バレンタインデーの芸能事務所がこんなにもチョコの匂いで溢れてるなんて想像したこともなかった。
それが人気アイドルを抱えていたら尚更で…「トラック何台分の世界」に埋れて
人ごとみたいに感心してしまう。
私なんてその中の小さなチョコのうちのひとつ…
埋もれる自信ならあるな…
廊下のダンボールの山を横目に、ちょっと卑屈になって打ち合わせの場所へと向かう。
扉を開けて入る。
先に座っていたグァンスくんと目が合う。
目をそらす。
座ってイスを引く。
顔を上げる。
グァンスくんと目が合う…
グァンスくんは小さく微笑むと仕事モードになった。
…友だちでもこのくらいはするよね。
淡い期待はすでに清く捨てている。
夢のようなイルミネーションの1日のせいで
イケるかもしれない…
グァンスくんも私のこと…なんて
ちょっと勘違いしてたから。
気持ちをグッと引き締めて。
今日はグァンスくんに気持ちだけ伝えよう…そう気合いを入れ直した。
打ち合わせが終わったらすぐに
廊下で呼び止めて
こうやってバッグから出して
こうやってさり気なく…
そうさり気なく
渡せばいいだけ。
レイさんが渡すとか
レイさんが綺麗とか
グァンスくんがどうだとか
関係ない。知らなくていい。
…
…あんなに脳内で何度もイメージしていたくせに私はすぐにグァンスくんを見失ってしまう。
廊下で姿を見つけた時には
グァンスくんはレイさんとツーショットだった。
そこからは急に音無しの世界…
グァンスくんが微笑んでた。
ふたりで微笑み合ってた。
レイさんが渡してた。
グァンスくんが受け取ってた。
見たくなくて逃げるように事務所を後にする。
バッグの中のチョコはカタカタ揺れて…
カタカタ揺れるのが悲しくて…
突然
後ろからグッと腕を掴まれて立ち止まった。
「おまえ…」
振り返ると
息を切らせたグァンスくん…
私の顔を見てホッとしたように大きく息を吐き出す。
「何勝手に帰ってるんだ?」
静かにやさしく
とびきり甘く
ちょっぴり拗ねてるみたいにそう言った。
④に続く☆
今日の寝る前の一曲は
♪「Romanse」
大好き(≧∇≦)