数年前に、低インスリンダイエットが大流行りました。その理論は次のようでした。


白米やジュースなど、糖の吸収が速い食べ物は、血糖値が急上昇するのでインスリンの過剰分泌を招きます。
インスリンは、体脂肪が糖を吸収するのを促進します。
ですから、白米やジュースなど、糖の吸収が速い食べ物を食べると太ります。


玄米や雑穀米など、糖の吸収が遅い食べ物はインスリンの分泌を招かないので、いくら食べても太らないという考え方でした。


しかし、低インスリンダイエットには誤りがありました。

1つ目の誤りは、低GI値の食品はいくら食べても太らないということでしたが、これは誤りです。
糖の吸収の速い食品は、一度にたくさんのインスリンが分泌されますが、その代わりに吸収が短時間で終わってしまいます。

一方、糖の吸収が遅い食品は一度に出るインスリンの量は少ないのですが、吸収が終わるまでに長い時間がかかります。
したがって、低GI値の食品も高GI値の食品も、食べる量が同じであれば、分泌されるインスリンの量はトータルでは同じになるのです。
だから、低GI値の食品ならいくら食べても太らないというのは間違いなのです。


グリセミック指数(GI値)
1980年代にアメリカのDr.ウォルバーという人が、食品の吸収速度を糖尿病試験に用いるブドウ糖液と比較して表す方法を発表しました。


糖尿病の負荷試験では、75gのブドウ糖液を飲み、その時の血糖値の上昇によって病気かどうかを判定します。
グリセミック指数では、糖尿病試験のブドウ糖液と、比較食品の血糖値の上昇を比較して、食品の吸収速度を表します。





上図はグリセミック指数です。
たとえば、白米ご飯が消化されるには、まず、でんぷんが消化酵素のアミラーゼによって麦芽糖に分解され、それが、さらにブドウ糖に分解されてから小腸で血液中に吸収されます。

このように白米ご飯の消化には手間がかかるので、ブドウ糖の1.4倍の吸収時間がかかります。


玄米ご飯はさらに時間がかかり、ブドウ糖の2倍も時間がかかります。


Dr.ウォルバーは、入院中の肥満症患者にグリセミック指数の低い食品を与えて実験をしました。
その結果、グリセミック指数の低い食事をしたグループは、普通のダイエット食をしたグループよりも良い成績が得られました。
Dr.ウォルバーの実験でわかったことは、同じカロリーなら、低GI値の食品は腹持ちが良いことです。
そして、空腹感が少ないので、間食が少なく、その結果、良い成績が得られたのです。

高GI値の食品は血糖値の急上昇を招きます。その結果、すぐにお腹がすくので、食事制限を守るのが難しくなります。


ボストン大学チャイルド病院の実験


ボストン大学チャイルド病院では、肥満症で入院中の子供を低GI値の食事を与えるグループと、高GI値の食事を与えるグループに分けて、同じカロリーの食事を与えました。

そして、どうしてもお腹がすいたときは、病院の売店で買って食べても良いことにしました。

結果は、低GI値グループの子供たちは与えられた食事だけで我慢ができましたが、高GI値のグループは買い食いをする子供が多く、ダイエットの成績が良くありませんでした。


国連WHOの定義
Dr.ウォルバーのグリセミック指数が発表されてから、多くの医師がこの方法を採用しました。
また、食パンの吸収率を100として、その他の食品の吸収率を簡易的に表す方法を提案する医師があらわれました。

この簡易型では食パンのGI値が100でしたから、ブドウ糖のGI値が131になり、これらが混在した結果、グリセミック指数の間で混乱が生じてしまいました。

その結果、現在では、国連WHOによってグリセミック指数はブドウ糖液50gを基準にして比較する方式が定義されています。


低インスリンダイエットの誤り
GI値とは、糖質50gを含む食品と、ブドウ糖液50gを食べくらべて、その血糖値の上昇パターンから糖の吸収速度を表すものです。


糖質50gを含む食品とは、食パンなら111g、白米ご飯なら136gです。
測定は毎回空腹時に測ります。
空腹時に50gのブドウ糖液を飲んだ時の血糖値の情報パターンと、空腹時に食パン111gを食べたときの血糖値のパターンから吸収の速度を比較します。


それでは、人参ではどうでしょうか?

