Side O
その横に伸びる細い廊下から広間に入ると、見張りの兵士に、王子はすぐ上の執務室にいる、と告げられた。執務室は広間の真ん中奥にある大階段を登った先に設えられた、王族や軍の幹部達が様々な業務を執り行う場所だ。
入室するのは牢屋番の任命を受けたとき以来で、扉を開けるとき少し緊張した。
「失礼します」
扉を開けると、目に飛び込んできたのは縦に長い執務用のテーブル、そしてその奥の席に窓から射し込む光を背景にして座る潤王子と、脇に控える櫻井大尉と軍の幹部達だ。
「おはよう、智さん。奥に来て」
潤王子が声を発して、俺はニノの手を引いて部屋の奥へ歩んでいった。
櫻井大尉は、俺とニノのつないだ手に目をやった。潤王子も気づいて、視線を寄越したけれど、眉を少し動かしただけで黙っていた。
「今朝、報告があった。行方不明だった西国の王子トーマが、この城に向かっている」
「え…」
俺は驚いて声をあげた。ニノもびっくりしたのか、つないだ手がぎゅっと握られた。
「トーマが…なんで…」
ニノが小さく呟くと、潤王子はニノをしげしげと見た。
「わからない。しかし、供の者をつれて、もうじきここへ着く。ひとまず迎え入れる予定だ」
トーマ王子が、直々に、この城へ…
潤王子は、言葉を続けた。
「その前に、どうしても確かめておきたいことがある」
潤王子はニノを見て、また俺に向き直った。ニノがまた、ぎゅっと俺の手を強く握る。
「大野隊長、この者の名前はわかったのか?」
潤王子は真剣な表情で、俺とニノを交互に見た。俺がニノを見ると、ニノは軽く頷いた。
俺は口を開いた。
「二宮…和也と申すようです」
その瞬間、俺とニノ以外の者の口から「おお…」というため息が漏れた。潤王子はガタっと音を立てて、椅子から立ち上がった。
「やっぱり…カズ…」
え⁈
カズ⁈
潤王子は、興奮した様子でニノに歩み寄った。ニノは近づいてくる王子にびっくりしたのか、一歩下がる。俺と繋がった鎖が音を立てた。
「カズ…」
王子が、ニノをぎゅっと抱きしめた。