BL妄想です
苦手な方はお気をつけくださいませ
「二人とも体はどう?」
二人が、こっそりくちづけしていたのを雅紀に叱られながら、やっと膳を食べ終えた頃、開け放たれた障子の影から、翔と潤が顔を出した。
「翔様…潤さんも…」
和は翔を見てまた瞳を潤ませた。
「ふたりとも先生に診てもらったよ。大野さんは完治まで時間はかかるけど問題ない。和はまだ痺れが残ってるって」
雅紀が答えると、翔は和と智の前に腰をおろした。
「和」
翔が和の頰に手を触れると、和はびくっと体を震わせた。
「大野さんから、和が毒を仕込んでいると聞いて…お前が倒れているのを見たときはもう終わりだと思った…」
和の瞳に涙が滲む。
「俺がどれだけ…肝を冷やしたかわかる?」
和を見つめる翔の瞳は優しかった。
「ご…めんなさ…」
くしゃりと和の顔は歪み、次の瞬間、和は翔の腕の中に抱き寄せられていた。
「もう、毒を服むなんて、しないよな?」
「翔様…」
和は翔の腕の中で、一瞬、その広い胸に頰をすり寄せて目を閉じた。和の小さな頭を翔は子供にするみたいにそっと撫でてやった。
「約束できる?」
翔が尋ねると、和は顔を上げて、涙を張った瞳でまっすぐに翔を見上げ、こくりと頷いた。
「よし」
翔は和を抱き寄せていた力を緩め、智の方に向き直った。
「大野さん、ありがとう。肩の負傷は、しばらくかかるだろうけど治るまでゆっくりして…今後のことは…」
翔は言葉を切った。智が眉を寄せ思い詰めた表情で、
「翔様、俺…」
と切り出したからである。しかし、智もなんと言えばいいかわからずその先は出てこなかった。和も、はらはらした表情で智を見つめている。
「わかってる。あの日から…やっと仇を討つことができたよね。今後のことは、体を休めながら、ゆっくり考えて」
翔は、七右衛門の屋敷で二人が話すのを聞きながら、自分は優秀な部下を二人失うことになるかもしれない、と予感していた。そして、自分ができないからこそ、二人にとってそれが最良の選択だと、わかっていた。櫻井家に生まれた以上、翔にとって忍びでいることは、人間であることと同義であるくらい覆せないことなのである。
「翔様、俺も…その…」
智同様に思い詰めた表情の和も、言いにくそうに切り出すので、翔はくすりと笑った。
「うん、和も…わかってる。でも、ゆっくり考えてほしい…そうだな…」
翔は考え込んだ。
「俺の故郷が上州なのは知ってるよね。草津に親戚が営む温泉宿がある。そこで湯治がてら、身の振り方を考えてきなさい」
「へ?」
止められたり、叱責されるかと思っていた智は間の抜けた声を出した。
「いいんですか…」
「痺れにも効く湯だと聞いている。和の体にとっても、うってつけだろう…文を書くから、二人で…行ってきなさい」
翔は『二人で』を強く発音した。
「そして二人で帰ってきて…聞かせてくれ。どのような答えであっても尊重したいと思ってるから」
智は神妙な顔つきで、
「は…ありがとうございます」
と呟くと目礼し、和もそれに倣った。
「それって…ふたりは…忍びをやめちゃうかもってこと?」
「相葉さん」
傍で見守っていた雅紀が声をあげ、潤がたしなめるように名前を呼んだ。