Side N
俺の父母は…
「西国では…カズには家族がいるのか?」
「養父母が…俺はこの国との国境付近の村に住んでいた父母に拾われた。物心ついた時から、血はつながっていないとおしえてくれた…」
「やはり…国境付近で和也様を保護してくれた方がいたのでしょう」
爺やと呼ばれた老人がしゃがれた声で言った。
「そのうちに…城が、西国なまりのない子供を探しているとおふれがあった。トーマの乳母子として、西国なまりのない子供を探していたんだ」
潤王子は深く頷いた。
「なるほど…西国なまりが身につくとすぐに素性がばれるからね」
「で、俺の話し言葉にはあまり西国なまりがなかったから、俺の母親は城に勤める乳母になって…俺はトーマの乳母子として育てられた…」
部屋には再びかすかな嘆息が満ちた。
潤王子はかすかに微笑みながら口を開いた。
「俺のこと…覚えてる?」
「…幼い頃の思い出として、J って呼んでた同じ年頃の男の子とよく遊んでたのは覚えてるよ…トーマには、俺の他にもたくさん乳母子がいるから、その中の1人の記憶かと思っていた…」
Jと呼んでいた男の子と一緒に遊んだ思い出が、断片的にだけど脳裏に蘇ってきて、俺は笑みを浮かべた。
潤王子の、長いまつげに彩られた瞳が潤んだ。潤王子は立ち上がって、俺に近づいた。
「Jは負けず嫌いで…よくケンカした気がする」
「カズだって…相当負けず嫌いだったよ」
俺が立ち上がると、近づいてきた潤王子にぎゅっと抱きしめられた。
目の端に、つながれた鎖に引っ張られて、焦って立ち上がる大野さんが映って、「ごめん!」と思ったけれど、目の前の兄弟が愛しかった。
「カズが少し兄ちゃんだから…なんでも器用にできて…俺は羨ましかった」
「ふふ…ちょっとは器用になったの?」
「当たり前だろ…」
小さく呟いて、俺を抱きしめる潤王子の肩越しに、愛おしそうに潤王子に視線を向ける櫻井大尉が見えた。俺の視線に気づいて、人差し指を立てて唇に付け、ニヤっと笑って首を振る櫻井大尉を見て、その瞬間俺は悟った。
そうか…
あの絵の潤王子は、
櫻井大尉を見てたんだ…