《政策を持っているおトーさん》
※増え続けていると言う
コロナ禍で、何かと大好きな家にずーっといる、所謂、おトーさんと呼ばれる人物。
定年退職したその当時には、
なんとか家から出ろ!
なんとか別の仕事を探してこい!
と言った感じの、家族の冷たい視線に、文字通りアタフタしていた。
そこで、とりあえず本屋に行って、午前中の暇を潰して家に帰ると、妻はカルチャーに行っていて誰もいない。
お昼をどうするかと考えた挙句、元の会社近くの、よく利用した蕎麦屋を覗きに行く。
ホントに行動範囲が狭いのである。
元いた会社の部下が蕎麦を啜っているのが見えた。
何も悪い事をしていないのに、覗いただけで、逃げる様に蕎麦屋を後にする。
仕方なく、コンビニで弁当を買い家に戻る。
新聞を隅々までチェックして、足の爪を切る。
そんな日々を送っていたら、コロナウィルスが蔓延。
国からの自粛要請で、おトーさんは、正々堂々と家に居続ける事が出来る様になった。
おトーさんはテレビの前に鎮座して、同じく自粛中の妻を横目に見ながら、ワイドショーを睨み続ける。
コメンテーターが、持論を展開し、それについて別のコメンテーターが意見を言う。すると、別のコメンテーターが被せる様に意見を言う。被せられたコメンテーターがまた被せ始め、MCがまあまあと割って入る。
そうすると、突然、おトーさんは、頼まれてもいないのに、テレビに向かって持論を展開し始める。
統計では、『志らく』MCの番組で持論を展開するおトーさんが多いそうだ。(五十嵐調べ)
テレビでは、話題がすっかり変わっているのに、おトーさんは、まだ前のテーマについて張り切って持論を述べ続けている。
その内テーマが移った事に気がつき急に黙る。
どっちにしても誰も聞いてないんだから続けりゃいいのに。。。
そのテーマが気に入らなかったと見えて、隣の妻に聞きもせず勝手にリモコンで別の番組に変える。
変える時は大体『羽鳥さん』MCの番組である。おトーさんは自分が羽鳥さんを育てたみたいに思っている。単純に若い頃から見てるだけなんだけど、こんな、自分の名を冠とする番組が持てるなんて…。
の割には『大下容子』については、何の感想も持っていない。
おトーさんにとっては、突然出て来たベテランアナウンサーなので、何の感慨も興味も無いのだ。
(五十嵐調べ)
羽鳥さんに変えた途端、おトーさんの好きなテーマになった。
妻は引き続き、新聞をじっくりと見るフリをして、絶対目を上げない努力をしていた。あまつさえ、何か気になる記事を見つけた!の、様な演技までして頷いたりしてみる。
おトーさんとは目を合わせない!と言う強い意思が背中にみなぎっている。
おトーさんは再びテレビを睨みつけると、ひときわ大きな声で、コメンテーターに反論をし始めた。
そのコメンテーターは、政治に関わる仕事をしている人だ。
おトーさんは、コロナ禍における、政治家の失態について、怒鳴る様に叱責をする。
そして必ず、自分だったらこうする!!と続ける。
細かい自分なりの政策を、妻に聞かせる様に、大声で話す。
妻は家の中にいるにも関わらず、マスクを着用し始める。更に表情がおトーさんに悟られない様にする為に…。
トイレに行こうと妻が立った。
すかさずおトーさんは、
「どこへ行く!」と尋ねる。
気分はすっかりコメンテーターで上から目線である。
「トイレだよ!」
と妻に怒鳴られて、現実に戻るおトーさんなのであった。
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