俺の言葉に翔ちゃんは何か言おうとしていたみたいだけど、駅でホームに押し出されて、また乗り込んで場所の確保に一苦労しているうちに会話はどこかに行ってしまった。
翔ちゃんとの時間は…
大学に合格するまで。
寂しいけど、だったら、やっぱり今の授業の時間を大切にしなきゃ…
私鉄から地下鉄に乗り換えて、大学の最寄り駅で降りる。道順を教えてもらいながら、翔ちゃんと一緒に大学の正門前まで来た。
「当日、どこの学部の教室かはわかんないけど…とりあえずこのキャンパス内だと思う」
「そっか…」
俺は正門前から大学構内を見回した。道路がまっすぐ伸びていて、傍に建物が立ち並んでいた。大学生と思しき男女が談笑しながら歩いていたり、自転車で通行している人もいた。
ここの学生になれたら…
翔ちゃんとキャンパス内で会えたりすんのかなあ…
「どうする?俺はこれから授業だけど、そこまで一緒に行く?」
「うん、そこまで一緒に行って、あとは一周見てから帰るね」
「じゃ、こっち」
翔ちゃんは正門からまっすぐ伸びる道路を歩き始めた。俺も隣に並んで歩き出すと、前から歩いてきた男女が翔ちゃんを見て声をかけた。
「よっ、翔じゃん」
「おお、ケイタ、こんな早くから…一限出んの?」
「そうだよ~」
ケイタと呼ばれた男の人がにこにこして翔ちゃんに声をかける。背の高い、目鼻立ちの整った男だ。傍に立つキレイな女の人も翔ちゃんに笑いかけた。
なんか、どこかでこの2人見たような…
2人が俺の方をちらっと見た。
「ニノ、こいつらは同じ学部の奴ら。ケイタとケイコ、今家庭教師で教えてる幼馴染み」
「えっ、この子…え、家庭教師してたのって男の子だったんだ?」
翔ちゃんの言葉にケイコと呼ばれた女の人は驚いたように声をあげた。
「そうだよ…え、なんで?」
「だってさ、お前カテキョある日めっちゃそそくさと地元帰ってくじゃん」
「なっ」
翔ちゃんは焦った声をあげた。
「そうそう。それにかわいいって言ってたからさ」
え…
思わず翔ちゃんを見た。珍しく、顔が赤くなっている。
「そっ…れは…お前がかわいい子か?って聞くからだろ?」
「だって、お前、そりゃ女のコだと思ってたもん。カテキョある日、めちゃくちゃそわそわしてたじゃん」
「そうだよ。だからうちら翔くんに春がきたのかな~なんて言ってたんだよ」
翔ちゃんは何か言おうとしていたみたいだけど、固まった。
「ははっ、でも君、野郎には見えないから大丈夫。確かにかわいい感じだもんね」
「大丈夫ってなによ。ごめんね、男の子にかわいいとか、この人」
ケイタさんが俺に向かって言うと、ケイコさんがたしなめるようにケイタさんに言って、俺に謝った。
そっか、この人たち…
どっかで見たと思ったら、前に翔ちゃんといるところを地元の駅で見たな…
あと、たぶん、この人ら、デキてる…
「あ…よく言われるんで大丈夫ですよ?」
「ふふっ…大人な感じの子だね。受験頑張って」
「翔も、いろいろうつつぬかしてないで頑張れよ」
ケイタさんが翔ちゃんの肩をぽんと叩くと、翔ちゃんは赤い顔のまま、「ぬかしてないって」と言った。
「じゃあねーまた」
2人が行ってしまってから、黙ったままの翔ちゃんに向き直る。
「俺のこと…かわいいって言った…?」
翔ちゃんは照れくさそうに視線を泳がせた。
「まあ…その…ニノは…かわいい…弟みたいなもんだし…」
弟…
翔ちゃん、実際弟いるしなあ…
弟と、恋人との間の距離って、遠そうだな…
「行こっか…」
翔ちゃんが歩き出して、俺も隣で歩き出す。
前を向いたまま、翔ちゃんがぼそりと呟いた。
「ニノさ…かわいいってよく言われるんだ…」
「うん…」
「…誰に…そんな言われるの?」
翔ちゃんは歩きながら俺の方をちらっと見た。
「クラスメイトの女子とか…ガッコの先輩とかからも言われるよ?」
俺が言うと、翔ちゃんは深いため息をついた。
「…だよな…」
翔ちゃんは空を仰いだ。
「お前、大学行ったらますます人気者になるんだろうな…」
「は?俺なんか超地味じゃん」
「ううん…お前は、たぶん…いつの間にやら人気者になってるタイプの人間なんだよ」
翔ちゃんは、立ち止まって俺を見た。
「…そうなるように…お前が無事ここの学生になれるように…俺も頑張って教えるから…」
「うん」
翔ちゃんはにこっと笑ったけど、その顔はなぜか寂しそうに見えた。
大学生になって人気者になるなんて…
興味ないよ。
俺が今興味あるのは…
翔ちゃんのこと、だけなんだから…
「ニノさ…かわいいってよく言われるんだ…」
「うん…」
「…誰に…そんな言われるの?」
翔ちゃんは歩きながら俺の方をちらっと見た。
「クラスメイトの女子とか…ガッコの先輩とかからも言われるよ?」
俺が言うと、翔ちゃんは深いため息をついた。
「…だよな…」
翔ちゃんは空を仰いだ。
「お前、大学行ったらますます人気者になるんだろうな…」
「は?俺なんか超地味じゃん」
「ううん…お前は、たぶん…いつの間にやら人気者になってるタイプの人間なんだよ」
翔ちゃんは、立ち止まって俺を見た。
「…そうなるように…お前が無事ここの学生になれるように…俺も頑張って教えるから…」
「うん」
翔ちゃんはにこっと笑ったけど、その顔はなぜか寂しそうに見えた。
大学生になって人気者になるなんて…
興味ないよ。
俺が今興味あるのは…
翔ちゃんのこと、だけなんだから…