ある時、恥ずかしそうに借入相談にいらっしゃった経営者の方がいました。
先方「お金が足りずこのままだと従業員の給与が払えません。お金を貸してもらえませんか?」
私「どうしてお金が足りなくなったのですか?」
先方「売上より支払の方が多いのです。」
金融機関で融資を担当していた頃に、お客さんとの間で散々交わした会話です。
「売上が足りなくて、従業員の給与が払えないから、その分お金を貸してくれ」と言われると、この企業は赤字でやばいのかなと、第一印象では感じて心配になります。
ただ、よくよく話を聞いていくと、毎月の損益は黒字です。
黒字ということは、売上>経費。
給与は経費なので、黒字で給与が払えないということはあり得ません。
では、どうしてお金が足りなくなるのでしょうか?
お金が足りなくなるには、財務、損益の構造的な原因が有ります。
その結果予期せぬところでお金がないという結果を生じるのです。
「3種類の収支(キャッシュフロー=お金の流れ)」「損益と収支」などがその具体例です。
今日は、このうち「3種類の収支」についてお話をします。
一つ目は、事業の収支。売上が入金になれば(収入)、お金は増えるし、経費を支払えば(支出)、お金は減ります。
二つ目は、金融の収支。銀行から借入をすれば、お金は増えるし、借入を返済すれば、お金は減ります。
借入する頻度より返す頻度が多いので、大半の月では金融の収支はマイナスになります。
また借入の返済は、経費にならないので、返済をすることでお金は減っても、利益は減りません。
三つ目は、投資の収支。土地や建物や機械などの設備を買えば、お金は減りますし、逆にそれらを売却すれば、お金は増えます。
設備の購入も経費にはならないので、例えば土地を買ってお金が減っても、利益は減りません。
事業の収支、金融の収支、投資の収支の合計がプラスであれば、企業のお金は増えていきます。
マイナスであればお金は減っていきます。
冒頭に書いた事例で見ると、お金を借りに来た方は、事業の収支では5百万円お金を残していました。
ところが、借入の返済が1千万円あったので、金融の収支は1千万円のマイナスでした。
設備は買っても売ってもしていなかったので、設備の収支は±ゼロでした。
その結果、事業の収支+5百万円、金融の収支△1千万円、設備の収支±0で、全体として5百万円のお金が足りなくなり(原因)従業員の給与が払えなく(結果)なったのです。
因みに、日本の中小企業の大半は黒字でも、事業の収支のプラスより、金融の収支のマイナスが大きいという構造になっています。
だからその差を埋めるために新たな借入が必要ですし、金融機関も、事業の収支がプラスであれば、比較的簡単に融資に応じています。
上のケースだと、事業の収支と金融の収支の差額5百万円を新たに借入しても、1千万円は返済しているので、借入の合計金額は5百万円減ることになります。
このように、不足分を新たな借入でまかないつつ、徐々に借入の合計金額を減らしていくのが一般的なやり方です。
もしこの経営者の方が、金融に精通していれば、
「事業は5百万円キャッシュフローがプラスだけど、借入返済が1千万円あるので、差額5百万円を借入したい。」
という説明になり、金融機関の不安を煽ることはなかったし、経営者の方自身のセルフイメージも下がることはなかったのです。
他にも、
今年は利益が出そうだからと土地を買って、税金が払えなくなるとか
仕入値が安いからと商品の在庫を増やして、お金が足りなくなるとか
「3種類の収支」の切り分けが上手に出来ていないことから生じるお金のトラブルが多くみてきました。
ここを理解していれば、企業の中をお金がどのように流れているかが掴めるので、お金が足りなくなる前に先手をうった対応をすることができ、漠然としたお金が足りなくなるという不安を一掃することが出来るのです。