ああ、トーマ、ごめん…
俺は、この人が好きだ。
優しいのに、いや、優しいから、必死で俺に口を割らせようとしてる。
それに…
ふにゃりと笑うこの人が、
時折見せる、
瞳の強い光に、俺は抗えない…
もっと、
もっと、
俺のこと、触ってほしいんだよ…
「あの絵は…大野さんが描いたの?」
俺が聞くと、大野さんは訝しげな顔をした。俺が視線を壁の絵に向けると、彼は俺の体から手を離してその絵を見やり、合点のいったように、「おお」と言った。
「潤王子の絵?おいらが画家として仕えてるときに描いたやつだ」
「俺は…あの絵を求めて、この国に来たの」
大野さんは目を丸くした。
「マジか」
大野さんは驚いた声を出しながらも、俺から身を離すと、話し始めた俺の体を気遣ってか、ユカタの襟を合わせて体を覆ってくれた。
「あの絵、一度盗まれたんだよな…描いた後、おいらの部屋に保管してたとき…だからたぶん…画家から外された…」
そうだったのか…
俺は口を開いた。
「あの絵は、トーマが気に入って城にやって来た行商人から買って…そんで、また盗まれたんだよ」
「そうなんだ…トーマ王子が…」
大野さんは驚いた表情のまま、小さく呟いた。
「だから、俺はそれを取り戻しにきたの…まさかこっちからも、盗まれた絵だっての…知らなかったから」
大野さんは宙を仰いで、考えるような表情になった。
「王子の顔を描いた絵が盗まれたから、国のエライ人達がマズイって言い出して…取り戻すためにそういう者を雇って盗み出したんだと思う」
…そうか…
王子の顔だったから…
あの絵は、他の者の元に置いておけないと判断された。
「ニノが、取り戻すように言われたの?」
大野さんは、友達に聞くような調子で、俺に尋ねた。
この人、俺を取り調べてる感覚はなくなってんのかな…
その瞳に純粋な興味を宿して見つめられて、俺はくすぐったくなった。
するりと、何でも話しちゃいそうだな…
潤王子という人も、本当はそれを分かってて、この人に俺を任せようと思ったのかもしれない。
俺は頭を振った。
「トーマが悲しんでたから、絵を取り戻そうと俺が勝手に思って、勝手に城を出ただけ。だから、うちの城の人は、俺がこの国に来てるってしらないはず」
言ったら絶対止められてたし…
大野さんは、ふふっと笑った。
「ニノは、優しくて、勇気があんだな」
大野さんは、俺の頰をそっと撫でた。
ああ、
そんな優しい指で、
触れんじゃないよ…
本当は、心細かったし、
ずっと、不安だった。
そんな、心の底に押し込めていた気持ちを
つい、
思い出しちゃうじゃん…
「それに…ニノは、賢い…全部、ひとりで決めたって言うんだね…」
大野さんは目を細めて、俺の乱れた前髪を梳くようにして整えた。
「あ…」
大野さんの瞳の光が和らいで、髪に触れる指もやっぱり優しくて、胸がどきんとはねる。
「城で捕まっちゃったのは…城の中に絵があると思ったから、調べてた?」
「…違う…」
俺の脳裏に、月の光に照らされ、夜風に吹かれながら軽やかに舞うこの人が浮かんだ。
毎晩、絵を探す合間に、見惚れてたんだ…
ひらりと、踊るあなたに。
遠目からもわかる、
あなたの澄んだ瞳に…
大野さんはまっすぐ俺を見つめて、俺の言葉の続きを待っていた。
もっと、
もっと、
俺のこと、触ってほしいんだよ…
「あの絵は…大野さんが描いたの?」
俺が聞くと、大野さんは訝しげな顔をした。俺が視線を壁の絵に向けると、彼は俺の体から手を離してその絵を見やり、合点のいったように、「おお」と言った。
「潤王子の絵?おいらが画家として仕えてるときに描いたやつだ」
「俺は…あの絵を求めて、この国に来たの」
大野さんは目を丸くした。
「マジか」
大野さんは驚いた声を出しながらも、俺から身を離すと、話し始めた俺の体を気遣ってか、ユカタの襟を合わせて体を覆ってくれた。
「あの絵、一度盗まれたんだよな…描いた後、おいらの部屋に保管してたとき…だからたぶん…画家から外された…」
そうだったのか…
俺は口を開いた。
「あの絵は、トーマが気に入って城にやって来た行商人から買って…そんで、また盗まれたんだよ」
「そうなんだ…トーマ王子が…」
大野さんは驚いた表情のまま、小さく呟いた。
「だから、俺はそれを取り戻しにきたの…まさかこっちからも、盗まれた絵だっての…知らなかったから」
大野さんは宙を仰いで、考えるような表情になった。
「王子の顔を描いた絵が盗まれたから、国のエライ人達がマズイって言い出して…取り戻すためにそういう者を雇って盗み出したんだと思う」
…そうか…
王子の顔だったから…
あの絵は、他の者の元に置いておけないと判断された。
「ニノが、取り戻すように言われたの?」
大野さんは、友達に聞くような調子で、俺に尋ねた。
この人、俺を取り調べてる感覚はなくなってんのかな…
その瞳に純粋な興味を宿して見つめられて、俺はくすぐったくなった。
するりと、何でも話しちゃいそうだな…
潤王子という人も、本当はそれを分かってて、この人に俺を任せようと思ったのかもしれない。
俺は頭を振った。
「トーマが悲しんでたから、絵を取り戻そうと俺が勝手に思って、勝手に城を出ただけ。だから、うちの城の人は、俺がこの国に来てるってしらないはず」
言ったら絶対止められてたし…
大野さんは、ふふっと笑った。
「ニノは、優しくて、勇気があんだな」
大野さんは、俺の頰をそっと撫でた。
ああ、
そんな優しい指で、
触れんじゃないよ…
本当は、心細かったし、
ずっと、不安だった。
そんな、心の底に押し込めていた気持ちを
つい、
思い出しちゃうじゃん…
「それに…ニノは、賢い…全部、ひとりで決めたって言うんだね…」
大野さんは目を細めて、俺の乱れた前髪を梳くようにして整えた。
「あ…」
大野さんの瞳の光が和らいで、髪に触れる指もやっぱり優しくて、胸がどきんとはねる。
「城で捕まっちゃったのは…城の中に絵があると思ったから、調べてた?」
「…違う…」
俺の脳裏に、月の光に照らされ、夜風に吹かれながら軽やかに舞うこの人が浮かんだ。
毎晩、絵を探す合間に、見惚れてたんだ…
ひらりと、踊るあなたに。
遠目からもわかる、
あなたの澄んだ瞳に…
大野さんはまっすぐ俺を見つめて、俺の言葉の続きを待っていた。