Side S
「大丈夫ですよ」
安心させるように、背中をぽんぽんと叩く。
「和也様だったら、嬉しいことではないですか」
「だけど…爺さんを殺した王室の…トーマの乳母子なんだよ…もう、あの頃のカズじゃなくなってる…」
王子は、俺の体にぎゅっとしがみついた。潤王子の祖父は、トーマ王子の曽祖父に殺されている。その時から、明確な停戦協定を結ばないまま、西国とは敵対関係となっているのだ。
「まずは…大野隊長の取り調べ結果を待ちましょう」
髪を撫でると、俺の体にしがみついていた王子は顔を上げて、上目でこくんと頷いた。
大人になられたと言っても、この国の王子として、そのプレッシャーは相当のものであろう。
俺は、『ニノ』が和也様であろうとなかろうと、この人を守るだけ…
「翔さん…もうちょっと、ここにいて…?」
色白の頰を少し染めた王子は、弱いところを見せてしまって恥ずかしいのか、ぷいっと横を向いた。でも、その腕は俺の腰にしっかりと巻きついていて、俺はぷっとふき出した。
「わ、笑うなって」
「ふふ…夜にある軍の会議までは、ここにいられますよ…」
俺は王子を立ち上がらせると、そのまま傍の寝台に共に倒れこんだ。
「翔さん…」
俺の下で、うっとりと俺を見上げる王子に、キスをする。
「王子…」
「やだ!名前で呼べってば」
いつもより、このおねだりが早い。
でも、それほど、不安でいらっしゃるんだろう…
トーマも行方不明だし…
俺が…この方の不安を取り除いてさしあげたい…
完璧を目指す職人に精巧に作られたような、美しい顔の青年に口付けて、そのきらびやかな衣服を取り去っていきながら、何度も、潤、と名前を呼んだ。