③~
聞いてはいたけど、想像以上に舞台の練習はハードで…。
厳しい演出家の要求に応えることだけに全神経を注ぐ日々が続く。
「俺はいつだって葉子の側にいるから」
…シングルベッドの中で
ソンジェさんは初めての舞台に不安げな私に何度も何度もそう囁いた。
そのシーンを思い出すたびにソンジェさんのぬくもりもよみがえってきて
励まされてはまた恋しくなった。
久しぶりに会えたオフの昼下がり
私はランチ作りに腕を振う。
楽しみだな~
葉子気合い入ってるね
ってソンジェさんはとてもうれしそう。
メールの返信もできないいつものお詫び…
そう言うと
「大丈夫だよ。疲れてるのわかってるから」
葉子らしくいてくれればそれでいい。ムリされるのが一番イヤだからって
ソンジェさんはどこまでもいつまでもやさしい。
なのに私は
相手役の人に呼び出されて悩んだりする。
「葉子はどうしたい?」
ソンジェさんといたいです。
「でも?」
稽古場にも行きたいです。
「早く用意して行っておいで」…微笑んで頭をポンポンとなでてソンジェさんはやさしく言った。
いいの?
「いいのも何も仕事でしょ」
これ帰って来たら作るから…
ふわっと包み込むやさしい力に言葉を続けるのを忘れてしまう。
…
「ホントに行っちゃうの?」
ごめんなさい。
フッと腕の力を弱めて
やさしい笑顔で送り出してくれた。
その笑顔のうらにあるさびしさにどうして気づいてあげられなかったのだろう。
舞台まであと3週間…
ある朝私はソンジェさんのベッドでうなされて目が覚めた。
私の起きた気配ですぐに側に来てくれたソンジェさんは
となりに座って額に頬にやさしく触れる。
深夜に及ぶ練習を終え、ソンジェさんの眠るベッドに潜り込んだ私は
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「昨日は遅くなってごめんなさい」
「俺こそごめんね。待ってる間に寝ちゃって」
やさしいソンジェさんにちょっぴり苦しくなった。
苦しくなって…
「どうしてそんなにやさしいの?」
そう聞いてみる。
「ほれた弱みってやつ?」
サラッと答えた。
汗かいてない?
顔色もよくないね。
今朝起きたら隣に葉子が眠っててうれしかった。
…ソンジェさんは私を甘やかす。
そう伝えると
うれしそうにこう言った
甘やかすよ。
葉子を甘やかしていいのは、恋人である俺だけだから
続く☆