11月5日に一般流通がはじまる、ニューアルバム「Soar, Kiss The Moon」の録音メモを、エンジニアの君島結氏がツバメスタジオのHPに掲載なさっています。Luminous Orange – Soar, Kiss The Moon 録音メモ

私もひとつ、楽曲解説を書いてみました。
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第1曲 Das Experiment
アコースティック楽器で、マイナー調の、いなせな、間を活かした、格好いいロックの曲を作りたいと思いました。4/4拍子、歌パートはドラムのアクセントは3/4で小節数は5つ、メロディは4拍半。トリッキーなリズムが得意な淳平さんにドラムをお願いしました。
ピアノと河瀬さんのウッドベースは点描状に、吉田ヨウヘイgroupの管楽器を筆で掃くように、E-Bowはチャコールペンシルで線を描くごとく。緊張感あるトラックになりました。

第2曲 Little Girl, Dancing
90年代初頭マンチェスター24 Hour Party People的空気感を想起しながら。クラブミュージック的な手法で、基本2小節のリズムと和音の繰り返しに、メロディ、ギター、パーカッションの抜き差しで起承転結をつけ、
5/4拍子、不穏な三声コーラス&管楽器と、モードスケールを載せルミナスオレンジ式に。
うねるベースパートは「ジャコ・パストゥリアス in サルフォード」的なイメージで作りました。(サルフォードはマンチェスターの町名で、Happy Mondaysの出身地でもあります)。

第3曲 Nightwalking
ダウンビートにファズとヴィブラート、唐突な5/4の「Third Stone From The Sun」感。ぐいっと強引に展開する実にロックな曲。西浦君の歯切れのいいドラムと河野君の弾力のあるベース。
いままで和声感が無くなるファズが苦手で使ってきませんでしたが、線が絡みあうリネアな曲でその真価が発揮されるのだなあと、いまさら実感。多用しています(でもコントロールが難しかった)

第4曲 Sore, Soar, Soir
3/4拍子のボトム豊かなドラムの上を、ベースがトランポリンし、きわどい和声のコーラスが綱渡り。オーボエ、フルートは洋菓子みたいな髪型の宮廷貴族さながら軽々とダンスし、サックスの軽騎兵達が追い立てる。ポップで軽やかな、しかし6分の大曲です。
ヴァースで半音進行の胸苦しい感覚が続いた後、「シファド~」のコーラスパートでゆるやかに解放される展開が非常に晴れやかです。

第5曲 Tigerlily Mixolydian
まろやかな機械音声、ガットギター、淳平&河野ペアのヒューマンなサンバ調リズムセクション、きわきわな和声の管楽器。デジタルとアナログのアンサンブルは破綻しそうでしたが、TR808, CP12等のヴィンテージリズムマシンが縫い合わせてくれました。

第6曲 Coarse Linen
個人的に、ガーシュウィンとドビュッシーとソニック・ユースが互いの時代と都市を行ったり来たり混ざったりしているイメージの曲。

第7曲 Braque's Bird
4/4に時々4/2が混ざる複合拍子はモダンな感じが好きです。モダンらしく、ギターのフレーズも答えの無い問いを叫ぶように、メロディやコーラスもトニックに着地しないようにして、中間部のコーラスも忌避音を使ってます。が、仕上がってみたら、輪郭がはっきりしたポップな曲に。
ジョルジュ・ブラックはピカソとのキュビズムが有名ですが、第一次大戦から復員後、鳥の絵を沢山描いています。

第8曲 Kissing The Moon
80年代FactoryやらRough Tradeのおぼろげな記憶スケッチ的に。ギターにモジュレーションを多用。シャープな西浦君のドラムと、イアン・カーティスのダンスのようなベースライン。急に押し黙るようなサビ、不意に千切られるラスト。2'46~の和声感は、このアルバムで一番気に入っている所の1つ。

第9曲 Glenn Smith
タイトルおよび歌詞は萩尾望都の「グレンスミスの日記」より着想を得ています。歌頭のコード3つは「Night and Day」に似ていて、メランコリーと解放を行ったり来たりするジャズ調の曲。この曲に高貴かつ飄々とあたたかな音のファゴットソロと、艶やかなウッドベースを入れてもらえたのは特に嬉しい。

第10曲 Slaughterhouse
ゆったりした4/4拍子。はわりとお蔵入りする場合が多いのですが、サビのコード3つとメロディの3音の説得力により(自分にとって)、アルバムに入れました。元はカート・ヴォネガットの「Slaughterhouse 5」を題材にした仮歌詞が載っていたためこのタイトルに。
柳川君のギターが入ってきた所のぐわーっと広がるサラウンド感はアルバムのハイライトのひとつ。