どんなに優秀な人間でも

長く同じ環境が続くと

エネルギーは低下してしまうものである。

そこで私は、日常生活からしばしの脱却を試みるため

次郎号に乗り込み

自宅オートロックマンションからやや距離のある

深い森を探索することにした。



この行動を、子供染みていると思うなかれ。

何かを究めんとすれば、時にばからしさも必要である。

アルベルト・アインシュタインの相対性理論は、

アイザック・ニュートンの古典力学を

否定するところから始まったと言われている。

常識や既成概念に捕らわれていては、

新しいことなど何も始まらないのだ。



森の中を散策しながら、

私がそうした学術的なことに思いを馳せていると、

背後でふと何かが動く気配がした。

振り向いた私の視線が捉えたのは、

空中浮遊しながらこちらを見下ろす老婆の姿。



……ふん、どういうつもりか知らないが、

そんなもので私を驚かそうとでも言うのか?

人生にはばからしさも必要と言ったばかりだが、

これはいささか度を越している。

私は、あまりのくだらなさに抗議する意味も込めて、

堂々とその場で昼寝を決め込むことにした。



目を覚ましたのは、

それから小一時間ほどたった頃だった。

私は、確認するのも面倒だったが、

先程目にした茶番が続いているようなら

さすがに一言、注意してやろうと目を向けると、

そこにはまだ、空中浮遊する老婆の姿があった。



そのあまりのばからしさに、

私は続けてその場で眠りに落ちそうになったのだが、

白目をむく寸前で思い留まり、

問題の老婆を凝視した。



……すると、よくよく見れば

それは空中浮遊する老婆などではなく、

風で飛ばされてきた選挙か何かのポスターが、

木に引っ掛かって貼りついているだけのことだった。



結果、思慮の浅い人間であれば、

無為な時間を過ごしたなどと思うかも知れないが、

私の考え方は少々違う

わずかな時間とはいえ、

私は、木々と緑に囲まれ、

森の息吹を大地から直接感じ取る時間を得たのだ

多忙なスケジュールを日々こなしている私にとって、

実に有意義かつ貴重な時間だったと言えるだろう。





上田次郎オフィシャルブログ「天才の私から君へ」by Ameba

穏やかな休日の午後。

深い森にいだかれながら

“自らの意思”で昼寝するのもまた一興だ