女の人生に静かにスポットを当て、その内に秘めた強さをみつめつづけた絵本作家 バーバラ・クーニー(1917‐2000)。
彼女の絵本は どれも実に美しい。
青い海も
花の咲きみだれる丘も
木々も
街並みも
建物、室内調度品にいたるまで――
ページをめくりながら眺めているだけで、ため息が出るほどだ。
しかしながら、バーバラ・クーニーはただ「美しい絵本」を手がけた作家だったのか?といえば、それは違うと思う。
1960〜70年代、彼女の国アメリカでウーマン・リブ(女性解放運動)が起き、世界中に広まった当時から、
クーニーは「あたらしい女性の生きかた」を、絵本という表現形式を用いて静かにうったえ続けた数少ない絵本作家の一人だったのではないか。
絵本には、クーニーの家族の歴史、エピソード、彼女自身が目撃した時代と社会が映し出される。
そのすべてが美しい芸術、「絵本」という形式をとった総合芸術であるのと同時に、アメリカ女性史の1ページ、未来に託された〈時代の記録〉であるように思えてならない。
代表的な3冊を。
***
裕福な家庭で育つ少女が主人公の絵本。
満たされた生活、贅沢な結婚式、ホテル暮らし、オペラ……
少女が見たもの、耳にした言葉、大人たちの振る舞いが淡々と描き出される。
「女の子は、口笛なんかふかないものなのよ。」
「そのうち わたしたちも、夫人とよばれたいとおもうようになるのかもしれないわ。」
……
のちに画家となるこの少女(モデルはバーバラ・クーニーの母親だ)が見た大人の世界、不自由な女たち、そして
彼女自身が選んだレボリューション――。
《そうよ、すばらしい絵をかくのよ。》
《わたしはわたしよ。》
◇『おおきななみ ブルックリン物語』(バーバラ・クーニー作/掛川恭子訳 1991年 ほるぷ出版)
***
《世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしなくては》
大好きな祖父との約束を胸に生きるミス・ランフィアス(通称 ルピナスさん)、彼女の生涯を追う物語。
ルピナスさんは広い世界へと乗り出す。
仕事をし、人と出会う。
その目でたしかめる。
その足で歩く。
そして晩年、花の種をまくのだ――。
凛とした佇まい、静かなその横顔に心を打たれる。
ひとり。
誰もが、たとえ誰とともにいたとしても、わたしたちはひとりだ。
寂しさや虚しさでなく、むしろ清々しささえ漂うこの事実を、ルピナスさんの絵本は教えてくれる。
◇『ルピナスさん』
(バーバラ・クーニー作/掛川恭子訳 1987年 ほるぷ出版)
***
《わたしは いつも わたしでしょう。
わたしは いつも あたらしくなるのよ》
高らかに謳う少女の絵本がある。
◇『ちいちゃな女の子のうた “わたしは生きてるさくらんぼ”』
(バーバラ・クーニー作/デルモア・シュワルツ文/白石和子訳 1981年 ほるぷ出版)
※2019年9月同社より新版
《わたしは なりたいとおもったら
いつでも
あたらしいなにかに なれるのよ。》
1950年代に詠まれたデルモア・シュワルツの詩、少女の内なるさけびを、1970年代のバーバラ・クーニーが瑞々しく描き出した逸品だ。
春、夏、秋、冬
四季は巡る。
時代は巡る。
わたしたちは、
いつだって
あたらしくなれるのだ。
***
18の頃、大学の図書館で『ルピナスさん』と出会ったことが、私の活動の動機となっている。
大切な一冊だ。
〈I have to do something to make the world more beautiful.〉
世の中をもっと美しくするために、わたしにもなにかできるだろうか?
ずっと 考えつづけている。
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絵本コーディネーター東條知美