開け放たれたままの窓から、優しい風が吹き込んできて、愛しい人の髪を揺らす。
大野さんが、自分と同じように、風に髪を乱されている俺を見下ろして、微笑んだ。
ゆっくりと、大野さんの唇が俺に落ちてきた。
俺は腕を大野さんの首に回して、そっと引き寄せる。大野さんの唇は優しく俺の唇をついばんで、ゆっくりとそこを開かせた。
夜の街の喧騒と波の音が、風に運ばれて低く聞こえてくる。
部屋に響くのは
そんな風の音と、
大野さんの唇と、
俺の唇が ふ れあうかすかな音。
それから、
堪えきれず漏れてしまう
2人の吐息。
頭の中ではまだ昨日の歓声が、聞こえる気がした。
大野さんの口付けが深くなる。
いつもみたいな、くすぶる熱をぶつけるようなキ スではなかった。いつもは、俺を欲しがってやまない気持ちを、全部ぶつけてくるような激しいキス。
でも今日は、唇を、舌を、そこにある温度を、一つずつ確かめていくような穏やかな口付けだった。時折目を開けて目を合わせると、そこに俺しか映ってなくて、どきりとする。
ああ…
やっと、ひとりじめできた。
「ニノ…」
「ん…」
「すげぇ…好き…」
「ふふ…どしたの?」
俺は照れくさくなって、唇を離して大野さんの顔を見た。静かな部屋に音がひびくんじゃないかってくらい、胸が騒ぎ出す。
「だって…好きだし…」
大野さんは困った顔になって、そのまま俺の胸に頰をくっつけた。大野さんの体重が俺に乗っかったけど、それは心地よい重みだった。
「うん…」
「ふふ…ニノ、ドキドキしてる」
大野さんは耳を俺の胸の上で動かして、その音を探し出した。
「だって…私も好きですから…あなたのこと」
大野さんは、満足そうにまたふふっと笑った。顔を俺の顔に近づけて、キスを再開する。
「また…泣いちゃったね…」
手で大野さんの頰にふ れると、彼は照れくさそうに笑った。