『いつの日か』

第7章4部

My promise ① 環34才、遼27才

 

<遼サイド>

「・・・。」遼が無言で私を見つめる。説明してほしいとその瞳が訴えていた。

「私には・・・償わなければならないことがある。」

「償う?」

「そう、私が傷つけた人への償い。」

「もしかして、進藤の事?」

「そう。」

私が会社を去る理由は3つある。第1は遼を自由にすること。第2は桐原部長から遠ざかる事、第3は進藤君への償い。大1の理由は口が裂けても言えないけれど、第2・第3の理由については正直に言える。そう思った。

「いろいろあったけど・・・今、遼のおかげで私は幸せよ。すごく、感謝している。ありがとう、遼。でも、どんなに部長が私たちのことを認めてくれても、このままのうのうと会社にいるわけにはいかないと・・・それでは申し訳ないと思っているわ。」

「進藤だって環がやめることを望んではいないと思う。」

「進藤君がどう思うかは、関係ないの。私が彼や彼のお母さまを傷つけたことは紛れのない事実なの。進藤君をあんなに苦しめたんだもの・・・かわりに私は大切にしているものを手放して、彼への償いとするべきだと思うの。」

「環。」

「それに・・・やはり嫌でしょう。自分の父親が付き合っていた女が自分の上司だなんて。」

「進藤はそんなこと気にしてないよ、きっと。」

「遼、それは違うわ、きっと。進藤君、我慢してくれているのよ。彼のお父様のために。

そして・・・。」

「そして?」

「あなたのためによ。遼。」

「僕のため?」

「そう。あなたのため。進藤君ね、本当は私に対する復讐劇にあなたを巻き込みたくはなかったんだと思うの。私とさえ付き合っていなかったら、彼にとってあなたは、良き尊敬する先輩であったはずなのよ。あなたに辛い思いをさせたことに、彼なりに自分を責めているはずだわ。だから、これ以上あなたを辛くさせないために、あなたから私を取り上げなかったのだと思うの。」

「・・・。」

「でも・・・それは、これからずっと進藤君を苦しめていくことだわ。それに私自身もいくら認めてくれたとはいえ、桐原部長の下で働くのは、耐えがたいのよ。だって・・・。」

「・・・。」

「私は彼の・・・。」

「それ以上はいわないで。聞きたくない。」遼の表情が厳しくなる。

「わかった・・・。でも私が会社にとどまっても、いま遼が感じている嫌な思いを、進藤君も彼のお母さまも部長も・・・そして私自身も感じつづけていくのだと思うの。」

「・・・。」

「きりをつけないといけないの。わかってくれる?」

「でも、そのために今まで築いてきたものや仲間を捨てるっていうのか?」

「捨てたりなんかしないわ。みんな・・・私がいなくても大丈夫。堂本君も木村君もすでに私の代わりができるほどにリーダーシップが取れるようになったし、佐用君もすぐに主任に上がれるわ。山田君も一人で大きな受注が取れるようになったし、進藤君はもう一人前よ。

そして・・・神林君、あなたは、これからパリで羽ばたくの。」

遼・・・あなたは私が育てた人材の最高傑作なの。

あなたをこの会社に残せるなら、私は何もいらないわ。