「ダメだ智くんっ」
奴に殴りかかろうとした智くんの手首を夢中で掴んで止める。
ぴたっと動きを止めた智くんが俺を見た。
「翔くん…なんで…」
「智くん…智くんがこいつなんかを殴ったりしたら、ニノが守りたかったものがふいになってしまう…」
「翔くん…」
智くんは腕を下ろした。
「ニノ…これは、取引…だったんだよね?」
俺が静かに聞くと、ニノははっとしたように顔を上げて俺の顔を見た。
「そうでしょ、ニノ」
俺が畳み掛けると、ニノはうつむいてこくんと頷いた。
「ゴメン…」
ニノが小さく呟いたら、リリティは大きくため息を吐いた。
「では、わかっていただけましたか?二宮さんも納得ずくなんです」
俺は奴を睨みつけながら聞いた。
「取引の内容は?」
「…二宮さんの声と…写真ですね。これを仲良しの記者さんに見せてあげて、嵐さんや、大野さんと二宮さんの周りが騒がしくなるのをやめるかわりに、ちょっと望みをきいてもらっただけです」
リリティはスマホを操作して、録音を再生した。
『大野さんはメシ食った?あるやつ勝手に食ってていいよ』
ニノの声…!
ニノはびくっと震えて、不安そうに俺と智くんを見た。
「写真はこれ…よく撮れていると思いませんか?」
リリティはニヤニヤ笑いながらカバンから数枚の写真を取り出した。
智くんとの写真か…
ニノの気持ちが痛いほどわかった。
これがばら撒かれたら、どうなるか、ニノにわからないはずがない。
智くんと引き離されるくらいなら、自分が我慢して…下衆い要求にも応えようと思ったんだろう。
智くんは写真を一瞥すると、奴を睨みつけた。