Side O
「俺は…トーマの…乳母子…」
ニノはか細い声でそう言うと、しばらくしゃくりあげるように泣いていた。
その涙を、俺は自分の着ている服の袖でそっと拭ってやった。
やがて、ニノは目を閉じたまま、すうすうと寝息を立て始めた。
…泣き疲れたのか…
無理もねぇよな…
何してたのかわかんないけど、
突然捕まえられて、
戒められて、無理な体勢で、たぶんろくに睡眠も取れてないんだろう。
俺はニノのはだけたユカタを整えると、牢屋を出て、見張りの兵士に小声で告げた。
「あいつ、鎖外してやって。んで、寝台のある部屋に移して。湯屋も使わしてやって」
兵士は頷くと、牢屋へ入っていった。
トーマ王子の乳母子(めのとご)…
西国では、社会性を身につけさせるため、王族は乳母の子である乳母子と一緒に育てる風習があると聞く。
乳母に子供がいなかったり、いても年が離れている場合などは、王族の子供と年の近い子供を、乳母に養子として育てさせることもあるという。
年が近くて幼い頃からトーマ王子と一緒に育てられていたならば、王室ゆかりの花の文様のついたユカタを着ていたことや、トーマと呼び捨てにしていたのも合点がゆく。
さて、どうしよう…
詰め所に戻りながら、俺は櫻井大尉への報告をどうするか考えていた。
ニノがトーマの乳母子だと報告すれば、情報源として、ニノの捕虜としての価値はあがる。
西国に対しての強力な人質にもなり得る。
だけど…
ニノに情報を吐いてもらうには、またいろんな責め苦を与えなければならなくて…
ただでさえ、見かけによらず強情なところもありそうなニノが簡単にいろんな情報を漏らすとは思えなかった。
ましてや、行方不明になったトーマ王子のことを心配して涙をこぼすニノが、簡単にトーマ王子に不利益をもたらすことを漏らすとは思えない。
ついさっきまで、その温もりに触れていた、ニノのことを思い出す。
潤んだ瞳を彩るまつげが、震えていた…
敵国の者だと、わかってはいる。
でもおいらは…
年が近くて幼い頃からトーマ王子と一緒に育てられていたならば、王室ゆかりの花の文様のついたユカタを着ていたことや、トーマと呼び捨てにしていたのも合点がゆく。
さて、どうしよう…
詰め所に戻りながら、俺は櫻井大尉への報告をどうするか考えていた。
ニノがトーマの乳母子だと報告すれば、情報源として、ニノの捕虜としての価値はあがる。
西国に対しての強力な人質にもなり得る。
だけど…
ニノに情報を吐いてもらうには、またいろんな責め苦を与えなければならなくて…
ただでさえ、見かけによらず強情なところもありそうなニノが簡単にいろんな情報を漏らすとは思えなかった。
ましてや、行方不明になったトーマ王子のことを心配して涙をこぼすニノが、簡単にトーマ王子に不利益をもたらすことを漏らすとは思えない。
ついさっきまで、その温もりに触れていた、ニノのことを思い出す。
潤んだ瞳を彩るまつげが、震えていた…
敵国の者だと、わかってはいる。
でもおいらは…
あの瞳を、守りたい。
その日の報告書には、『ニノは西国の王室の関係者であることは間違いないが、具体的な関係は口を割らなかった』とだけ、記載した。
その日の報告書には、『ニノは西国の王室の関係者であることは間違いないが、具体的な関係は口を割らなかった』とだけ、記載した。