風心・福岡正信 | Blessin' Earth

風心・福岡正信

・・・・・・風心・・・・・・

人類文明の遠心的な発達は 極限に達した
このまま膨張し崩壊してゆくか
反転して求心的に収縮するか
滅亡か 復活か 岐路に立つ人間
足元の大地は崩れ始め 天も暗くなった

 肉体の崩壊が 医学の混乱をまねき
 精神の分裂が 教育の混迷となり
 社会の不安が 道徳の荒廃につながる

これで よいのか
人々は苦慮して 泣き笑い
何をしてよいのか わからないまま右往左往する
それでもなお
ただ一途に人間の智恵を信じ
何かを為すことによって
矛盾を解決できるだろうと期待する

馬鹿な動物は 馬鹿なことを知らないから馬鹿をしない
利口な人間は 馬鹿馬鹿しいと知りながら馬鹿をする

終末の近いのを知って
未来の夢をみる

地球の汚染を嘆くもの
人間の智恵を誇示するもの
みんな人間を 愛しているのだが
誰が 自然を守護し
誰が人間を 混乱に陥れてるのかがわからない

 鎮守の森は 植物生態学者や 百姓が造ったのではない
 人間を守るのは… 裁くものは誰か

瀬戸の海が 石油で汚染され
養殖ハマチが全滅した
漁夫は激怒したが 考えてみると
 
 魚をとる網が 石油製品(ナイロン)になり
 船を ガソリンで走らすようになって
 漁獲量が急増したが 翌年から
 魚が急減して 養殖漁業にきりかえた

その養殖ハマチが 石油で殺された
汚染がひどくなり 赤潮が発生した
 
 魚も ノリも死んだ 海も死んだ

瀬戸の魚の味をかえせと すし屋のおやじが先頭にたち 主婦たちが さわぎだし
工場に おしかけると
工場の排水より 農民の化学肥料や農薬が
河に流れこみ 赤潮の原因になっているのだ
なぜ百姓を責めないのかと 開きなおる
農民の所に行けば 汚水処理場の用地を提供するのが 先決だと はねつけられる

赤潮対策の名案を 学者にうかがうと
超短波の光線で プランクトンは簡単に殺せるという
プランクトンが死滅して 海底に堆積したら 何万年かの後には石油になる
なるほど 名案だが それまで人類は生きられない

いっそ瀬戸内海を ヘドロの海にして
プランクトンを培養して 石油の原料にしたら 石油不足も解消できる

そうなりゃ アラブの石油はいらぬ
大型タンカーを マレー沖に沈めたり
石油タンクの破損の心配もなくなる

こりゃ 名案だ… だがまてよ

大型タンカーが不用になれば
鉄が不用になり 製鉄所の電力需要が減る
すると原子力発電所の建設にも ひびが入る
それでは労働者は飯が食えない さて…
 
 科学者が追う はてしない夢
 することは まず こんな利口なことである
 ああ しんどい話になった

もう一度 最初をふりかえってみよう

問題は
人が 善いか 悪いかを考え
自然は 善だ いや悪だと争い始めた時から出発した
 
 自然は 善でも 悪でもない

自然は 弱肉強食の世界でも 共存共栄の世界でもないのに
勝手にきめつけたのが間違いの根だった

人間は 何もしなくても 楽しかったのに
何かをすれば 喜びが増すように思った

物に価値があるのではないのに
物を必要とする条件をつくっておいて
物に価値があるように錯覚した

すべては 自然を離れた人間の智恵の一人角力(ずもう)だ

無智 無価値 無為の自然に還る以外に
道はない

一切が空しいことを知れば 一切が蘇る

これが

田も耕さず 肥料もやらず 農薬も使わず 草もとらず

しかも驚異的に稔った

この一株の稲が教えてくれる緑の哲学なのだ

種を蒔いて わらをしく
それだけで 米はできた
それだけで この世は変わる

みどりの人間革命は わら一本から可能なのだ

誰でも 今すぐ やれることだから


昭和五十年盛夏


福岡正信

by「わら一本の革命」のあとがきより

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