Side N
ある日、トーマと仲が良かったいとこが、不慮の事故で亡くなってしまった。
トーマの悲嘆は深く、しばらく公務ができなかったほどだ。
そんなある日、行商人がやってきて、様々な品を城の広間に並べた。
その中に、その絵はあった。
亡くなったいとこに似た男が描かれたその絵を見たとたん、トーマは涙ぐんでその絵を買った。
描かれた男がトーマの亡くなったいとこに似ているということを差し置いても、その絵は人を惹きつけるものがあった。
肖像画は大体がこっちを見て静かに微笑んでいる姿を描くパターンが多いけれど、その絵に描かれた男は、背後にいるらしい誰かに首をひねって話しかけていた。男のはじけるような、少し幼い笑顔が眩しい。幾重にも塗り重ねられた絵の具が、想いの深さを表している。
この絵を描いた人は…
この男の、この瞬間の笑顔に魅了されたんだろうな…
すごい自然で、魅力的だもん…
自然と、描いた人のことに興味が湧いた。
SATOSHI OHNO
絵の隅っこに描かれたサインを頭に刻み込む。
絵は、トーマが買って2ヶ月ほど経ったある日、城から盗まれた。
トーマの悲嘆は、いとこが亡くなったときと同じくらい深かった。
悲しみに耐えながら必死に公務に励むトーマを見て、俺は考えた。
トーマの、亡くなってしまったいとこは取り戻せないけれど、絵は取り戻せる。
俺は絵を、トーマの笑顔を、取り戻してやりたい。
俺はある日、書き置きを残して城を抜け出すと、絵がこの国にあるとの噂を頼りに、この地にやってきた。
まさか、あの絵に描かれた男が、潤王子だったとは。
そして、それを描いたのが、大野さんだったなんて…
大野さんは、あの絵を、どんな気持ちで描いたんだろう。
あんなに自然に笑みを見せる潤王子の絵…
あれは、大野さんに向けられた笑みなんだろうか…
その考えは、俺の胸をちくりと刺した。