今回は意識のなかで、自由意志をテーマに語って見ましょう。

自由意志とくれば早速、カントの純粋理性の二律背反(アンチノミー)を思い起こされる方がいらっしゃるのではないでしょうか。三つの中の、「自由と必然」です。

誰でもが感じているのではないでしょうか。この世の現象は全て因果関係からなりたっており、”鐘が鳴るのは鐘を叩いたからであり”、”雨が降るのは、太陽のエネルギーで水が蒸発した結果だと”。台風が発生する原因とか、地球温暖化の対策とか、御存知のカオスが絡んでおり、予測困難ですが、ただ人間が全ての情報を得ていないからだと考えられています。そういう意味で物理界はクローズされていると考えている人が多いのです。


しかしこれ以外の物理現象が、まま取り上げられる時があります。テレパシーで代表される超常現象です。現代の物理学では解明されない問題です。多くの人に認知されていながら不思議の文字で多くの人は追及を諦めています。これらそれらで、意識が物理現象でないと考えている人もいます。


さらに、いや物理現象は因果関係だけではないよといわれています。良く知られた量子現象です。量子状態の重ね合わせ、不確定性理論、量子の絡み合い等々。量子の世界では、ニュートン力学が使えないのです。ボールの球がどこに飛んでいくのかわからないようなものです。だからバットを振れば必ずあたる保証がないのです。いつも同じ球を投げてもです。そういう意味では物理界はクローズされていないのかも知れません。いやクローズしていないのでしょう。


そこで意識における自由意志について考えて見ましょう。意識も脳内情報の現われと考えていますから、ここではオカルト的に自由意志を取り扱いません。すると自由意志と脳内神経活動の相性が悪く感ぜられます。いくら複雑なシステムであっても因果関係が成り立っているのであれば、自由意志・自由選択などありえないのではないかとの懸念です。因果関係だけで考え、カオスの影響により因果関係が見えにくくなって、あたかも自由意志があるかの如く感じているのでしょうか。


しかし、”おいちょ・ちんちろりん・丁半賭博”のような賭け事において、コマを張るときの決断は、どう考えても因果関係とはそぐわないように思われます。そこで物理現象のなかの量子効果を恃んで見ようと思うのはおかしくはありません。しかしそれでうまく説明が出来るでしょうか。


意識ハンターで有名はアメリカの哲学者サールは彼の著書のなかでこう言っています。「量子力学を自由意志の議論に導入するのは全くの見当はずれだとおもってきた。」とあります。また「意識の説明には量子力学的な構成要素が入っていると仮定せざるをえない。」のだが「ランダムとは異なる非決定性を導く」ことは「とてもありそうもない」と言っています。つまり「自由意志はランダムであることとはちがう」といっているのです。

   マインド 心の哲学 ジョン・R・サール 朝日出版社



以下は私の考え方です。

サールも言っているように私も、意識の説明には量子力学的な考慮が必要と思います。脳内ニューロン活動は分子・イオン現象であるのは教科書的な知識です。かつその活動はニューロンが発火するか・しないかにより活動のモードが変わります。するか・しないかが決定的に大事なのです。この発火現象に量子効果が絡んでいると仮定することに、こだわりはないと思われます。すると、ランダム性が脳内現象として起こっていると理解してもおかしくはありません。するか・しないかに量子のランダム性が絡んでいる場合もあるということです。


するとこのランダム性が自由意志とどのように関係しているのかを考えなければなりません。例えばあまりにも荒っぽい例で申し訳ないのですが、理解を容易にするため、丁半賭博の丁・半の決定を考えてみます。あなたは考えに考えて「ええい!今度は丁や!」と決めたとします。そこで丁半の決定がニューロンの発火か非発火に相当するとします。(あまりのもあらっぽい?)発火・非発火はランダムに起こります。今回はたまたま丁に相当する発火が起こったとします。結果丁を選びました。


ところが丁を選んだのはいいのですが、あなたの意識は「自分が丁を選んだ」と納得しているのです。ランダムとは関係ありません。自分が納得する以前に脳は行動を決定しているのでしょうか。そして、そんなことがあるのでしょうか。


そこで登場するのがリベット博士です。彼は著書の中で世界的に有名な彼の実験を紹介しています。

  マインド・タイム  ベンジャミン・リベット 岩波書店

実験は、”意識して行動を起こそうと思った0.5秒前に,行動を起こす信号が前もって脳内に見つかった”、という実験です。意識する前に,脳は予め用意しているという事実です。この実験結果は脳科学者に衝撃的は影響を与えたようです。そしてその解釈も色々提案されています。でも私は単純に脳が予め決定した決断を、後追い了解しているのが、脳の通常の活動であると解釈するのが一番納得できると思います。


脳は独立・自立システムです。自分さえよければ・自分さえ矛盾が無ければそれでいいのです。あなたも日常生活のなかで、脳は適当に納得しているなと感じた事はあるでしょう。全ては納得です。だから脳は”丁”と勝手に決めた量子現象を事後了解して涼しい顔をしているのです。