「へ⁈ ……ぁ、んっ」
俺は面食らったまま、大野さんの口づけを受け止めた。
聞き間違い…かな…
「にの…」
聞き間違いじゃねー!
大野さんの甘えたような、それでいて真剣な声に、触れ合う体はぞくりと震え、胸は嵐みたいに騒がしくなった。くちゅくちゅ言う水音がリビングに響くにつれ、体の温度がどんどん上がっていく。やめさせなきゃ、という気持ちと同時に、もっと触れ合いたい…という気持ちが湧いてきて俺は混乱した。
やば…体が…
体の変化を感じて俺はさらに焦った。もう一度だけ、ありったけの力を振り絞ろう。そう決めたとき、急に大野さんは唇を離して、次の瞬間、「にの」と呟いて俺の胸に崩れ落ちた。
「へ?大野さんっ?」
慌てる俺の声と裏腹に、大野さんから聞こえてくるのは、すうすうと平和な寝息だった。
マジかよ…
俺は力の抜けた大野さんの体から少しずつ這い出て、ソファから床へへたり込んだ。体の感覚を探る。俺は自分の頰が熱くなるのを感じた。
やっぱり、反応してる…
熱を逃そうと俺はため息をついた。大野さんは顔をこちらに向けてすやすやと寝ていた。
俺をこんな体にしたくせに、平和に寝てからに。
どうしてくれんの…
まじ、サイテーだ、こんな時に…
こんな時に、気づくなんて…
俺は唇に指を当てた。その一瞬で蘇る大野さんの柔らかな唇の感触が、また、欲しくなる。
俺、
この人のこと、
好きなんだ…
俺は、大野さんの、三十代の男にしては丸い頰に、そっと唇を寄せた。