Side O
打合せが終わって、ニノん家まで送ってもらう。シャワーを勝手に借りて、リビングのソファで一息ついた。
今頃、飲んでんのかな…
飲み会なんて、よくあることだし、いつもいつもべったり2人でいられる訳なんかない。
わかってんだけど…
リリティと初めて会った飲み会で聞いた、翔くんの、「あの人、どっちもイケるらしいって聞いたことあるわ」って言葉が脳裏をよぎる。
ニノは、人との垣根はあまり作んない方だから、心配になる。
電話、してみるか…
我ながら過保護すぎるかと思ったけれど、気になってもんもんとしたまま時が過ぎていくのも嫌だった。
携帯を取り出して、かけ慣れた番号をタップする。
会が盛り上がってニノは気づかないのか、電話は繋がらなかった。
ま、そうだよね…
ダメもとでもう一度かけてみる。
『はいはい、どした?』
芸人さん達の話し声をバックに、明るいニノの声がして俺はほっとした。
「ニノ、大丈夫?」
『大丈夫だよ、今さ……わっ、ちょっと…ヤメろよ』
電話の向こうのニノの声が途中から、笑いを含んだ焦った声になった。
な、なんだ…
『…ニノ?』
心配になって、名前を呼んだら、少し電話の声が遠くなって、笑い声の合間にニノの声が聞こえる。
『お前ふざけんなよ、リリティ‼︎ くすぐったいだろ?…や、ヤメろってば、もう‼︎ 』
な、なな何されてんの…
ってか、リリティって…やっぱアイツに何かされてんじゃん…
「ニノ?大丈…」
『あ、ごめん、後で掛け直す‼︎ 』
いきなり電話の声が一瞬だけ近くなって、ニノはそれだけ言って電話を切った。
しんとした部屋で俺は携帯をリビングのテーブルに投げ出して、ソファに寝っ転がった。
あー気になる…
声だけで、何が起こっているかわかんないから、中途半端な情報でいろんな妄想がグルグル頭ん中をめぐる。
あーあ、こんな気になるんだったら…
やっぱ俺も後から行けばよかったかなぁ…
テーブルの上の携帯が鳴り出した。うとうとしちゃってた俺はばっと跳ね起きた。
あ…ニノ…
「はい、もしもし…ニノ?」
しんとした部屋に俺の声が響いた。
『今、寝てたでしょ。もう、俺ん家いるの?早いね』
「ん…ちょっとうとうとしてた」
なんで寝てたってバレんだろ。
「ふふっ…声が寝起き」
そっか…
なんだか恥ずかしくなって、俺は自分の喉に手を当てた。
「ニノ、まだ飲み会中だよね?さっきの、大丈夫?」
さっき電話した時に聞こえた芸人さん達の笑い声が聞こえないから、別のところにいるようだ。
『うん…大丈夫だって。ちょっとふざけてただけ』
「ふざけてたって…まあ、いいや」
って、よくはないけど…
帰ったら…聞いてやる。
『大野さんはメシ食った?あるやつ勝手に食ってていいよ』
「大丈夫…打ち合わせ前に食ったし…今はゴハンよりお前が食べたい」
『ふふっ…またソレですか』
「だって…もう…ちゅうとかしたいもん」
『ちゅうってあなたね…もう少ししたら帰るから…待っててよ』
呆れたような照れたようなニノの声がする。
「帰ったら、ちゅう、する?」
『ん……帰ったら…ちゅう、かな?…あー、もう、切るよ?』
照れまくってるニノの顔が浮かんできて、思わずにやけてしまう。
「うん…帰る時、連絡して」
俺がそう言うと、電話は切れた。