「おはようございます」
扉を開けると、牢屋番の兵士が立っていた。兵士は俺が羽織ったニノのユカタを見て、一瞬驚いた表情を見せた。
「どしたの?」
「…はっ…王子が、お呼びです。広間に来るようにと」
「へ?こんな朝早く?」
俺がびっくりして声をあげると、兵士は頷いた。
「西国の者も一緒に、ということでした」
「ニノも…」
本来なら牢からも出すことのない収容者を、王の広間に呼ぶなんて…
どういうことなんだろう。
おいらに任せる、と言った潤王子の気持ちが、変わったんだろうか。
もしかして、櫻井大尉に渡すためとか…
別の場所に移動させるため、とか?
思わず、兵士からは見えない位置にある寝台の上のニノを見る。起き上がって、不安そうにこっちを見ていた。
「わかった。すぐ行く」
兵士に告げると、俺は扉を閉めた。寝台まで戻って、不安げなニノに微笑もうとしたけれど、うまくいかなかった。
「王子が…お前連れて広間に来いって」
「え…」
ニノは顔をこわばらせた。
隣に腰掛けると、ニノの、膝の上で握り締められた手をぎゅっと握った。
「大丈夫。離れないから」
俺がそう言うとニノは目を伏せて頭を振った。
「あなたの立場が…悪くなるよ」
俯くニノの顎に手をかけて、唇に軽くキ スをした。
「おいらのことなんか、心配しなくていいよ」
俺は昨夜ニノの手首から外して、寝台に放り出していた手 錠を手に取った。片方をニノの右手にはめる。
「ニノが左利きでよかった」
「あ…大野さん…」
俺は手 錠のもう片方の輪を自分の左手の手首にはめた。
「二人とも、利き手は使える」
「大野さん…」
手 錠に鍵をして、その鍵を寝台の脇の棚の、たくさんある引き出しの一つの奥の方にしまった。
「こうしとけば、簡単には離れらんないから」
俺は戸惑った顔をしたニノに微笑んで、髪を右手で撫でた。
「ここに、一緒に戻って来ない限り、絶対…一緒にいられる」
髪を撫でていた手で顔を引き寄せて、一瞬、唇を触れ合わせて離れた。
「大野さん…あの…」
ニノは、口を開いたけれど言いよどむ。その耳がほんのりピンクに染まっていた。
「なに?」
「…嬉しいけど……その……まだ…服…着てないから…」
言い終わったニノは真っ赤になって目を伏せた。
「……わあっ、そっか」
何も身につけていないままで、2人の手首をつないでしまっていて、俺は慌てて棚に視線をやった。
「あれ?どの引き出しにいれたっけ?」
「ふっ…ははっ…大野さん…」
ずらりと並んだ棚の引き出しを、片っ端から引っ張り出し探していると、背中からニノのころころと笑う声と、ふたりをつなぐ鎖の音がジャラジャラと聞こえてきた。