く言及はしませんが、恋愛という部分に関しても素晴らしいエピソードを見せて心を掴んでくれます。とある二人の関係性に私は目頭を熱くさせられました。

バイオレンスに関しては言うに及ばず。

そして、私は『鬼滅の刃』を「友情・努力・勝利」というより「愛・努力・勝利」のマンガであると定義することがあります。親や師や兄弟姉妹など、家族愛や恋愛、友愛なども含めた他者への想いが炭治郎たちの闘う力の源になっているのに加え、敵である鬼たちにもそういった物語が存在します(後述)。

多くの人が普遍的に好むエンターテインメント性をしっかり取り揃えている作品であると言えます。


3.テンポの良さ
『鬼滅の刃』は、とにかくテンポが良いです。引き延ばされてるなぁと感じる部分は今のところ一切なく、気持ちよく話がどんどん進行していきます。

ちょくちょく挟まれる修行パートは若干長めですがそれも気になるほどではありません。これは作者の「人間はそんなに簡単に強くならない」という想いからきているそうです。


4.一線を画す魅力的な主人公
悟空やルフィといった従来のジャンプ作品主人公の多くは超人的な力を身に付けているが故にどこか思考も人間離れして共感しにくい部分というのがあります。「死んでもドラゴンボールで生き返る」のような発言は最たる例ですね。

一方で、竈門炭治郎という主人公はどこまでも人として真っ当であることを善しとする人間であり続けます。そして、道理に背く者がいればダメ出しし、諭し正していきます。

自分勝手なところがなく、スケベでもなく、面倒くさがりでもなく、臆病でもなく、卑怯でなく、馬鹿でなく、戦闘狂でもない。働き者で家事もできて気配りもできて真面目で素直で家族・仲間思いで人の痛みに対して鋭敏で優しく自己肯定感がとても強く、いざという時は男らしくて頼りになり格好いい。故に仲間たちからの信頼も厚い。強いて言えば、ちょっと天然で頑固。

こういった性格の男性キャラクターは恋愛マンガでは見かけることはあります。しかし、ジャンプのバトルマンガ、とりわけダークファンタジーの主人公としてはかなり異端な存在であると感じます。

40代の女性が、子どもがハマっているわけでもないのに自分から読んでハマりとりわけ炭治郎をかわいい息子のように思いながら読んでいるという事例も耳にします。実際に自分の子供が炭治郎のように優しく強く育ってくれたら申し分ないでしょう。類稀な魅力を持った主人公であることは間違いありません。


5.サブキャラクターの魅力
『鬼滅の刃』が特に中盤以降に面白くなると言われる理由のひとつとして、魅力的なキャラクターである「柱」の登場が挙げられます。『HUNTER×HUNTER』の幻影旅団や『ブリーチ』の護廷十三隊のようにまず非常に戦闘力が高く、その上で個性豊かで、仲の良い者もいがみ合っている者もいる名脇役たちです。彼らが命懸けの修羅場で見せる強さは頼もしく格好よく、また垣間見られる彼らのささやかな日常はコントラストのように輝いて尊く見えます。

『鬼滅の刃』はキャラクターの男性比率が高く、敵にも魅力的なキャラがいるため女性にも人気が高いのも頷けます。また今の読者の内、特に女性は「推しキャラ」を見つけて愛でながら楽しむ文化が根強くなってきています。『鬼滅の刃』はキャラ数が多いため推しを、推しでなくとも好きなキャラクターを見つけながら楽しむということがしやすくなっています。

女性キャラだと禰豆子やカナヲがかわいい。それはもちろんあります。個人的には珠世さんも好きです。


6.敵である鬼の物語
炭治郎たちが闘う相手である鬼たちは皆元人間でありながら不老不死になっています。それは、永遠性を求めて人間の限りある時間を超越した存在です。その裏にはさまざまなエピソードがあり、それがまた非常に人間的で痛切で胸を打つこともあります。

敵側の同情を誘うような話を用意することは、通常は打倒した時のカタルシスを削ぐため諸刃の刃だと言われます。しかし、『鬼滅の刃』では敢えてそれを毎回極めて丁寧に描いていきます。その鋭い諸刃が心に深々と刺さり、大きな感動や葛藤が引き起こされます。

鬼たちは永遠の命を得ながらも完全に幸せになった者はおらず、享楽に耽る瞬間はあっても無惨のコマとしての鬼となった上での苦しみを抱えていたり、人間の時代からの後悔や怒りや哀しみを抱いていたりする者ばかりなのもポイントです。そして、たとえ無惨本人が太陽を克服して鬼狩りを滅ぼし尽くしたとしても、彼が真に幸せになれることはないでしょう。

 

