僕の最も好きな作家の一人である、
黒川博行氏の作品をご紹介します(^-^)/
黒川博行氏は2015年 直木賞を受賞


「果鋭」(幻冬舎)

「悪果」「繚乱」と続く、堀内&伊達コンビのピカレスク小説、第三弾です。
黒川ファンとしては、待ってました!と快哉を叫んだところです(笑)

前作でのショッキングなラストシーンから、話は続いて行きます。
主人公の堀内が、自身の身に起きた環境の変化に、戸惑ったり、時に自棄になりながらも、相棒である伊達と仕事をしていくうちに、徐々にかつての感覚を呼び起こして行く様が描かれています。

過去2作を踏まえてのこの作品なので、堀内と伊達のコンビ愛が深まっています。
コンビ愛と言っても、二人は企業恐喝も厭わない悪党ですが(笑)

つまらない建前や照れなど無く、
「やっぱり堀やんはワシの相棒やで」
と笑う伊達の愛嬌に、シリーズ作品ならではの感動を覚えました。
元刑事の二人が、地道な捜査で事件の核心に迫って行く過程は、まさに迫真です!

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「繚乱」(角川文庫)


黒川氏の代表作「悪果」の続編。
前作と同じ主人公コンビが、とある不動産絡みの事件に対峙する物語です。

内容を一言で説明するなら「善人が一人も居ない物語」です(笑)

主人公コンビは、金にも女にも潔白とは言えない相変わらずの悪党。
彼らの回りは、元警察幹部から反社会的勢力まで、腹に一物を抱えた、生き馬の目を抜かんとする連中ばかりです。

そんな悪党だらけのぶつかり合いを、重た過ぎず、軽薄にもなり過ぎないギリギリの筆致でテンポ良く描いてみせる筆者は、本当に見事なエンターテイナーです!

衝撃的なラストシーンは、さらなる続編があるのか無いのか、どちらとも読める巧みな描き方でした(笑)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「悪果」(角川文庫)
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黒川作品のマイ・ベストワンがこちら。
悪徳警察官が転落して行く様を描いた、一種のノワール小説(犯罪小説)です。

悪徳と言っても、主人公は決して根っからの悪人ではありません。陽気な大阪人の性根も持ちます。

それが、平凡で怠惰な日常の中、極めて小市民的な慢心や驕りが生じ、気が付いた時には、後戻り出来ないほど嘘で固塗された人生に変貌している……という、考えようによっては、とても恐ろしい展開の物語です。

その恐ろしさを、シリアス一色に描くのではなく、大上段から哲学的に振り降ろすのでもなく、関西弁の会話をベースにしたユーモラスな空気間の中に溶け込ませる所が、黒川氏の真骨頂なのだと思います。

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「落英」(幻冬舎)
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「悪果」から六年ぶりの長編。
黒川ファンとしては、本当に待ちに待った一冊でした。

「悪果」同様、悪徳警察官の転落がテーマです。
「悪果」に比べれば爆発力はないものの、
ぐいぐい引き込ませる展開と、場面場面の描写の具体性が抜群です。
「悪果」に負けず劣らずの満足度を得られる作品です。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「燻り」(講談社文庫)


9つの短編からなるピカレスク短編集
主人公はみんな悪党という、著者が大得意なパターンです。

サスペンスタッチな話あり、謎解き要素の強い話ありで、読み手を退屈させません。

ちなみにタイトル「燻り」とは、何をやっても上手く行かない、ツいてない落ち目状態を指す隠語。
関西圏では「くすぼり」とも言うそうです。

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「アニーの冷たい朝」
(創元推理文庫)


筆者の初期の作品。
犯人の側からの視点でも描かれた作品。

犯人視点と言っても、その正体は作品終盤まで秘されており、フーダニットの謎解き要素も併せ持っているのが特徴的。

猟奇的な犯行シーンもありますが、作品が決して陰鬱になり過ぎず、読み手のワクワクハラハラを失わせません。
ラストシーンは切なく悲しく、涙ほろり。

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「左手首」(新潮文庫)
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黒川氏の短編集の中で、一番のお気に入りがこちら。
基本的に、犯人の側からの視点で描かれています。

表題作の「左手首」は、まっとうな社会生活からドロップアウトしたアウトロー(=簡単に言ってしまえば、チンピラ) の主人公の、生々しい心理描写が圧巻です。

いやぁ、とにかくエグい!

浅田次郎氏も、悪党が主人公の小説をよく書きますが、浅田氏の「悪党」には人情や愛嬌のようなものが必ずあり、どこかヒーロー的な側面もあります。

対して黒川氏は、何の取り柄もないような、芯から腐った悪党を平然と主人公に描きます。
しかし、読者に不快感は抱かせない。

本作も、多くの読者が、この主人公に「早く破滅してしまえ」と、逆説的な『感情移入』をしながら、ニヤニヤと読むのではないでしょうか?(笑)
ここに黒川文学の魅力の一端を見ます。

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「蜘蛛の糸」(光文社)
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こちらは変化球気味の短編集。
黒川氏お得意の犯罪小説ではなく、かなりトリッキーでファンタジックな作品ばかり集めた一冊です。

読んでいて、正直「???」となることも多かったです(笑)
異色の作品。

しかし、作家が主人公で、小説執筆の心得を語っているシーンなどは、黒川氏本人の創作術の一端が覗けたようで、ファンとしては何だか嬉しかったです。

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「カウントプラン」(文春文庫)
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この短編集は犯罪小説ですが、従来の黒川パターンと少し違い、人物描写の掘り下げよりも、むしろ、トリックやロジックに重きを置いた、ミステリ系パズル小説の側面が強かったです。

特に表題作の「カウントプラン」は、ミスリードや伏線が非常に見事で、オチに「アッ」と言わされました!

筆者の初期の作品「切断」もパズラー小説気味ですが、それを思い出しました。

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「てとろどときしん」
(角川文庫)
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こちらは、刑事が主人公の正統派短編集。
使命感や誇りなど全然ない、典型的なサラリーマン刑事が、時に鋭い推理力で、時に何となくダラダラと、事件を解決して行きます。

黒川作品に登場する人物は、誰一人として輝いていません。みんな、どこか澱んで濁っています(笑)

隣りの家に住んでいるような、何の変哲もない「普通の市民」が、ヒーロー的なカッコ良さとは無縁に、毎日を普通に生きている。
にも関わらず、いや、だからこそ、そこに人間ドラマが起きる。

日常の、ほんのわずかな「ゆがみ」や「ひずみ」が産み出す喜怒哀楽が、黒川作品の真髄なのだと改めて感じさせてくれる一冊です。

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他にもまだまだご紹介したい作品がいっぱいあるのですが、ひとまずこの辺で。

これだけ集中的に黒川作品を論じると、気分はすっかり、煙草をくゆらせながらワイングラスを傾ける「悪党」のそれになります(笑)

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【ご参考】
劇団や劇団メンバーの紹介は、
「tsukipedia」
をご参照下さい。