八千代の罪 1 | rune,wird

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※再投稿です。

あ、まだ政之条がアースの息子になる前の話だ(゜д゜)








「ゔ……ゲホッ、ゲホッ」





「八千代(やちよ)!
大事無いか?
苦しいか?」





政之条(まさのじょう)は八千代に剣の指南を受けている最中であった。


その最中で、八千代が方膝を付き、
左手を口に添え、
激しく咳き込み出したのだ。



政之条は駆け寄り、背を擦ってやる。



ここは天界の本上屋敷。



本上家は、

天界と魔界、地上、神界など、

それぞれの土地を繋ぐ鉄道の整備等を統括する天界の名家だ。



その嫡男政之条は、
死神と呼ばれる青年“クレヴァー”によると、
世界を救った英雄、

『生物の最高峰』

と呼ばれる“ヘイム”と言う人物の生まれ変わりらしい。



八千代はかつてヘイムと共に過ごした精霊の一人であり、
ヘイム亡き後、もう一度彼女に会いたいと願い、
死神と取り引きした。



死神……

クレヴァーとの取り引きによって、

ヘイムの生まれ変わりを知り、
その変わり八千代は精霊から人間へと時間の流れを変えられたのだ。



「大丈夫です。



いつもの発作です」




八千代は時折、咳き込む事があった。



取り引きによって、
精霊から人間へと無理矢理変換させられた為、
魂と器が合わないのだ。




「されど、苦しそうではないか!」




政之条は必死に八千代の背中を擦る。



「おやおや。
若様がそんなに心配して下さるとは……

何か下心がおありですか?」


「し、したごころぉぉ??!!」





何か思い当たる事があるのか無いのか、
政之条は声を裏返させ叫んだ。



すると、八千代がまたもや咳き込む。



「八千代!
菊次(きくじ)を連れて参る!!」




菊次こと、
菊次郎(きくじろう)とは、
政之条に仕える者の一人で、
医学を習得している、
政之条の主治医のようなものだ。




「大人しくそこに居るのだぞ!」




咳き込む八千代を置いて、
政之条は駆け足でその場を去って行った。






「ハァ…ハァ……」





八千代は肩で大きく息をすると、
口に添えていた手に視線を落とす。



掌にはねっとりと、
どす黒い血の塊がこびりついていた。



近くの木に寄り掛かり、
目を瞑って深呼吸をする。



嫌な汗が首筋を伝うのを感じた。





「よぉ、八千代。元気か?」





それまでこの場に居なかったハズの青年が突然現れた。



膝まで伸ばした長い髪を、
丁寧に三つ編みで束ね、
赤いリボンで括っている。



クレヴァーだ。




「あ、悪ぃ。元気じゃないな」



木に寄り掛かり、
グッタリしている八千代を目の前にし、
クレヴァーは言い改めた。




「いいえ。元気ですよ?」




八千代はニコリと笑うが、
顔色は表情とは逆で、青ざめている。



「こんなの、苦しい内に入らないので」



八千代は、置いてきてしまった妹を思い浮かべていた。




同じ作用をする精霊で、

八千代と妹の三千代(みちよ)で浄化と言う働きをしていたのだが、

八千代はその役目を全て三千代へ押し付けた。




押し付けて、ヘイムの生まれ変わり、
政之条と共に過ごす選択をしてしまった。




本来ならば二人で支えていた役目、

今は三千代一人で支えている。





苦しくないハズはない。





八千代は大きく息を吸い込むと、
気絶するかの様に眠りに落ちて行ってしまった。



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次の話

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~キャラ紹介~


八千代(やちよ)

元浄化の精霊。




政之条(まさのじょう)

本上家のボンボン(笑)


クレヴァー

『命を司る者』
死神と呼ばれている。




ヘイム

かつて、世界を救ったとされる英雄。




菊次郎(きくじろう)

本上家の主治医。


三千代(みちよ)

八千代の妹。

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