人間が追い求める理想を体現しながらも、そこに幸せはないという断ち切れない哀切が心を焦がします。


7.類稀なる言葉のセンス
担当編集者は義勇の「生殺与奪の権を他人に握らせるな」というセリフに感動したそうですが、吾峠さんは心の襞に引っ掛かる絶妙な言語感覚を持っています。

「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」
のような名ゼリフもそうですが、シリアスにもギャグにもそのセンスが生きています。

特に、ラスボスである無惨の言動には異常者感と小物感が双方ともに突き抜けていて不思議な魅力すら持っているのはセンスの顕現です。絶望感を覚える強さと人間離れした異常性を持ちながらある部分は人間臭くもあり、そして実に滑稽で笑わせてくれるというラスボスは『彼岸島』の雅などに類型はありますが、あまり見たことがありません。

個人的にはシリアス部分の文学的なモノローグか好きで、特に20巻収録の177、178話は秀逸なので単行本派の方には是非堪能して頂きたいです。


8.人間が人間として、元人間と闘うもののあはれ
鬼狩りたちはどれだけ強くても人間です。四肢を落とされれば治ることもありません。怪我をすれば行動に支障が出ます。そして人間の命の時間は鬼から見ればごく僅かで限られています。

しかし、鬼にはない人間の強みは自らの世代で叶わぬ願いを子や孫や友や伴侶に伝承していくことができること。自らの命が尽きた後も、意志を遺すことができることです。

また、人間は人間同士で協力してひとりではできないことを成し遂げる力を持つことができます。それこそが人間の強さの一端であり、正に鬼狩りもそのような在り方を見せます。一騎討ちになるシーンもありますが、ケンシロウがラオウを、悟空がフリーザをひとりで倒すような時とは違い、炭治郎たちは多くのシーンで共闘して無惨や上弦の壱たちに立ち向かいます。

「自分にできなくても必ず他の誰かが引き継いでくれる 次に繋ぐための努力をしなきゃならない 君にできなくても君の子どもや孫ならできるかもしれないだろう?」(12巻)
という炭治郎のセリフにも、主人公自らが次世代への継承を考えて人間全体の力で闘おうとしていることが見て取れます。

炭治郎たちはあくまでも人間としての範囲内で修行して強くなり、人間が持ち得る力で以て鬼たちに対抗します。親や、師や、兄弟姉妹や先達が伝えてくれた技術、知識、道具、想いを継承して共に闘います。哀しくも命を落とした多くの無念や願いも背負って。

人間の最大限で、人間であることを止めた者たちを否定する。命に限りある者たちが、永遠の命を持つ者たちを超えていく。

日本人には古来より散りゆく桜のような限りある儚いもの、亡びゆくものに美やあはれを見出す感覚が備わっています。「永遠性への憧れ」をどこかで持ちながらも同時にそれは叶わないと悟り、限りある生をできるだけ充実させて謳歌する。終わりがあるから哀しい、しかしだからこそ美しくもある。

ただでさえ短い命を「痣者の代償」などで更に縮め、自らの命を他者のために差し出すような彼らの悲壮なる決死の覚悟には、そして実際に命を散らす時の様子には、あはれを感じずにはいられません。そして死した者の遺志を継いで遺された者たちは更に強く成長する。それは普遍的な人の営みの本質に通じています。

こうした構図が貫かれているところは『鬼滅の刃』の大きな美点であり、それによって生まれる奥深い妙味こそ子供だけでなく大人にも受けている大きな一因と言えるでしょう。


◆終わりに

『鬼滅の刃』の細かい魅力に関しては他にも様々に述べることができると思いますが、紙幅の関係もあり今回はこの程度の概説に留めておきます。後はお酒でも飲みながら一緒に語りましょう。

 

昨日の放送では、こうしたことを語った文脈の上で「それ以外に何か各世代に受けている理由として思いつくものは?」ということでああした回答になったことを述べさせて頂きます。繰り返しますが、それに関して番組側を非難する意図はありません。使いたい、使いやすいところを使って頂いただけという認識です。


個人的にはこれだけ注目され売れている作品をジャンプ編集部はすっぱり終わらせるのか、それとも無惨を倒した後も何かしらの形で話は続くのかは非常に気になっています。やろうと思えば無惨のように鬼を増やせる鬼が新たに発生したり、無惨本人がDIOのように復活したりなどやりようはいくらでもありそうです。

しかし、物語としては綺麗に、間延びせず終わって欲しいという気持ちも強いです。どういう結末になるにせよ佳境を迎えている今、月曜日の最新話が楽しみです。

そして、単行本派の方は20巻ラストの方にいるはずの私の推しを何卒よろしくお願いいたします。


参考
『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話
https://news.livedoor.com/article/detail/17760339/