第7章4部
Promise :環34才、遼27才
「それから、年が明けて、研究所のスタッフから彼が結婚したことを聞いたの。」
「辛かったろうな・・・。」
「うん、かなりね・・・・落ち込んだ。こちらに就職決めたのに・・・意味なかった。こちらに帰ってくることさえ、いやだったわ。そこに教授からね、もう1年助手として院に残らないかってお話をいただいたの。なにも考えず、すぐに返事したわ。」
「だから、1年延びたのか?こっちに来るのが?」
「そうなの。」
葵は、この4月からこちらの企業に就職するために帰ってくる予定だったが、急きょ、来年の4月からに変更になったのだ。葵の就職先は、彼女の教授の研究分野の業種だから、そういうことは、融通がきくのであろう。
「今年の9月にパリで大きな学会があるの。そのチェアマンの一人に教授がなっていたから、準備とか通訳とか・・・ほら、わたし英語もフランス語もいけるから、適任だったみたいで。」
「じゃあ、9月にパリで会えるんだな?僕の所に泊るか?」
「そうだね、9月には会えるね。滞在はホテルをもうとっちゃった。会場に近いところをね。」
「そうか。そのほうが、便利だもんな。」
「うん。9月にはお兄ちゃんに会えるのか・・・。お兄ちゃんは、いなくなっちゃうわけじゃないんだよね。」
「当たり前だろ。何言ってるんだよ。おまえや母さんが困れば、パリからでも飛んで帰ってくるよ。」
「そうか・・・そうだよね。馬鹿だな・・・私。お兄ちゃんも・・・・お父さんや、健さんみたいに・・・遠くに行ってしまって・・・帰ってこない気がしてた・・・。」
「ちがう、ちがう。僕はただの海外赴任だよ。絶対帰ってくるさ。安心しろ。」
「うん・・・そうだよね・・・馬鹿だな、私・・・本当に・・・。」
そういうと、またぽろぽろと泣き始めた。でも、この涙は、安心したときの涙だ。
「もう、泣くな。」
そういって、葵の背中をさする。こうすると、葵は落ち着くんだ。
そういえば・・・環もそうだ。彼女を落ち着かせるために、何度も何度もこうしたことがある。
「ねえ、葵。お兄ちゃんから一ついいかな。」
「うん、何?」
葵が僕を見上げた。僕の大切な妹・・・・。