『トーマ王子の何なの?』と尋ねる大野さんの声は、さっきより苛立っているように聞こえた。
「なんでもないよ。王子を呼び捨てにするくらい、よくあることでしょ?全国民が王子大好きなんてあり得ないんだから」
どうしよう…
大野さんの手が触れているところが熱くなってきた。ほんの少し、形を持ち始めているのがわかる。
俺の体…あんま、反応すんなよ…
男の手にすぐ反応するなんて、
この人だって、引くに決まってる…
「トーマ王子のこと、嫌いなの?」
邪気のない瞳で聞かれて、俺は用意していた答えを言い淀む。
「き…らいだよっ…城でふんぞり返ってるだけなのに偉そうにしてさ。だから普段、トーマって呼び捨てにしてるだけ」
大野さんは俺の言葉を聞いて、身を離すと、ふふっと笑った。
その柔らかい、ふわりとした笑顔に、胸の奥がツキンと痛む。
ああ、
この太陽みたいに笑う人には、
嘘をつきたくない…
「嘘だな」
大野さんは俺の心を見透かしたように、短く呟いた。
「さっき、トーマ王子が行方不明って聞いた時、ニノは心配そうな顔してたもん。嫌いな人だったら、あんな顔しないでしょ?」
大野さんは、またふふっと笑った後、真剣な表情に戻って、俺の顔に顔を近づけた。
大野さんの香りが、俺を捕らえる。
「行方不明、心配なんでしょ?」
涙が、目から盛り上がってこぼれるのがわかって、俺は思わず手で隠そうとしたけれど、手首につながれた鎖がジャラジャラとなっただけだった。
「ね、ニノ…」
大野さんは、眉を寄せて苦しそうに俺の涙を指で拭った。
その指先が優しいせいで、涙が止まらない。
「し…んぱい…」
俺はしゃくりあげそうになるのをこらえて、途切れ途切れ声を出した。
心配しないわけない。
だって…
俺は…トーマの…
「乳母子(めのとご)だから…」
大野さんの目が見開かれた。
-----
乳母子(めのとご)については明日以降、
お話の中で(・∀・)