Side S
明け方起きたときは、俺の体にぴったりと張り付くように寝ていた、温かい塊が見つからない。
「ん…ニノ…」
眩しくてちゃんと目を開けられないまま、ぽんぽんとシーツを探る手は全部空振りに終わった。
焦って目を開けてみても、傍らのシーツにはくぼみができているだけで、それを作った主の姿は見えない。
「ニノ?」
ガバッと起き上がると、俺の耳にくぐもった話し声が聞こえてきた。
「はい…そう…ですね、それでお願いします…」
ベッドを降りて確認すると、ニノがキッチンの脇の廊下で、携帯で話をしていた。俺が姿を見つけた瞬間、話が終わったようだった。
「ニノ…電話?」
「…ん…昨日の不動産屋さん」
振り返ったニノの姿は、ハダ カにぶかぶかの俺のパジャマの上を羽織っただけのあられもない姿で、俺はしばし思考停止に陥った。
キョトンとしたニノの顔を見ながら呟く。
「そっか、内見…」
「今日の内見、今、不動産屋さんから電話で…住んでる人の都合が悪くなったから、キャンセルして欲しいって」
ニノは言い終わるとにこっと笑って、ベッドに戻ってきた。
「翔ちゃん…」
ベッドサイドに立っていた俺に抱きついて、そのまま俺をベッドに沈み込ませたニノは、ふふふっと笑った。
「翔ちゃん…やっと起きた…」
何も身につけていない俺の体に、ぎゅうぎゅうと自分の体を押し付けてくるニノに俺は焦った。
「ちょっ…待って、ニノ…」
温かい小さな体が、すべっすべの肌を押し付けてきて、密着する。腕が俺の首に巻きついて、朝の光でキラキラ輝く綺麗な二重の瞳が俺を見上げた。
「こ、こら…も、やめっ」
「何をやめんの?」
ニノはいたずらっぽく微笑んで、顔を近づける。
「翔ちゃん…」
ニノが目を閉じたかと思うと、そっと口 付けられた。
「んっ…んんっ…っは…」
「先生…好き…」
いまだに、生徒にこんな翻弄されるって…
いったいどういうことなんだ…
「ニノっ…」
俺はニノを引っ剥がして、ベッドに横になったまま向き合った。ニノはふふっとまたいたずらっぽい笑顔を見せる。
「あの…昨日…体…大丈夫?」
「大丈夫…翔ちゃん、すごいちゃんと慣らしてくれたし」
「そ、そだな…」
暗闇の中で息を荒くして乱れるニノを思い出して、ドキマギしてしまう。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ニノはまた体を寄せてきた。
「また…シてくれる?」
「ん…する…ってか、シちゃうでしょう」
俺がおどけて言うと、ニノはころころ笑った。俺はふと、昨日聞きたかったことを口にしてみた。
「なあ…ニノ…あの…初めて、だった?」