食欲や空腹のしくみについて、いくつかの勘違いが見受けられますので、整理してみたいと思います。


血糖値
脳のエネルギーはブドウ糖です。
脳にはエネルギーを貯蔵する場所がなく、肝臓に貯蔵されています。
肝臓は脳や全身の細胞のためのエネルギーを半日分だけ貯蔵できます。
肝臓は半日分のエネルギーしか貯蔵できないので、動物や魚は基本的に一日に2回食事をします。
日本人も400年ほど前までは、朝夕の2食性でした。


肝臓は、ブドウ糖をグリコーゲンに変えて貯蔵しています。
脳や全身の細胞は、血液中に流れているブドウ糖を利用します。
血液中のブドウ糖濃度が低下すると、肝臓はグリコーゲンをブドウ糖に変えて血中に放出します。
肝臓は、このようにして、脳と全身の細胞にエネルギーを供給しています。




食後、時間が経過して、肝臓のグリコーゲンが残り少なくなると、血糖値が低下します。
脳を流れる血液のブドウ糖濃度が低下すると、脳は自分のエネルギーが少なくなってきたとして、空腹信号を出します。
空腹信号を受けると、消化器官が蠕動を始めるので、お腹がぐ~と鳴ります。
このようにして、脳は自分のエネルギーを確保しています。
これが、私たちの一義的な空腹のしくみです。


グレリン
最近になって、胃からグレリンと呼ばれるホルモンが分泌されていることがわかってきました。
グレリン濃度が高くなると、私たちは空腹を感じます。
食事をすると濃度が低下し、空腹になると上昇します。


下図は、炭水化物食、蛋白質食、脂質食を食べたときのグレリンの濃度変化です。

菓子パンやスイーツなど炭水化物を食べると、グレリン濃度が大きく低下しますが、4時間くらいで元の濃度まで上昇し、さらに上昇すると、脳の摂食中枢を刺激して、耐え難い空腹感を起こします。



一方、焼肉などの蛋白質食やバターなど脂質の多い食事では、グレリン濃度はあまり低下しませんが、その代わり、6時間たってもグレリン濃度がまだ低下したままです。

ですから、菓子パンやスイーツなどはすぐお腹がすきますが、焼肉や魚のてんぷらはお腹がすかないのです。


アメリカで流行のゾーンダイエットは炭水化物、蛋白質、脂質を4・3・3の割合で食べますが、ゾーンダイエットのように、炭水化物の割合を少なくすると、空腹感の少ないダイエットができます。


レプチン
レプチンは強い食欲抑制の作用を持ったホルモンです。
全身の脂肪細胞はレプチンを作って血液中に常に放出していて、脳の食欲中枢を抑えています。
もしも、ダイエットで痩せた結果、全身の脂肪細胞が少なくなりすぎると、放出されるレプチンの量がすくなくなります。
血液中のレプチン濃度が低下して、途切れ途切れに脳に届いているときに、ストレスなどがあると、脳に届かなくなってしまうことがあります。
そうなると、それまで抑えられていた食欲中枢が刺激されて、猛烈な食欲がわくことになります。




この食欲は、多くの場合、ストレスと一緒にやってくるので、ストレスが原因と勘違いしやすいのですが、実は脂肪細胞が少ないのが原因です。事実、ストレスがないときでも食べてしまいます。

レプチンが原因の場合、食事をして血糖値が上がっても、摂食中枢の刺激はそのままなので、いつまでも食べ続けます。


男性の平均的な体脂肪率は17%、女性の平均的な体脂肪率は28%です。
男性でも女性でも、体脂肪率が極端に低下すると、食欲が止まらなくなります。
血糖値やグレリンは、一日に3回、変動を繰り返していますが、レプチンの場合は痩せすぎが原因ですから、空腹が何日間も続きます。


膨満感と満腹感
満腹感と膨満感を混同している人が多いように思います。
たとえば、空腹時にベットボトル1本の水を飲むと、しばらくは空腹を忘れます。
しかし、水を飲んでも血糖値が上がらないので、膨満感があっても、空腹に変わりありません。


食事はよく噛むことが大切で、噛む回数に比例して満腹感が増すと言われます。
しかし、それは炭水化物を食べるときの話です。
炭水化物は噛む回数に比例して、満腹感が早くきますが、肉や魚はいくら噛んでも血糖値が上がるわけではありませんから、満腹感がきません。


炭水化物食の場合、食後2~3時間が経過して、胃が空っぽに近づいた頃が、血糖値が高くなる頃に当たります。つまり、膨満感と満腹感は違うのです。

お腹がいっぱいになるまで食べないと気がすまない人が、満腹感と膨満感を区別する必要があります。


「胃もたれ」のキーワードで検索すると、たくさんの胃腸クリニックがヒットします。
そして、たいがいの胃腸クリニックのサイトに、夕食は就寝の3時間前までに食べると書かれています。
就寝の3時間前に夕食をたべると、寝るときにはお腹がぺったんこになっています。
しかし、空腹ではありません。
就寝の3時間前に夕食をたべると、胃腸の健康に良いし、眠っている間の基礎代謝で体脂肪がどんどん燃やされます。
寝るときに、お腹をさすってみて、ぺったんこになっていたら、今日のダイエットは大成功です。