Side N
すぐに流れるアナウンス。
「…A駅で車両点検を行っているため、駅に停車できません。少々運転を停止します…」
マジで⁈
余裕を持って家を出たものの、混雑の影響で電車が少し遅れて、その余裕分を食いはじめているなあ、と思っていた矢先だった。
このまま、ずっと動かなくて…
入試…受けられないとか…
それだけは避けたかった。
「受験失敗」となるにしても、ちゃんと受験してから散りたいよ…
俺は天井を仰いで内心祈った。
あー早く動いて…
他の乗客達は慣れているのか、じっと静かに次のアナウンスを待っていた。
不安で、何にもならないことはわかっていたけれど、携帯を取り出して翔ちゃんにメッセージを送る。
『電車止まっちゃった』
『マジで⁈迂回できる⁈』
すぐに、返事が来て、それだけで少しホッとする。
『無理。A駅手前で止まった』
『まだ大丈夫。A駅からは前、一緒に行ったからわかると思うけど、3駅だから。動いたらソッコー乗り換えろ』
翔ちゃんの返信は冷静で、力強くて、電車は止まったままだったけれど、俺の心は少し軽くなった。
20分くらい停車していただろうか。
「発車します」のアナウンスとともに電車が動き出した。
時計を見て、入試開始時間から逆算する。
かなりギリギリだ。
『動いた!今からだとギリだよね』
『絶対にあきらめんなよ?ただし、気をつけて来い。安全を優先しろ』
櫻井先生、難しいこと言うなあ…
諦めないのはもとよりだから、いいけどさ。
電車が駅に着く直前にまた携帯が震えた。車内から押し出されながら、ちらりと目を走らせる。
『B駅で待ってる』
大学の最寄り駅…
状況は何も変わらないけれど、翔ちゃんが待ってる、と思うと、急に、力が湧いてくる気がした。