魯山人と納豆/400回もかき混ぜたのは本当? | 和文化案内『ゆかしき堂』のブログ

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この頃、北大路魯山人の名が、ごく一部で知られるようになっています。

炊飯器の宣伝でも使われていますけれども。

それは何かというと、納豆なのです。

魯山人の納豆作法がテレビなどマスコミで紹介されることで、その情報が広まっているのですね。


曰く、魯山人は納豆を400回かきまぜて食べた、というもの。

この情報に、魯山人研究家のはしくれの私は少し首をかしげるのです。

魯山人が書き残している文献には、数は書いていなかったよな、と。

そんなわけで、今日は魯山人の納豆観についてご紹介しましょう。


昭和7年9月の雑誌『星岡』より。魯山人が紹介した「納豆の茶漬け」についての文章から。


『納豆の茶漬けは意想外に美味いものである。しかも、ほとんど人の知らないところである。食通間といえども、これを知る人は意外に少ない。といって、私の発明したものではないが、世上これを知らないのはふしぎである。』


さて、納豆の拵え方については、以下より。


『納豆の拵え方
 ここでいう納豆の拵え方とは、ねり方のことである。このねり方がまずいと、納豆の味が出ない。納豆を器に出して、それになにも加えないで、そのまま、二本の箸でよくねりまぜる。そうすると、納豆の糸が多くなる。蓮から出る糸のようなものがふえて来て、かたくて練りにくくなって来る。この糸を出せば出すほど納豆は美味くなるのであるから、不精をしないで、また手間を惜しまず、極力ねりかえすべきである。
 かたく練り上げたら、醤油を数滴落としてまた練るのである。また醤油数滴を落として練る。要するにほんの少しずつ醤油をかけては、ねることを繰り返し、糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に、辛子を入れてよく攪拌する。この時、好みによって薬味(ねぎのみじん切り)を少量混和すると、一段と味が強くなって美味い。茶漬けであってもなくても、納豆はこうして食べるべきものである。
 最初から醤油を入れてねるようなやり方は、下手なやり方である。納豆食いで通がる人は、醤油の代りに生塩を用いる。納豆に塩を用いるのは、さっぱりして確かに好ましいものである。しかし、一般にはふつうの醤油を入れる方が無難なものが出来上がるであろう。』


やはり、回数は書き記していませんでしたね。

魯山人は、しっかりかき混ぜることを推奨しています。

ちなみに農林水産省食品総合研究所における実験では、納豆のアミノ酸と甘み成分は混ぜるほど多くなるそうです。

混ぜる前をそれぞれ1とするとアミノ酸は100回で約1.5倍、300回で2.5倍になります。

甘み成分は100回で2.3倍、200回で3.3倍、400回で4.2倍になります。

うまみを、その経験から追求していたのが魯山人なのですね。


では、魯山人納豆400回説はどこから出てきたのか。

この検証については、やはりマスコミから発信されたものが伝聞を経て変形したものであるようです。

本来の放送では、魯山人の星岡茶寮で料理長をされていた松浦沖太氏による納豆の拵え方が紹介されていたようです。  

松浦氏は、湯飲み(ずんどうでやや大振りなもの)で納豆を拵えます。

まず294回かき混ぜてカラシを加え、さらにかき混ぜて、362回から醤油を少しずつ2回加え、448回かき混ぜました。

できあがった納豆は糸を引かないもの。

……で、この松浦氏の拵え方が、どうやら魯山人納豆400回説の元になっているみたいですね。


情報というものはおかしなものですね。

どこで変化するのかわかりません。


さて、以下は納豆茶漬けについて。


『お茶漬けのやり方
 そこで以上のように出来上がったものを、まぐろの茶漬けなどと同様に、茶碗に飯を少量盛った上へ、適当にのせる。納豆の場合は、とりわけ熱飯がよい。煎茶をかけ、納豆に混和した醤油で塩加減が足りなければ、飯の上に醤油を数滴たらすのもいい。最初から納豆の茶漬けのためにねる時は、はじめから醤油を余計まぜた方がいい。元来、いい味わいを持つ納豆に対して、化学調味料を加えたりするのは好ましいやり方ではない。そうして飯の中に入れる納豆の量は、飯の四分の一程度がもっとも美味しい。納豆は少なきに過ぎては味がわるく、多きに過ぎては口の中でうるさくて食べにくい。
 これはたやすいやり方で、簡単にできるものである。さっそく、秋のこのましい食べ物として、口福を満たさるべきではなかろうか。』


『納豆のよしあし
 納豆には美味いものと不味いものとある。不味いのは、ねっても糸をひかないで、ざくざくとしている。それは納豆として充分に発酵していない未熟な品である。糸をひかずに豆がざくざくぽくぽくしている。充分にかもされている納豆は、豆の質がこまかく、豆がねちねちしていないものは、手をいかに下すとも救い難いものである。だから、糸をひかない納豆は食べられない。一番美味いのは、仙台、水戸などの小粒の納豆である。神田で有名な大粒の納豆も美味い。しかし、昔のように美味くなくなったのは遺憾である。豆が多くて、素人目にはよい納豆になっているが。』


書いていて、美味しい納豆を食べたくなりました。

手順をおさらいしましょうか。

1・まず、そのまま混ぜます。

2・醤油(だし)を投入。

3・さらに混ぜます。

4・薬味と辛子を入れる

……以上です。


この手順で納豆を拵えると、本当に美味しくなりますよ。

皆様もお試しあれ。



 



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