ニノの手を握ったまま店を出て、タクシーを捕まえる。
深夜だからか、大通りだけど人はまばらだ。
ニノを奥に乗せて、タクシーの運転手に行き先を告げる。
車が動き出してからすぐに、ニノの太ももの上に置かれた手と手をつなごうとすると、ニノは一瞬ためらうように運転手の方をチラリと見た。タクシーの薄暗闇の中で、きらきら光るニノの瞳と目を合わせて、また強く手を握る。ニノは目を伏せて、かすかに照れたように笑って、ぎゅっと握り返してきた。
(ね、2番の人)
小声でニノの耳元で囁くと、ニノは思い出したのか、ふふっと笑った。
(王様に…キスして?)
(ここで?)
驚くニノの瞳は、酔っているせいか、いつもより潤んでいる気がする。
(ここで)
(無理だよ)
ニノは困った顔になって、短く言った。チラリと運転手を見ると、変わらず黙々と車を走らせている。
(王様の命令だよ?)
にこっと笑って言うと、ニノは唇を尖らせて、前の運転手を再度確認した。
(…や)
ニノは俺に顔を近づけて、懇願するみたいにかすかに首を振った。
(…後で…帰ったらいっぱいするから)
(いっぱいしてくれんだ)
俺がぎゅっと強く手を握るとふふっとニノが微笑んで、息がかかる。じっと見つめると、ニノもじっと俺と目を合わせる。
もうほとんど、鼻先が触れ合う距離だった。
(ふふっ…も、顔、ちけぇよ…)
ニノはそれを聞くとくすっと笑って、さっきみたいに、2回、素早くウィンクした。
交差点、
行き交う車、
左折、
…ニノの…唇。
ふに、と柔らかい感触が唇をかすめる。体を離すと、ニノは照れたようにそっぽを向いて窓の外に目を向けた。
触れあわせたニノの唇の感触が、一瞬のことなのに、強くそこに残っていた。
キス…なんて、
いつもしてんのに…
…なんで、こんなに顔が熱くなんだろ…
いつのまにかほのかに汗ばんでる手のひらをきゅっと握ると、ニノは窓の外を眺めたままきゅっと握り返してきた。
ああ、
窓の外、眺めたフリしてる
2番のかわいい君に
王様はずっと心奪われてんだよな…
タクシーは夜の街を軽快に走る。
目的地…ニノん家はもうすぐだった。