Side O
執務室の入り口が騒がしくなり、兵士が1人、慌ただしく駆け込んできた。
「潤王子、西国の…トーマ王子がお出ましになりました」
ニノと抱擁していた潤王子は身を離して踵を返すと、「すぐ行く」と短く言った。
「カズも来て?」
ニノはこくんと頷いた。不安気に見えるその顔を覗き込む。
「ニノ…」
「大野さん…」
思わず手を握る。
見ていた潤王子はにっと笑った。
「智さんも…って、ダメって言っても付いて来ざるを得ないか…」
潤王子はふたりの手錠を見て、面白そうにふきだした。
「智さん、カズを連れ去られないようにしっかり見張ってて」
そうか…
ニノはこの国の王子だけど…
西国の…トーマ王子の乳母子…
もう、取り調べなんか必要ないだろうから、櫻井大尉にニノを渡す必要はなくなったけど…
おいらは…この先、ニノと一緒にいられんだろうか…
一緒にいて、いいんだろうか…
「大野さん…」
黙ってしまった俺を、ニノはじっと見つめていた。もう一度、その手をきゅ、と握ると、俺は潤王子を追って広間に向かって歩き出した。
廊下に出ると、階段の踊り場から広間にいる人々が見えた。相葉ちゃんも兵士として駆り出されたのか、牢屋番の他の兵士達と共にそこにいた。西国からの人々は15人くらいの一団だ。
「トーマ」
ニノがその中の1人を見て名前を呼んだ。
「ニノ…大丈夫か?」
トーマと呼ばれた男は、ニノと俺をつなぐ鎖にちらりと目を走らせて、心配そうな顔つきになった。
「ニノ!大丈夫なん?」
「ニノ、なんもされてない?大丈夫?」
「ニノ、むかえにきたでー」
トーマの周りにいた西国なまりの男たちが、ニノを見つけていっせいに話し出して、ニノは左手で顔を覆った。耳が赤くなっている。
「ヒナ、ヨコ、マル…恥ずいってば…」
小さく呟くニノの脇から、潤王子がすっと前へ出て階段を下りていく。その後ろにぴったりと櫻井大尉が着いていた。
俺とニノも慌てて続いた。
階段を下りると、ふたつの国の王子達は静かに対峙した。