オリーブの葉がさわさわと揺れる。
昼下がりのオープンカフェはざわざわと幸せに騒がしくて。
私たちはどう見ても普通にカップルだよねって…人ごとのように思いながら
隣でパスタを頬張るジヒョク君の顔を見つめる。
ああ~もう、そのまましゃべっちゃうんだから^ ^
「じゃあ、決定だね。今度の日曜日はスカイツリー見て、浅草で仲見世通りを歩いて…。あっアレに乗る?ほら~隅田川のあれ…」
「うん。帰りは水上バスで帰ろうか」
私は答えながら、自分の口元をトントンと指で示して教える。付いてるよって…
ん?何?…ここ?
くるくると?な表情になったかと思うと、指でトマトソースを拭ってもう満面の笑み…
「もう~葉子ちゃんが取ってくれればいいのにぃ~」
なんて言ってる。
その勇気はまだない。
ジヒョク君はどこまで本気でどこまで冗談なのかまだいまいち掴めてないし。
こうしてふたりきりで食事もするし、休日には私の親対策に彼氏のフリだって頼めば気持ち良くしてくれる。
どう見ても普通にカップルなのに
ホントのところ、ジヒョク君は私のことどう思っているのだろう?
はっきりさせたいような
このままでいいような。
はっきりさせて失うことだけは避けたい…
だからはっきりさせたくない…
「ねえ?聞いてる?」
「えっ?ごめん…なあに?」
「もう~。食事するところ任せてもらっていい?って言ったんだよ。何か考え事してた?」
あなたを失いたくないって考えてました…
なんて言えない。
ぐぐっと近づいて見つめられて。
まっすぐな視線はジヒョク君のすべてを表すようにどこまでも澄んで優しかった。
「あっ‼︎そう言えば…」
「ん?」
「僕、バレンタインの夜、空いてるんだよね…」
「……」
ジヒョク君、バレンタインどうするんだろう?もう誰かと約束あるのかなあ?チョコ渡したいけど…
何チョコか?ってなるともちろん本命チョコだけど…
でもあなたを失うのはイヤ
その堂々巡りに、実はすっぽり密かに陥っている真っ最中なのに。
あなたはそんなに重要なことそんなにサラリと言うんだね。
…平静を装って。
ここはまだ慎重にかわしたい。
「そう?よかったじゃない…ゆっくりできて…」
「もう~そんな意味じゃないよぉ」
鈍感なんだから…って怒ってる。
俺、次の日曜は彼氏だよね。彼氏の俺にチョコはないの?なんて言って。
彼氏はフェイク…しかも芸能人だし。
今のだってどこまで本気でどこが冗談かわからない。
「チョコはたくさんもらうでしょ?」
「葉子ちゃんのは特別だよ」
…これだってきっと冗談。
「ハッピー豚にはさせられない」とかなんとか。私からも冗談で返す。
ジヒョク君は手のひらで両方の頬を包んで細っそり顔を作りながら
「今から時間が少しあるんだ。ちょっと付き合ってよ」
そう言って私の手とバックを取ると素早く会計を済ませて通りに出た。
手とバックを任せたまま
ジヒョク君とタクシーに乗り込む。
後部座席は実はどこよりもふたりきり。
私は小さく咳払いをして
慌ててちょっぴり距離を置いた。
②に続く