苦手な方はご注意くださいませ
Side O
ぐったりとベッドに沈み込むニノが、脱ぎ捨てたバスローブを手繰り寄せて体にかけた。
「寒い?閉めよっか」
「いいよ…そのままで…」
ニノは、ベッドから起き上がりかけた俺の腕をつかんで止めた。俺は再びニノの隣に寝転んだ。
「風、気持ちいいもん」
ニノは俺に背を向けて横を向き、片手で頬杖をついて、吹いてくる風に目を細めた。ニノの背中側から、窓の方を見ると、ひとつになった名残で、ピンク色に染まったままのニノの耳が眼に入る。
バスローブのかかっていない肩は小さくて、俺は後ろからニノを抱き締めた。
「もっかいすんの?」
「…あとでな」
「ふふっ…あとでするんだ」
面白そうに小さく笑うニノは、おいらの腕の中で寝返りを打って、おいらの方を向いた。
「あの…さ」
「なに」
「ニノは…やめたくなったことねぇの?」
ニノはくすっと笑った。
「今さらそんなこと聞くの」
「や…どうだったのかなって…」
ニノはいたずらっぽく微笑んだ。
「辞めたら…あなたと一緒にいられないじゃない」
「へ?」
ニノはきらきらした瞳で、唇をきゅっと結んでおいらをじっと見つめた後、
「冗談だよ。それだけじゃないから、もちろん」
と素早く言って、顔をおいらの胸に埋めた。
ふふ…
耳、真っ赤になってる…
髪を撫でると、ニノはしばらくじっとしていたけれど、急に顔をあげて、さみしそうに笑った。
「あなたはきっと…生まれかわったら嵐以外のこと…してんだろうね」
ニノは手を伸ばしておいらの頰をそっと撫でた。
「生まれ変わったらさ、イラストレーターとかしたらいいよ」
ニノはニコッと笑って言った。けれど、その瞳に寂しげな色がにじむ。
「だからね…今生だけは、嵐でいてね?」
「こんじょう?」
「今の人生ね」
おいらは、ニノがおいらの頰に向かって伸ばした手をきゅっと握った。
首を振る。
「たぶん…おいら生まれ変わっても、また同じだと思う」
頭にはてなマークを浮かばせたようなニノの髪を、また撫でる。
「よくわかんないうちに嵐でデビューして…辞めたいって思ったりして…でも、ふっきれたりして」
「ふふっ…そうなの?」
「うん」
おいらは大きく頷いた。
「だって…お前は、生まれ変わっても絶対、嵐になるだろ?したら、おいらも嵐でいなきゃ…」
ニノの見開かれた瞳の色がどんどん変わっていく。
「お前のそばにいられないんだろ?」
ニノは雫がこぼれ落ちる瞬間に、おいらの胸に再び顔を埋めてしまった。
「なにそれ…も…プロポーズみたいだから…やめてよ」
「んふ…プロポーズみたいなもんだろ」
ニノは顔をあげたけれど、その顔はどんどん赤くなっていった。
「バカ…もっ…ぁ…」
なじる言葉を口にするニノの顎をすくって、唇を塞ぐ。
バカ…は、ニノだって、そうじゃん。
ニノだって、
すげぇ、泣き虫なくせに。
「ふふっ…やっぱりまた泣いてんじゃん」
涙でキラキラした瞳になったニノが、唇を離すとおいらを見て、いたずらっぽく笑った。
「これは、もらい泣きだもん」
そう言うと、ニノは涙を拭かずに、ふふっと照れくさそうに笑った。
「よし、プロポーズも終わったし、もっかいすっか」
「へ?…あっ…」
おいらはベッドの上でニノをころんと仰向けに転がして、またその上に重なった。
「まだ泣いてるじゃないすか」
おいらはニノの濡れた頰に口づけた。
「いいんだよ。風が…さ」
おいらは言い終わるのを待てずに、ニノの唇を塞いだ。
風が、
乾かしてくれっからさ。
唇を離して、風に吹かれたニノの前髪を掬ってやると、ニノは目を閉じて、本当に、満たされたように微笑んだ。
-おわり-