人参で50gの糖質を得るには、780gも食べなければなりません。

780gもの人参は、いくら空腹でも食べられません。そこで、人参のGI値を測定するには、人参をミキサーでジュースにして飲みます。

上のグリセミック指数の表をもう一度見てください。

人参のGI値が85となっていますが、これはジュースにして飲んだからです。

もしも、人参を生のまま齧ったり、または煮て食べたら、普通の根菜と同様にGI値は40くらいになるはずです。


さて、低インスリンダイエット理論のもう1つの誤りは、肉や魚にGI値があることです。

しかし、標準食品成分表を見ればわかりますが、肉や魚には炭水化物が僅かしか含まれていません。
牛肉100gに含まれる糖質は0.1gです。

いわし100gに含まれる糖質は0.7gです。

たまご100gに含まれる糖質は0.3gです。

肉や魚には、ごく僅かの糖質しか含まれていませんから、WHO定義のGI値の測定はできないのです。

実際に、低インスリンダイエットの初期の本には、肉や魚などのGI値は載っていませんでした。


インターネット上に、肉類や魚類のGI値が記載されているサイトがいくつも見受けられます。

これらのサイトは低インスリンダイエットのマチガイを鵜呑みにしているサイトです。

つぎのように書かれているサイトも信用できないサイトです。


・空腹時に甘いものを摂ると、血糖値が急激に上昇する。
これは逆です。

糖質を食べると、糖質はまず肝臓に取り込まれて蓄えられます。

ですから、空腹時には甘いものを食べても血糖値はあまり上がりません。

ところが、お腹が満腹のときは、甘いものを食べると、もう肝臓には入らないので血糖値が急上昇します。
お腹がすいているときは、血糖値が急上昇しません。満腹のときは、少し食べても急上昇するのです。


・インスリンは肥満ホルモン?
インスリンは血液中の糖を肝臓や筋肉が取り込むのを助けるたいせつなホルモンです。
肝臓や筋肉は血液中の糖をインスリンに助けをかりて取り込んで貯蔵します。

肝臓や筋肉が満タンになったときだけ、もう貯蔵場所がないので体脂肪組織がインスリンの助けをかりて糖を取り込むのです。
肝臓や筋肉が満タンで、かつ、それ以上食べるときにだけ肥満するのです。

インスリンに肥満の作用があるわけではありません。


・玄米や雑穀米は低GI値なのでいくら食べてもかまわない。

低GI値の穀類も、高GI値の穀類もも、食べる量が同じであれば必要なインスリンの量も同じです。
低GI値の食品はいくら食べてもかまわないということはあり得ません。



吸収までの時間

栄養が吸収されるまでに時間は血糖値を調べるとほぼわかります。

血糖値が上昇したあと、元の空腹時の血糖値まで下がれば吸収が終わったことになります。




この人の場合、砂糖水を飲むと30分で血糖値がピークになり、砂糖20gがすべて吸収されるまでに2時間かかっています。

全粒粉パンは、1時間でピークに達し、吸収が終わるまでに3~4時間ほどかかります。

お餅の消化は特徴的で、最初の30分間は血糖が上昇せず、1時間半でピークに達しています。

注目したいのは、ゆで卵とバターです。ゆで卵とバターには炭水化物が含まれないので、血糖値が上昇しません。

低インスリンダイエットのサイトに、ゆで卵のGI値が30、バターが30などと記載されていますが、卵やバター、肉類には炭水化物が含まれていないので、GI値の測定ができないのです。




下図はいろいろな食品の血糖値の変化を表します。