LC/MSで頻繁に観測されるバックグランドイオン-2 | 日本一タフな質量分析屋のブログ

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日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

先月、LC/MSで頻繁に観測されるバックグランドイオンに関する解説を書きました。これは、正イオン検出で観測される例でした。

 

一方、負イオン検出のLC/MSでも、既知化合物由来のイオンがバックグランドとして観測される事があります。

負イオン検出のESIやAPCIで、m/z 255や283のイオンを見た事はないでしょうか?

前者はパルミチン酸(C16H32O2、モノアイソトピック質量256.240234 Da)、後者はステアリン酸(C18H36O2、モノアイソトピック質量284.271515 Da)の[M-H]-です。

それぞれの[M-H]-の精密質量は、255.23293、283.26422となります。また、それぞれに二重結合が1つ入った、m/z 253, 281イオンが検出される事もあります。下の図は、m/z 255, 283イオンが検出されているLC/MSの負イオンでのバックグランドマススペクトルです。

 

 

これらのバックグランドイオンは、移動相溶媒(有機溶媒側)にメタノールを使った時に観測され易いようです。

個人的な推測ですが、メタノールに(HPLCグレードやLC/MSグレードにおいても)僅かに含まれているのではないかと考えています。

 

日本電子に居た時、HPLCグレードのメタノールをGC/MSで測定した事があります。

パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルが検出されました。メタノールに微量に含まれるパルミチン酸とステアリン酸が、インジェクターの熱によってメチル化して、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルに変化したのではないかと推測しました。

 

LC/MSで観測されるバックグランドイオンは敬遠される傾向がありますが、私個人としては、強度がそれ程高くなければ、安定して観測されるバックグランドイオンはむしろ歓迎します。

質量分析計の質量校正が正しく行われているか否かの指標になるし、TOF-MSのロックマスとしても使えるからです。

 

以前LC/MSのコンサルティングで伺った研究機関の担当の方は、LC-QTOF-MSを使っていて、以前はロックマスを使っていなかったのですが、私が書いた可塑剤由来のバックグランドイオンの記事を読んで、そのイオンをロックマスとして使ったところ、観測されるイオンのm/z値の確度が各段に上がったそうです。上記の脂肪酸由来のイオンも、安定して観測されていればTOF-MSのロックマスとして有用だと思います。