4月から7月にかけて新国立劇場小劇場で上演されている「デカローグ」。

この作品はワルシャワ郊外の団地を舞台に、旧約聖書の十戒をモチーフとして書かれた10篇からなる作品集で、今回は3つのブロックに分けてそれを完全舞台化するという試みです。

 

4月から5月には、「デカローグ1~4」をプログラムA、B交互公演として上演中ですが、そのプログラムA(デカローグ1・3)を観てきました。

 

 

プログラムAで上演されているのは「デカローグ1 ある運命に関する物語」と「デカローグ3 あるクリスマス・イブに関する物語」の2篇です。

 

■デカローグ1 ある運命に関する物語

チラシ中に書かれていることを引用してしまうと、ここで描かれているのは「大学教授の父と、世の中で起きることを数学で解いていく息子。彼らを待ち受ける苛酷な運命」ということになります。

 

父・クシシュトフ(ノゾエ征爾)と息子のパヴェウ(鈴木勝大)は、叔母・イレナ(高橋惠子)の協力を得ながら二人で暮らしています。

旧型のディスクトップPCを使用して数学の問題を解いたり(その画面がスクリーンに映し出されます)、観客からはふたりの関係は良好に思えますが、その終わりは突然にやってきます。

クシシュトフは池に張った氷の強度を確認して「問題ない」と判断しますが、池の氷が割れてパヴェウは亡くなってしまいます。

 

無神論者のクシシュトフに対して、信心深いイレナがパヴェウを新しく出来る教会に入会させたいと相談するような場面はありますが、信仰に関する議論が交わされることはありません。

PCが暴走するようなシーンがありましたが、その意図するところはよくわからず・・・そこからの新たな展開も想像しましたが・・・。

分からないという点で言えば、最後にクシシュトフの怒りの矛先がなぜ教会に向かったのかも、その心の動きは伝わらなかったです。

 

■デカローグ3 あるクリスマス・イブに関する物語

実はこの舞台を観に行こうと思ったのは、小島聖さんと千葉哲也さんが出演されていたことが理由で、個人的には今回のプログラムのメインディッシュはこちらです。

 

タクシードライバーのヤヌシュ(千葉哲也)はサンタクロースに扮装して子供たちにプレゼントを渡したり、家族との楽しいクリスマス・イブを過ごしていますが、そこに1本の電話がかかってきます。

その相手は元恋人のエヴァ(小島聖)で、彼の家の近くに来ていることを告げます。

彼女の意図がわからないまま、妻に「車が盗まれた」と嘘をついて出かけますが、そこで待っていたエヴァは行方不明の夫を一緒に探してほしいと訴えます。

 

話が進むにつれて過去の事情が明らかになってきますが、ふたりの不倫関係に気づいた夫に選択を迫られ、ヤヌシュに「2度と会わない」と告げたのはエヴァ。

その彼女が再び現れたことに疑念を抱きつつも、夫探しに付き合うヤヌシュ。

彼女の目的がわからないためサスペンスの雰囲気も漂ってきますし、彼が運転する車のハンドルを操って事故を起こそうとしたりする静かな狂気性も秘めているので、観ていてドキドキしました。

 

ラストでは、実際は夫と別れている彼女の現状と、ひとりでイブを過ごすことに耐えられず、彼と時間を過ごすという自身への懸けが目的であったことが明らかになります。

ヤヌシュの妻も過去の事情を知っているようで彼を問いただしますが、彼はこれからは一緒にいることを彼女に誓い、物語は終わります。

 

「デカローグ」は十戒をモチーフにした連作とのことですが、私は十戒についての知識はありません。

知識があれば物語との関連性が分かり観方が変わるのかもしれませんが、作品を観る上で十戒の知識のないことが障害になることはなかったです。

プログラムBも観に行く予定です。