…なんで、こんなことになっちゃったんだろ…
俺は、翔ちゃんの口付けを受けながら、少し酔ってぼーっとした頭で考えた。
怒ってるみたいな顔した翔ちゃんに、トイレの個室に連れていかれて…
鍵を閉めるなり、彼は俺を個室の壁に押し付けた。
「…ん…ん…翔ちゃ…ぁ」
俺が驚いている間に翔ちゃんの唇が俺のに重なって、熱い舌が口内に滑り込んで俺の 舌をか らめとる。
「っは…待って…ん…んん」
翔ちゃんが俺の頬を軽く挟んでいるから、口を閉じようにもそれはできなかった。密着して感じる大野さんとは違う翔ちゃんの香りと熱に、なぜか抵 抗はなかった。俺は力を抜いて、比較的ゆったりと作られたその個室の壁に肩をもたれ掛けさせる。
壁は、最近の流行なのか、店側の趣味なのかわからないけれど、全面鏡張りだった。
目を閉じていないと、翔ちゃんの肩越しに鏡に映る自分の姿が目に入るから、ぎゅっと目を瞑る。
翔ちゃんは、俺の口内をひとしきりむさぼった後、ゆっくりと唇を離して、顔を俺に近づけた。
「ゴメン…智くんには内緒ね」
「あ…んんっ…」
翔ちゃんの唇が、俺の耳たぶをかすめた。熱い吐息が耳にかかって思わず声が出る。
「やべぇ…ニノ…俺…」
翔ちゃんは眉を寄せて、俺の額に自分の額をくっつけた。そうしておいて、俺の背中に両腕を回してぎゅっと抱きしめる。
「…5分、だけ…俺のもんになって…」
「翔ちゃん…どしたの?」
「それが、わからんのよ」
真顔できっぱりと言われて、俺はぷっと吹き出した。
「5分…でいいの?」
「ん…それ以上だと止まんなくなってやばいかと」
「そんなの…5分でもなるときはなるよ」
「大丈夫、これセットする」
翔ちゃんは俺を安心させるためなのか、自分への枷のつもりなのか、スマホを取り出してアラームをセットした。
「ははっ…翔ちゃん…測るつもりなの?」
「よし、時間が惜しい」
「あ…」
アラームをセットする翔ちゃんに笑っていたら、いきなり壁にまた押し付けられる。
翔ちゃんの指が俺の顎に伸びてきて、上を向かせられる。壁一面の鏡に俺が映っている…と思う間もなく彼の唇がまた俺のに重なった。