点滴のなぞ
私は2006年5月に緊急入院をしました。
入院当日は、朝早く起きて2リットルの下剤を飲みましたが、ただ事ならぬ大出血でした。
診断書には大腸憩室出血と書かれていましたが、出血場所が不明で体中のどこを探しても、それらしい場所が発見できませんでした。
治療計画書には、止血剤と24時間点滴で腸内出血が止まるのを待ち、その間に可能なかぎり検査をおこなうと書かれていました。点滴は、94gのブドウ糖が入った2リットルの輸液を24時間連続投与するものでした。
点滴中の患者は空腹感がないことが知られています。
私の場合も、担当医から口さみしかったら透明の飴なら食べても良いと言われていましたが、良い経験なので、1滴の水もとりませんでした。
ブドウ糖の供給量は、1日あたり94gでした。大脳のブドウ糖消費量は6g/時ですから1日に 144gが必要な筈です。1日に94gの点滴では不足するはずですが、一日に数回、血糖値はいつ測っても115mg以上ありました。ベッドで安静にしている場合の大脳のブトウ糖消費量は1時間あたり4gで良いようです。
空腹時血糖値
私の空腹時血糖値は70-110です。起床時の血糖値は普段はだいたい80mg位です。
私は10日間点滴を受けましたが、血糖値はいつも115mgでした。
私は大量失血していたので、白血球、赤血球、血色素、ヘマトクリットのすべてにLの警告が出ていましたが、血糖値だけはHのマークが出ていました。
もう何日も口から1滴の水も、1個の飴玉も食べていないので、胃の中は空っぽなのですが、血糖値は正常範囲よりも僅かに高いのです。
1日の糖質摂取量が100g程度であっても、安静時の条件下では、血糖値を高く保つことができます。それが、点滴患者に空腹感がない理由です。
どんな肥満体のどんな大食漢でも、病床で点滴を受けると、誰もお腹がすいたなどと文句を言わなくなります。点滴のような状態では、脳が空腹を感じない仕組みになっているからです。
もしも、このような状態が再現できる方法があれば、空腹感の少ない理想的なダイエットが可能になります。
これから、その理由について説明したいのですが、その前にいくつか確認しておかなければならないことがあります。
レプチン
数年前にNHKためしてガッテンで、食欲をコントロールしているのは脂肪細胞から放出されるレプチンだという説が放送されました。
このときの放送を私は食い入るようにして見ましたが、この放送は大きな影響を与えたようで、インターネット上のたくさんのサイトでこの説が引用されました。今でも検索すると、食欲のコントロールをしているのはレプチンだと解説するページがたくさんヒットします。でも、多くのページの解説は間違いです。
毎日の食欲をコントロールしているのはレプチンではなく、血糖値です。
点滴患者が何も食べさせてもらえないのに空腹感がないのはレプチンのせいではなく、94gのブトウ糖を点滴注射しているからです。
たとえば、朝食をたべると、約50g位のブドウ糖が含まれています。
50gのブドウ糖のうち15gは血液中に滞留しますが、残の35gは肝臓に取り込まれて蓄えられます。
そして、血液中に滞留していたブトウ糖が大脳で消費されると、肝臓に蓄えられていたブトウ糖が溶け出してきて、血糖値が保たれます。
さらに時間が経過して、血中のブドウ糖濃度が70-110以下に下がってくると、脳が空腹信号を出して次の食事を促します。
1日に3回、このようにして食欲を起こして食事をさせているのは大脳の視床下部で、レプチンや脂肪組織ではありません。
大腸出血は10日間で止まり、その後の11日間は1600Kcalのダイエット食をとりました。
21日に間の入院で、ちょうど3Kg痩せました。
この入院の経験は、その後の私のダイエットの考え方に大きな影響を与えました。