唐突ですいません…
またモノローグです。
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Side N
こんな仕事をしていると、経験の差は如実に表れる。
いや、経験の差というよりは…経験を受け止め、咀嚼し、自分の中に取り込んで行く力の差と言うべきかな。
人の心を揺さぶるようなアウトプットを出し続けるためには、常に同じくらいインプットが必要だ。
そのために、経験はどんな経験でも、重要なんだ。
人の温かさを知らなければ、人に温かさを感じさせる演技はできない。悲しみを知らなければ、悲しみを唄うことはできない。恋を知らなければ、恋する人の気持ちなどわからない。ましてや恋の唄や演技なんて…できっこない。
だからというわけじゃないけど、俺は、恋することは必要だと思っている。人から見て、どんなにくだらなく見える恋も…無駄なんかじゃない。
無駄じゃなくするのは、ひとえに自分次第なんだけどね。
俺は、あの人の過去の恋自体に興味はない。でもあの人を構成する一部に過去の恋は存在している。なかったものにはできない。
だから願わくばその恋が…なんらかの形であの人を照らせばいいなと思っているだけ。
で、言いたいのは、そういうの全部ひっくるめて…あの人が好きだってこと。
人間は、老いていくばかりじゃない。
そうだな…油絵を思い浮かべて見てよ。
いろんな色を重ねていくよね、油絵って。深みを出すために、何重にも色が重ねられている。白く反射するように見えるところだって、幾重にも色がその後ろに隠れている。
俺は、人生の最後に、自分の絵がいろんな色でできていればいいと思ってる。
よく言うよね。
俺色に染めてやるとか…ね、冗談めかしてだろうけど。
あんなの、つまんないよ。
相手を無理やり単一の色で染め上げたって、面白くない。
人生の醍醐味は、
漆黒の中に、輝く光が
まばゆい光の中に、たゆたう闇が
よーく見ると描かれているところなんだから。
あの人の過去の恋は、あの人の絵を彩るだろう。
幾重にも重なるその色の中で、俺が垂らした一雫の色が、輝く一筋の光であれば、それでいい。
そりゃ願わくば、一番輝いて、表面にのさばるような色であるのが理想だけど…ね。