第7章4部

 

Promise :環34才、遼27才

 

<遼サイド>

 

「葵・・・。」


 

「その人の事は、知っていたの。幼馴染で負けん気の強い女友達がいるって、健さん以前に話していたから。」

 

「幼馴染って言ってたんだろ?」

 

「そうよ・・・わたしもそう思っていた。9月に大阪に来た時にね、事情は聞いたの。沙織さんが・・・あ・・そのひと沙織さんっていうの。病気で倒れて・・・良くなるのには、ちょっと時間がかかるかもって。でも・・・。」

 

「でも、そう言われた時、私、気付くべきだったのよ。ただの幼馴染にそんなに親身になるはずないものね。」

 

「葵・・・。」

 

「その時はね・・・・9月に会った時は・・・彼女が良くなる少しの期間だけ、あまり会えなくなるけど我慢してほしいって。でも、大阪に来た時は、絶対会いに来るからって約束もしてくれたの。」

 

彼は、葵の気持ちを理解している。そして、彼も葵のことが好きだったに違いない。

 

「でも・・・10月になっても、11月になっても・・・彼女、良くならなくて・・・。健さんの表情もどんどん曇っていったの。私に会ってる時も、すごく悲しい表情をするようになった。私、鈍感だから・・・健さんが、お仕事と看病に疲れてるんじゃないかって、心配して・・・。だって、お父様を看病している時より、きつい感じに見えたの。私と会う時間を体を休める時間にしたほうがいいんじゃないかって、私いったのよ。でも、『葵ちゃんに会っている時間が、一番ほっとする時だから、そんなこと言わないでほしい。』って、健さん、言ってくれたの。『きっと、もう少ししたら、彼女もよくなるはずだから。』って。」

 

「何の病気だったの?彼女?」

 

「詳しくは、わからない。健さん話してくれなかったから。でも・・・重い病気だと思う・・・命にかかわるような・・・。」

 

確かに重病にちがいない。3ケ月以上も入院するような病気なら。

 

「12月のクリスマス前に、突然、健さんから、会って話したいことがあるからって連絡が来たの。わざわざ会いに来てくれるのだから・・・わたしてっきり、沙織さんが良くなったんだと思って、喜んだわ。」

 

「違ったんだね。」

 

「そう。その日にね・・・『葵ちゃんに会うのは、今日が最後です。俺・・・結婚することになったから。』そう言われたの。目の前が、真っ白になって・・・最初、理解できなかった。」」

 

「相手は・・・彼女だったんだね。」

 

「そうなの・・・私バカよね・・・もっと早くに気付くべきだった。健さんから彼女と結婚することになったって聞いて・・・ああ、沙織さんは健さんにとって大切な人、恋人だったんだなって・・・。」

 

「葵の気持ち伝わってたんだろ?彼に?それって恋人がいるのに、おまえの気持を知ってて、今まで会っていたってことなのか?恋人の看病に疲れた時だけ、おまえに救いを求めてきただけだったのか?」

 

怒りがこみ上げてくる。どういうつもりで、そんな惨いことをしたんだ。

 

葵の気持ちをもて遊んでいたってことなのか?

 

「怒らないで、お兄ちゃん。私が、勝手に勘違いしただけなの。だって、私、健さんから『好きだ。』って言われたわけじゃないもの。彼にとっては、ただのかわいい後輩だったのね。きっと。」

 

「そんな都合のよい話、ないんじゃないか?つらい時は、葵に頼って、恋人の病気が良くなったら、結婚するから会えないなんて。僕には、到底理解なんて出来ないよ。」

 

「それは違うよ。お兄ちゃん。」

 

「違わないだろ?」

 

「違うよ。彼女、良くなってないの。」

 

「え?」

 

「当分は、病院から出れそうにないって・・・健さん言ってた。できるだけ彼女を支えていきたいって。」

 

「・・・。」

 

「それをきいて・・・・、私、思ったの。健さん、彼女が重い病気だから・・私じゃなく、彼女を選んだんじゃないかって。だから・・・、沙織さんが思い病気だから、結婚するんですか?って、つい言ってしまったの。そうしたら、『そんなことで彼女を選んだわけじゃない』って、きっぱり言われちゃった。少しでも私への思いを持ってくれているんじゃないかって、思った私が、恥ずかしかった。『俺は、何もできない無力な男だけど、葵ちゃんが幸せになるよう、いつも祈ってるから。』そういって、健さんはその場を去ったの。そして、それが最後になった。死という形以外で、大切な人が私のもとを去って行った、初めての経験だった。」

 

葵の頬を、涙が伝っていく。どんなに・・・どんなに辛かったろう。葵の気持ちを思うと、胸が苦しくなった。