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結局、ラブ・ホラーを書く事にしました。





「恋のエレベーター」



俺が初めてStyx'sマンションに赴いたのは、
確か7月の中半頃に、6階のデザイン事務所に
営業に行った時だった。

デザイン事務所との商談が、
めでたく成立して以来、
俺がデザイン事務所の担当になった。

どうも俺は、Styx'sと言うマンションとは
相性が良いらしい。

実は俺にはもうひとつ、
此処を離れられない理由ができたのだから。

ある日の仕事の帰り、
1階で止まってるエレベーターを呼んだのだが、
待てど暮らせど来やしない。

次第にイライラし始めた俺は、
周りをキョロキョロと見回し始めた。

そしてある瞬間…
俺の隣でエレベーターを待つ、
二十歳くらいの色白なほっそりした女性と
ひょっこりと目が合って、

そして、どちらからとも無く
言葉を交わすようになった。

エレベーターはだいぶ待たされてから
上がってきて、俺と彼女…
彼女、レンさんって言うんだけど、
兎も角、二人で乗り込んだのだ。

俺、山田 博己って言います。よろしく!

こちらこそ!メアド交換とかしませんか?

レンさんの笑顔は、
満開の白百合のように綺麗だ。

一方、俺の方はと言うと、
ぜったい顔が赤らんでたと思う。

何しろこんなに可憐で清楚なレンさんだ。
ただ顔見てるだけでも、
じんわり照れてしまうのだ…

まったく…
俺はなんて運の良い男だろう?

仕事も順調。
おまけにこんな美人と出会えちまうなんて。

まるで夢みたいにラッキーなのが、
却って不安で怖い…。

そんな俺のニヤケ顔を
仄かにピンクに染まった頬に
恥じらいの笑みを浮かべて
チラ見してくるレンさん…
何だか彼女も幸せそうだな。

と…
ほんとにその瞬間だった。

降下中のエレベーターが、
いきなりぐらぐらぐらっ!と縦揺れを始め、
おまけに停電までしてしまい、
エレベーター内は真っ暗になったのだ。

怖い…地震ね、きっと…
震度5はあったよね?
レンさんが俺にしがみついてくる。

大丈夫だよ、もうじき復旧するよ。
怖がるレンさんにそう言って、元気づける俺。

エレベーターのインターフォンで、
何度も連絡してみるのだが、
まったく繋がらない。

仕方ない…誰か助けにくるよ、必ず!
俺はそう言い、レンさんの肩を抱く。

それもそうよね…でも、
こうやってあなたが傍にいてくれたら、
何だか心強い…
レンさんも俺の背中を抱き寄せる。

何だか時間が止まってしまったみたいね…

そうだよ、俺と君の時間は永遠に留まってる、
愛は不滅だからね…

ーーそれにしても暗くて何にも見えやしない。
いつまで続くんだ、こんな世界。
俺たち二人にこの暗闇は、
似つかわしくもないのにーー


そして時は流れた。

明道町1丁目の川の畔にStyx'sマンションと言う
老朽化した集合住宅がある。

32戸あるこの物件もかつては
各階に事務所などが入居し、
空き室の出たためしがなかったものだ。

それがある日を境に…
徐々に借り手が居なくなり、いつしかこんな事を
噂されるようになったのである…


このマンションって幽霊が出るんだって?

そりゃもー最恐の心霊スポットだからね…
特に超怖いのがエレベーターらしい。

なんでも聞く所によると、数10年前に
エレベーターの落下事故があって、
男女カップルが即死したらしい。

それ以来、
男と女がイチャイチャしてる幽霊が、
延々と語り合ってるとか…
でもその幽霊と出くわすと、恋愛運とか
アップするようなご利益もあるらしい。

黒Tシャツに短パン姿の廃墟マニアが
熱っぽく語るのを、
連れの二人が凍りついたような
神妙な顔で聞いている。

何だかこえーよなぁー。。


因みに此処、Styx'sマンションも、
来春には解体が決まっているのだと言う。


ーーあの二人、博己とレンの御霊が
昇天したかどうかは、誰もしらないーー







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