Side N
大野さんと手をつないだまま廊下に出た。宴会場は少しずつ人が減ってきてはいるものの、まだ宴たけなわといった騒がしさだった。
部屋に向かって歩き出したところで、向かい側からさっき大野さんにベタベタしてた後輩が歩いてきた。
「あっ、大野くんと二宮くん」
彼は俺達のつないだ手にちらっと目をやった。
「二宮くん、大丈夫でしたか?」
にこっと笑って言われるから、低い声で「ああ」って返すと、彼はわざとらしくほうっとため息をついた。
「よかった~。僕、さっき心配になって二宮くん見に行ったんですよ~。そしたら丸山くんとキスしてたからびっくりしちゃって…」
……こいつ…‼︎
胸がきりりと何かに掴まれる感じがした。
見…られてたんだ…
大野さんがこっちを見る気配がしたけど、俺はそいつを見つめたまま動けない。
「無理矢理されてるのかな?って思って心配になったんですけど、二宮くんからも抱きついてたから、別に無理矢理ってわけじゃなかったんですよね?」
「あれは…そんなんじゃないから…」
わざとらしく小首を傾げて聞いてくるそいつに、それだけ言うのがやっとだった。
大野さんが俺とつないでる手に一瞬力をこめる。
この手を離されたら、俺は…
思わず、ぎゅっと握り返して、後輩を見据える。
「お前、さっき寝ちゃってたけど、大丈夫なのか?」
大野さんが後輩に聞くと、嬉しそうな顔になった。
「はい!ありがとうございます。大野さんのおかげで元気になりました!」
…こいつ、絶対全部わざとだよな…
「じゃあ、おやすみなさい」
彼はにこっと笑って、また宴会場へ消えて行った。
大野さんが、俺の手を引いて、無言で歩き出す。目を合わせてはくれないけど、歩きながら手をぎゅっと握るとかすかに握り返してくれるから、胸が苦しくなった。
大野さん…
怒っててもいいから、
何か言って…?